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第三十六話 ふつかめいろ


狭い簡易寝台の上でグルグル巻きにして寝ていたが、目が醒めた。

壁の窪みに置かれたランプが静かに室内を照らしている。

シコーキは寝ているので、寝台が音を立てないように気をつけて床に素足で降り立ち、ソックスを履く。

そっと、そっと、歩いていって、そっと、そっと、戻る。

脱いでたウールニットを着込んで、二度寝。


--


頬を撫でられた気がして、目をあける。

「朝よ」

小さな声をかけられて意識がはっきりしてくる。

ああ、そうか。

今日も早いんだっけ。


ふわぁ、ねむ。


小声で、

「朝ね、起きる」

と応え、思いっきりのびをして、ゆっくり起き上がると、あちこちの筋を伸ばす。

それからおもむろに仕度にとりかかる。


とにかくまず、洗濯物を取りにゆく。

と思ったら、それも従者に頼むのか。

その間に、すぐに装着できるように、装備を床に展開してゆく。

道具が問題だな……


暫くすると従者の少女がトントン、とノックしたので、シコーキが受取りに出る。

こっちの分を受け取って、金カップから鎧下、コンバットベストと順々に装着してゆく。

最初の頃と違っているのは、首周りのソフトアーマーをツナギとチタン鎧(胸・背)のすぐ上に着るようになったこと。

その方がズレなくて良いので。

その上から首周りに手を加えて緩めた警備服を着た後で、脛当てと同様に補助的にチタンの首防具を外側につけてゆく。


銅箔はガムテで貼り直し、アルミ箔も貼り直し、外に出している。

面倒くさいがいつもの手間。

チタンの装甲も表面はそれなりに引っ掻き傷がついてるが、まだまだ行ける。

バンドが焼けて駄目になってしまった膝カップや肘カップをダクテでグルグル巻いて固定。

プラスチックの脛当てもサポーターごと燃えたので、今は脛当てはチタン板のみ。

カーゴパンツの替えを持って来てないので、昨日から巻きスカートにしている悪僧の衣を今日も下半身に巻く。


半魚人の汚れをできるだけ除去した挙句毛皮と呼べないごわごわの何かになってしまってる元ムートンを肩にかけてお終い。

一番外側の襤褸布ぼろきれは残らず焼けてしまったので、無いまま。

ブーツを履く。

武器のベルトを巻く。

思い切ってサブウェポンの二本以外の武器を外し、生き残った道具入れを付けてある。

火炎攻撃用具は失われたまま。


携行する武装は以下の通り。

メインウェポンの鮫剣:常に右肩に担いでゆく。 ああ、ホルダも焼けてしまった……。

サブウェポンの長柄出刃と、鮫きりの二本:武器ベルトにいつも通り提げる。

刺突専用のダガー(ブーツナイフ):首元にいつも通り固定。

以上四つのみ。


これに小盾を首元のフックで胸の前に吊るし、盾を背中に背負い、左腋に10フィート棒を挟みこんで左手に持つわけだが、その前に手袋をつけ、ゴーグルとマスクをつけ、ヘルメットを左手に掛ける。

出来上がり。


「何か忘れていないかな……」

「え?」

「ごめん、独り言」

笑われてしまった。


あ、ライトだよ、ライトっ。

右足のL字ライトが燃えたカーゴパンツごと入れっぱなしだったわ、ゴミ袋にっ。

左足のは普通に回収したのに右足のは焦げてるからって。

あれ、まだ使えた気が……

よーし、やっぱりまだ行ける。外装だけ焦げてるけど、機能する。

よかったぁ。


あの後、ずっとミニランタン使ってたし、皆が照明使ってて明るかったから忘れてた。

暗闇でライトほど重要な物は無いってのに。



はっ

紙おむつ!

なんてこったい!


着替えの時に紙おむつじゃなくて普通に下着つけてた。

慣れない環境でいつもと違うことばかりしてたので、何をしなきゃならないのか、勘が狂ってしまってる。

大急ぎで全部脱ぎ散らかして、紙おむつから付け直し!


--


「どうした? 遅いぞ!」

「ごめんなさい! 私の所為で遅れました!」

「そうか、では行くぞ!」


あっさり流したギデア様とシコーキに尾いて、昨日と同じ6人に荷運びの二名を加えた8名パーティで空中通廊へ。

荷運び要員は荷を載せる為の担架を持っている。

二人とも、荷物を入れた袋を縛りつけた担架を一人で後ろに引きずって歩いてゆくのだ。


城を出て空中通廊まで到着してみれば、梯子は窓のロープで繋いであるままだ。

見張りの兵士が異状なしと報告してくる。


--


今日はT字路にランタンが置かれてないので、勘で近づいたと思ったら速度を落として、左折路を見つけてランタンを置き、中央通路へ。

横穴まで500m。


6名で

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

と階段を駆け上がって迷路へ。

荷運びの二人は遅れてスタスタ歩いてくる。


昨日同様にゴブリンから始まり、罠の位置は昨日と変化ないので、慎重に回避しつつ魔物を倒して進んでいく。

魔物は昨日とは変化があり、盗賊じゃなくて黒衣の軽戦士だったり、豚頭人だったり、獅子だったり、巨大な地虫だったりした。

だが、ラインマーカーが床の線を確認し、新しい路なら線を引き、マッパーが見取り図を書き記し、俺が10フィート棒で床や壁を押したり天井や闇の先を警戒するのは同じ。

俺の後ろで守ってくれてる近習さんはシュッツ。昨日と同じ槍の前衛戦士だ。


--


新しい部屋に入る。

「準備はいいか?」

全員がギデア様へ頷く。

「よし、では、行くぞ!」

途端に扉を開けて、転がり込むように俺とシュッツが交差して左右に展開、目の前に居た盗賊を切り倒す。

あとから皆が突入しているのを疑わず、更に前進!

「精霊術士だ!」

シコーキの警告が飛ぶ。

青い衣の術者が手に印を結び、何かを唱えている。

吾が手にクロスボウなく、前には敵の剣闘士が三名立ちはだかっている。

やむなし。

ただ突っ込むのみ!

右端の剣闘士へ。

左方で激しい衝突が目の端に光るが、気にせず流して俺がやるのは眼前の盾を構えて剣を振り上げたこいつ!

次の瞬間に剣が叩きつけられるが、打ったのはこちらの背中の剣と盾。

打たせた次の瞬間には回転してブン回し、勢いに乗った鮫剣が剣闘士の肩を襲う。

盾で受けられたが、盾ごと相手をぶっ叩く。

叩いた反動で鮫剣を肩に戻し、すぐに振り上げてもう一度ぶっ叩きに行く。

相手は盾を構えるが、強さが無い。

盾ごともう一度ぶっ叩く!

盾から破片が散った。

相手がまた盾ごと肩を叩かれて、今度はよろける。

今度はトドメを──


「ウォータースマイト!」


そういう意味に受取れるパワーワードが術者の口から響き渡り、次にその背後から幻のように現れ出でた大波が、不条理にも敵の前衛には何も作用せず、一気に我々に襲い掛かる!

がはっ!


廊下で背後を警戒して退路確保しているマッパーとマーカー以外の仲間全員が大波を叩きつけられ、水に呑まれて浮いたと思ったら床に叩きつけられた。

水と床に前後から挟みつけられた衝撃で肺の空気が一瞬で強制的に押し出され、

ひいぃっひいぃっひいっひいっひっ、はー、はー、はー!

神経の反射で無意識に必死に息を吸おうとしてしまい、敵に反応できない。

なんとか立ち上がろうとしたところへ、剣闘士の一撃を頭に喰らった!


がッハっ!


モロに後頭部に喰らってメットのシールドから床に叩きつけられるが、まだ死んでないっ!

シールドも割れてない。

ずーんとした衝撃が背骨を経て全身を揺さぶり痺れを齎しているが、まだ俺の手は剣を放していない!

咳き込み、ふらふらするままに床に転がりながら、敵の方へ鮫剣を薙ぎ払う。

脚を払われるのを嫌った敵が一瞬後退して避けた。


息を切らして、鮫剣を引き寄せながら上体を起す。

斜め上から突き刺してくるのを睨みつけながら、じーんとして力の入らない左腕で敵の剣先を辛うじて逸らす。

途端に、蹴りが飛んできた。


ガッ!


かはっ。

顔を蹴り上げられて、あっけなく床に伸びる。

即座に追撃が来ると思い咄嗟に右へ避けると、背後の盾がカツっと音を立て、敵の剣に縫いとめられるように盾が床に押さえつけられる。

盾が引っ掛かった自分が床に寝転がされる。

息も身体も衝撃と酸欠の痺れで苦しい中、のろくさと脚で蹴りつけ、鮫剣を左横に構える。

左足に続いて蹴りつけた右足の臑が敵の剣に払われた。

敵の剣が脚に突き込まれるのを感じながら左足で蹴り払う。

鮫剣で敵の腕を払う。

カヤックをオールで漕ぐように、鮫剣の柄を杖にして上体を起し、そのまま敵に向いた刃を突き出し、払う。

上下左右に払い続けながら、更に上体を起し、膝を立てて、袈裟に切り払い、横に薙ぎ払う。

よろけながら、立ち上がろうとするが、腰のサブウェポンが突っ張って、よろめいて、右後ろに倒れてしまった。

敵に左脚を蹴り飛ばされる。

剣が左脚に叩きつけられる。

息が苦しい。

剣が左腕に叩きつけられる。

剣が左腕に叩きつけられる。

剣が左腕に叩きつけられる。

倒れている身体を左に傾け、フラフラする右半身を敵へ向け、鮫剣で払う。

ガンッ

逆に鮫剣を払われ、開いてしまった胸へ敵の剣が突き込まれる。

コッ

胸の小盾で一度跳ねた剣先で喉元をゴルゲット越しにグッ、と突き押されて、また仰向けに床に倒されてしまう。

咳き込む。

脚で蹴る。

さっきから背中に背負った盾と後ろ腰に提げてるサブウェポン類が邪魔で、仰臥した状態から起き上がることができない。

苦しくて動きも鈍い。

もどかしいっ。

鮫剣を右に構えて、右半身を敵に晒しつつ、刃を敵に向け、オールのように両手で握る柄を床について上体を起すと、敵に突き出した鮫剣に打ち込まれて剣が揺れるのを胸と肩で押さえ込んで打撃に耐えながら、やっと立ち上がる。

顔への敵の突きを、鮫剣の長い握りでゴリガリ削りながら、←左へ流すと剣先が左肩の上へ流れる。

踏み込んで上体で敵に当たりながら敵の出足へ足先を掛けると、右肩で敵の構える盾を押し込みながら、小内刈り!

「ヤーッ!」

全身で敵に浴びせ、押し倒す。

胸が苦しいので、高く振り上げられなくなって、そのまま鮫剣を突き込む。

敵が避けて、床に当たる。

くるりと回って敵が後ろへ起き上がるのを、腰を屈めたまま鮫剣で杖をついて、息を整えるのがやっとで追撃ができない。

口が涎でべとべとだぁーッ


そこに誰かが加勢に入った。

敵剣闘士へ攻撃に出てくれた。


その間に、膝をついて息を整えると、盾を壁際へ放り捨て、サブウェポンも引き抜き、盾のところへ投げ棄てる。

それから鮫剣の重さに今は耐えられないと思い、鮫剣を壁際に転がし、長柄出刃を拾い上げる。

軽くて助かる。

息を乱して力が出ない今の自分にも扱える。

前進しながらちらっと見回して、敵術者がパーティの仲間を二人、術で拘束していて、それに味方二人がそれぞれカバーに入ってるのを見て取る。

構えて、加勢してくれた近習の方に加勢する。

「いきます!」

槍で牽制されてる敵の横を壁際すれすれに走り抜けて左斜め後ろへ駆け込む。

「ふんっ」

味方が槍を敵へ突き込んだ。

そこへ同時に

「やァっ」

右膝を床について、よろける身体をしっかり支えつつ、敵の左膝後ろを、左手を柄の端、右手を柄の中ほどに、長めに握った出刃で刈る。

防具で守られていない弱点だからだ。

膝裏を裂いた刃を押し込み続けて、敵が堪えきれずに体勢を崩したところへ、近習の槍が襲い掛かる。

剣闘士が膝カックン姿勢になり、その場で仰向けに倒れこんだ。

長柄出刃はその膝裏に挟まれて引き抜けない。

敵の左腕を盾ごと押さえつける。

倒れこんだ敵へすかさず近習さんの槍が、鎧の腹の間にできた隙間にぐさりと突き立てられる!

俺は盾に乗っかり、そこから身を伸ばして両手で、敵の剣を持った腕を押さえつける。

敵が断末魔の不随意の痙攣で激しく身体を震わせるのを感じて気分が悪くなるが、敵の腕を床に叩きつけて剣を奪い取る。

その剣を拾い上げると、敵剣闘士の屍骸を踏み越えて、術で拘束されている隣のギデア様を横目に、前に出てカバーに入っている近習さんの援護に入る。


またしても横から一気に跳びこんで、勢いで左膝を床にガリガリ擦らせて右足で踏ん張って、酸欠で辛い身体を支えながら、肩から背中へ振り上げた剣闘士の剣で膝裏に斬りつける。

斬りつけるや引き切る。

敵が体勢を崩したと見るや、左手を盾の縁にかけて、ぐいっと引き寄せながら剣を放した右手で敵の後ろ首を掴んで体重を掛けてぶら下がって引き倒す。

またしても味方近習さんが今は二人がかりで槍を突き込む。

これで二人目。

シコーキが既に三人目を切り伏せていた。

ギデア様を近習二人が護る態勢をとる中、残り三人、俺シコーキ近習さんで、華麗に避けて舞う術者を追い詰めてゆく。

近習の槍が脚を払い、俺が掴みかかって腕をとると、シコーキが何度か切りつけてお終い。




大量の戦利品。

一部破損していてもよければ……の話だけれども。

盗賊のナイフや頭巾に始まって、剣闘士の剣や盾や鎧兜に予備武器やブーツやマントまで。

更に術者の衣や指輪など。


破損品と完品と分別して、襤褸布で汚れは拭いつつ、丈夫なゴミ袋に放り込んでいく。



拙作を御読みいただき、有難うございます

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