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第三十三話 異世界のお金と女戦士と

未舗装路を走って汚れたチャリのタイヤから泥を取り去るのが結構厄介だったんで、自転車整備用品にゴムタイヤを磨くブラシを追加。

古い歯ブラシを充てた。

泥はねを拭うにも襤褸ウェスが要るので、それ用のきれを幾らか用品袋に入れた。

そんな小さなカイゼンを少しずつ積重ねる日々。


----


あれから半月過ぎた。


空中通廊に来て見たら雨やら嵐やらで窓を開けて出られないこともあったけど、全体としては相変わらず穏便に無事に訪問できている。

最近は、自分の用事優先の日と、ダンジョン各所の確認や準備を優先する日と、異世界訪問に専念する日と、その三つで回している。

今日は二日ぶりに幸せな窓へ。曇りだけど、降らなそう。

風は穏やか。

自転車のスタンドを立てると、窓を開けて保護幕やザイルや細引きなどを設置。

ロープを角に擦らせない為の保護幕は以前より厚く安定している。


今日は自転車は置いていく。

代わりに後部荷台の蔓籠に乗せてある、荷物の詰まった丈夫なゴミ袋をナイロンコードで十字に縛りあげてある物を窓の傍に置き、その上部の環へ、窓の柱に設置した固定点に取り付けた細引きの他端のカラビナをカチっとはめる。

その細引きを滑車に噛ませると、袋を持ち上げて窓の外へ出して、細引きをゆっくり送り出していく。

テンションがなくなり、着地したことが手に伝わってくると、窓から下を覗いて、少し引き揚げて揺らして着地点を修正。

使った細引きを滑車から外す。


次に同じ固定点にとりつけた別の細引きを使い、同じ滑車で鮫剣と武器ベルトを下ろす。


最後に滑車の位置を変えて、今度は自分が降りる。

窓枠にまたがると柱につかまり、外の縄梯子に足を掛けて二段降りて、二つの柱の間に渡した細引き足場に移り、そこから動滑車で降下。


今回も無事に着地。


ハーネスを脱いで、丈夫なゴミ袋からカラビナをはずし、武器も細引きから外すと、上から垂れている二本の細引きと束ねたトラロープとをまとめておく。

武器ベルトを腰に巻き、鮫剣を担ぐと、まとめておいた縄類を牽いて、潅木に繋いでおく。

それから草原を上ってゆく。



十分後、城門内の警備兵詰所の隣の、雑用の為の小部屋。


「良い朝ねシコーキ、元気?」

「元気よ、あなたも?」

「快調。で、これ、ほら」

「約束してたから、ちゃんと呼んでおいたわ」


驢馬ろばを連れて来ている行商人と挨拶する。

迷路でゴブリンが落してったちゃちな物を袋一杯集めて売りに来たのだ。


売却する雑品は、ダンジョン確認の日に階段二階の迷路に行って獲ってきた武器やアクセサリだ。

小さな痩せたゴブリンが、多くて精々9匹程度出てきても、幾度かまとめて斬り飛ばし、撥ね飛ばし、しがみついてきても一体ずつ壁との間で挟み潰し、磨り潰し、床の上で叩き潰し、踏み潰すだけ。

迷路の入口の角から先へ無謀に突っ込んだり、いちいちきちんと準備せずに無理に連戦するような無茶をしたりしなければ、今のところ、ハードなエアロビクス程度でしかない。


ゴブリンの武器やアクセサリなど、大して価値があるものでもないから二束三文だが、それでも全く見向きもしないでもなく、買い取ってくれるだけ有難い。

ちなみに汚れたままだとゴミ扱いらしいので、めんどくさくても一々洗浄しなければならない。


初めて、少しだが現地の金が手に入った。

三枚の銀貨と数十枚の銅貨を受け取り、持参したお手製の明るいコヨーテ・タンの色の革袋にしまう。

革袋は手回しミシンを使ってPP布で裏打ちしてある。

袋の底に硬貨が貯まった袋は、少しだけ重くなった。

紐で袋の口を縛り、胸ポケットへ仕舞う。


銀貨一枚あれば、田舎町の宿屋に泊まって腹いっぱい食って呑んでもお釣りが来る。

それが王都や地方を代表する都市だと、ぴったり銀貨二枚、お釣りなし。

このお城の麓の小さな町にも小さな旅籠があって、名前は『王の扉亭』。

シコーキがそう教えてくれた。



用事が済んだので、今度はシコーキの話につきあう。


「それで、話ってなに?」

「私が空中通廊に行く事はできる?」

おー、やっぱり来たがるものだな。

今までその話題避けてるようだったけど、いいのか。

「あたしはいいけど、ロープだけだと切れたら大変だから、大きな梯子もかけたらいいんじゃないかな」

「城にあるから、もってくるわ。じゃあ早速行きましょうか」

「おっけー。運ぶの手伝うよ」

「いや、一人でいいから。あなた部外者だし此処で待ってて」


城門の小部屋で手持ち無沙汰に待つ。

若い兵士と視線が合った。

痩せて、黒褐色の毛で薄い茶色の瞳。


「ヤスコです。あなたのお名前は?」

「ヤンです」

「ヤ繋がりね、親近感が湧くなあ。ヤーさんって呼んでいい?」

「ヤンですので、展ばされるのはちょっと。ヤンでいいですよ」

「じゃあ──」

「お待たせ。行きましょう」

「早いわね!」

「空中通廊に行きたくてうずうずしてたの。だから倉庫からあらかじめ梯子を城壁内まで持ってきてた」

「なるほど、じゃあ私が後ろを持つわ」

「有難う」


二人で梯子を抱えて草原を行く。

鮫剣は背中のホルダで固定。

シコーキは以前、このミニマルデザインのホルダをもう少しなんとかしろと言ってたけど、丈夫な布地の僅かな余りでどうにかでっちあげたんだから、無理。

自分でも分ってるけど。



シコーキにフリクションコード(すべりどめ)をカラビナで繋いだハーネスの使い方を教える。

試しに少し梯子を上った所で段から横へ飛び出して、ロープにぶら下がって少し落ちたところでちゃんと止まるのを二人で体験。

それから先に自分が梯子で窓に上ってみせ、ナイロンコードを籠から出してまた梯子に戻り、窓の柱と梯子を二箇所で繋いだ。

ロープを下し、シコーキがハーネスをきちんと装着した上で梯子を一段一段上るのを上から見守る。

ちゃんとフリクションコードを一段ごとに手で押し上げてる。

すぐに上ってきた。

「ようこそ、空中通廊へ! まあ、入ってしまえば空中もへったくれもない通路だけど」

「有難う。あ、よっと」

シコーキが通路に降り立った。


「うわ、真っ暗」

「そうなの。ここだけだよ外の光が入るの。あとは出入り口になってるうちの押入れと、おっかないもう一つの窓だけ」

「前に図を見せてもらったわね。あ、うちのお城だ」

お城の窓へ寄り、窓を開けて眺める。

「うーん、この風景はなかなか新鮮だわ。崖の間の空から見られるなんて」

楽しそうに笑顔を見せる。

これだけでも来させて良かった。

「両側一度に開けると、結構良い風が吹くわねえ」

「荷物とか、大丈夫?」

「うん、大丈夫だと思うけど、ちょっと片付けて隙間小さくするわ、こっちの窓は」

シコーキに展観を楽しませておいて、さっさと片付けて、窓を引く。


「さて、シコーキは、やっぱりダンジョンのどこかに行きたい?」

「迷惑でなければ、行きたいんだけど、いいのかな」

「あたしは自転車に乗るから、シコーキは走りになるけど、行ける?」

「それは大丈夫。任せて!」

堂々とした女戦士は俺よか少し背丈がある。

それだけじゃなく、コンパスの比率が大きい。

「じゃあ、まあこっちの行き止まりは行っても仕方ないから、恐怖の窓からご案内しようか?恐いのが見えるだけで、あんまり行きたくないけど」

「やめてあげるわ(笑) 迷路でいいわよ」

「有難う。じゃ、いこっか」


自転車のペダルを踏み込むと、自転車のダイナモが回り、ライトがつく。

そこにメットにつけたヘッドライトなどが加わり……てっ!

「待って待って!」

「どうしたの?」

「シコーキにも灯りあげとくわ、これ!」

「ああ、有難う」

兜の中でにっこり。

「こうやって点けたり、消したりできるから。ほらね」

「わかった。こうね」

「そう」

「じゃ、行こう」

うん、とまたペダルを踏み込む。


暫く走るとT字路で点けっぱなしのランタンが見えてきた。

「あそこがT字路ね。真っ暗だから、いつもランタンを置きっぱなしにしてきてるんだ」

「あそこを左ね」

「そう。真直ぐ行っちゃダメよー」

「ああ」


T字路のランタンを回収して、左折して迷路へ。

また同じくらい走って、階段に到着。


「ここが迷路入口かあ」

「昨日も行ってきたばかりだけど、多分今日も出るから、安心していいよ」

「嬉しいわね」

「ちょっと待ってね」

ミニランタンを回収して、ランタンと置き換える。

「ほんじゃ、いこっかー」

「おー!」


┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨


と二人で階段を駆け上がり、迷路に入るとそのまま直進して左へ直角に曲がる。

「あ、そうだ」

「なに?」

「迷子になるの恐いから、印をつけながら行こうと思って」

「分った、あなたのペースでいいからね」

「私もここから先は行った事がないからなあ」

いいながら、枝切れの先にマッキー極太を年賀状の赤い太巾の輪ゴムで留める。

「これを引っ張っていけば、インクが地面に線を引くから、帰りはそれを辿れば帰れる。まあ、多分ね」

「なら、それは私が引き受ける。手が塞がってるでしょ? まあ、ゆっくり行きましょうか」

「周り中を一人で警戒しなくていいって、本っ当、すっごい気持ちが楽だわあ!」

二人でパーティプレイできるのが物凄く楽しい。


「あの横穴よ、あれが恐くて先に全く進めなかったのよ」

「何が居るか分らない暗闇を一人で行くなんて大したものよ、気を引き締めていきましょう!」

「ええ!」


励まされて勇気百倍!

心が熱い!

行くぜ!


今日は10フィート棒持って来てないので、剣先で床を押しながら進む。

「偶に罠があるのよね、で、これってわけ」

「ああ、ね」

「うん」


横穴に剣先を押し込んだ途端に、ガチン! とトラバサミが剣に噛み付いた!

「ふん!」

強引に引き抜く。

天井にも警戒。

隣の通路は見えづらい。

横穴の前をあっちへ行きこっちへ戻りして、敵影の有無を確かめる。


「ちょっと待ってね」

床の線を確かめ、メモ 『←横穴一歩目トラバサミ』 を床に書き残す。

それから横穴にガムテを張り渡し、

「じゃ、この横穴は後回しにして、通路まっすぐ先へ行こうか」

「ええ」


そんな感じで進むと、前からゴブリンだ!

「少し下がってー」

「はーい」

突っ込んだら罠がありました、じゃ堪らないから、引き寄せておいてから、突進開始。

「先行くわ!」

「フォロー任せて!」

「頼んだ!」

安心感が物凄い。

ひたすら目の前に集中できる。

群を一気に切り裂いて、床で回転して薙ぎ倒して、回りながら磨り潰し、立ち上がって回りつつ叩き潰し、また床で回転して刈り払う!

後ろは気にしなくても、シコーキが片付けてくれてるのを感じられる。

どんどん行こう!

「終わった?」

「終わった」

軽く答えるシコーキ。

「悪いけど、ちょっと待っててねー」

「はいよ」

ささっと戦利品をゴミ袋に放り込み、また枝切れで線を引きながら進む。






拙作を御読みいただき、まことにありがとうございます。

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