第三十五話 お城の部屋で
ステテコとソックスと肌着だけで毛布被って寝てたら、肌寒くなって目が醒めた。
部屋に一人。
近くに厚めの茣蓙と木桶に入れられた水、それと布が置いてある。
なんだこれ?
あ、これが噂に聞く、風呂の習慣が無くて、部屋で少しの水で身体を拭うって奴かな?
帰ってきたら訊いてみよう。
飯でも食いに行ってるのかな?
腹減った。
持参した缶詰を開けて、十徳ナイフからスプーンを引き出して、缶から少しずつ掬って、もそもそ食べる。
栄養錠剤をアルミチューブ入りゼリーで流し込み、ペットボトルの茶をマグに注いで口中を洗い流す。
晩飯終り。
ゴミはゴミ袋へ、と思ったが、道具容れもろとも焼けて失っていた。
自転車の籠にはたしか少しだけ入れてた筈だけど、底の方だったし、気忙しくて手許に携帯する分を補充し忘れてた。
ゴミの処理に困った。
チューブは蓋がついてるからいいが、缶詰に残ったタレが発する油っこい匂いがシコーキの部屋を汚染してしまう。
まずい、と今更焦りだす。
とりあえず、空き缶の蓋を缶の中へ押し戻して、身体に毛布を巻きつけると部屋の外へ。
厚い木製の扉には無骨な鉄枠の補強がされている。
箪笥にあるような鉄の環の大振りのやつをぐっと引き寄せて開ける。
正面に石の壁。
部屋から首を出して見回す。
石造りの廊下には、互い違いに扉が並んでいる。
見分けが付かない。
ちゃんと数を数えないと、迷子になって戻って来られなさそうだ。
お城に入ってきた時はもう少し騒がしい感じだったが、今は静か。
左右どちらを見ても、遠くの角に兵士が一人ずつ立っているばかりで、取り付く島もない感じ。
しかたないので、廊下にゴミ持った手を出したまま、部屋の戸口の床に座り込み、シコーキの帰りを待つ。
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暫くそうしていると、少しずつ人が廊下に姿を現し、あちこちの扉へ入ってゆく。
近くへ来る者も居て、ちらっと見てきたりするので、視線が合うと目礼しておく。
扉がちゃんと閉められないままに誰も彼もが雑用や私事をこなしているようで、急に喧しくなってきた。
通りすがりににやけた笑いで手を振ってくる男も居る。
女も通る。
少年や少女も通る。
更に暫く遅れてシコーキもやっと戻ってきた。
「あ、おかえりー」
「ん? どうしたの、そんなとこで」
「起きたら一人だったから、飯くってたの」
「あらっ、誰かに訊いてくれれば良かったのに。もう夕食は終わってしまったわ。身体は拭いた?」
「あーやっぱりその為の水なんだ。そうじゃないかとは思ったんだけどさー」
「その、手に持ってるのは? それが食事なの?」
「そそそ、鉄の容器に閉じ込めた調理済みの食べ物。これはただの食べ終わったあとのゴミね。中身にかけてあった味付け汁の匂いが部屋に篭ったら悪いから、こうして待ってたの」
「気遣い有難う。じゃあ、えっと」
シコーキが部屋の中に入り、隅でごそごそ、と戻ってきて
「これに乗せて」
盆を出したので、乗せると、シコーキは部屋から出ていって、誰かをつかまえて、ゴミ処理をさせていた。
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水で身体を拭い、持参した着替えを着る。
洗濯とかお手洗いとか、説明を聞いて処理。
洗い物はシコーキの従者さんに任せた。
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シコーキが盆に載せて持ってきてくれていた賄いを二人でつまみながら、雑談タイム。
その一方で俺は、一気に大量の整備が必要になった装備類をメンテしていく。
腰周りの道具入れごと色々やられたが、自転車の籠には色々少しずつ積み込んできたので、なんとかなる。
意外とゴミ袋のような必須のものが、適当な大きさのを補充して無かったりしたわけだが。
またうっかりした。剣を襤褸で磨いたは良いが、家から砥石持ってこなかったので、研ぐことができない。
困っていると、シコーキが、これで良ければと、細長い楕円形の石を貸してくれた。
それと、今回の取り分が銀貨600枚近くになるが、どうするかの話。
金貨5枚と銀貨100枚近くというのが、持ち運ぶには最も楽だ。
けれど金貨で持つと、銀貨に両替する必要が出た時に手数料がかかる。
手数料は時と場所によりレートが異なるが、大体5~15%の範囲で、それ以外は例外的。
金貨一枚懐にあったとして、それで支払をして受取ってくれる相手ならいいけど、銀貨でないと受取らないという相手だと、最悪払えないなんてケースも。
手数料がもったいないので、全部銀貨で貰うことにした。
銀貨600枚でも革袋には収まるし、増えすぎたら家に置いてくれば良い。
この前手に入れた銅貨とは別にしておくべきだろうから、また革袋を作らないと。
でも今はとりあえず混ぜちゃってもいい。
それじゃ受け取りに行くかってんで急いで服を着る。
一応持ってきたウールニットで正解の冷えた廊下を、シコーキと二人ですたすた、城の内奥へ。
ギデア様に一言挨拶して謝辞を述べ、秘書のような人の控える小部屋で希望を伝えて、暫く待って受領。
その場できちんと勘定してから革袋へ。
シコーキの部屋へ戻りながら、
「あ、金貨の実物も見ておいた方が良かったかなあ……」
「そうね、見せてあげる」
とランプの灯火の下に寄ると、隠しから小さな革袋を取り出して、小さな一枚の金貨を掌に乗っけて、裏、表と見せてくれた。
小っちぇ~。
一円玉より小さいぞ。
「金貨ってこんな小さいんだ」
「だから無くしたりしたら大変なの。保管には結構気を使ってるわよ。当然だけど、銀貨や銅貨と一緒にはできないし」
「ほぉ~」
彼女の掌の上の小さなそれをよーく見せてもらって、目に焼き付けた。
小さいけれど精巧に刻印されている。
裏面の、この戦衣装のアテナ女神みたいな女性が、エルレイシア女王陛下なんだな。
表側には、右手の剣で打ち払いながら観る者へ微笑みかける美少女を胸の左斜め前から描いた浮彫と、何らかの文字が彫り込まれている。
「見せてくれて有難う」
「どういたしまして」
シコーキの部屋に着いて、ニットを脱いで、また作業再開。
シコーキも鎧を手入れするかと思えば、従者に任せてるらしい。
ただ、剣だけは自分で研いでいる。
壁のランプの灯の下、小さな机で事務的な雑用をこなすシコーキと時々お喋りしながら、やっと作業終了。
部屋の隅の棚の空いた段に荷物を片付けさせてもらって、寝台に横になると、秒で眠りに落ちた。
拙作を御読みいただき、まことにありがとうございました。




