第三十二話 名乗りと試走
特に意味はありませんが、綴ってる間のBGM紹介:
Coffee Jazz Music - Chill Out Lounge Jazz Music Radio - 24/7 Live Stream - Slow Jazz
板があれば楽だったけど無くて、夜でトンカチ使えないから、手回しドリルと木ネジで長方形の枠を作成。
強度が不安だったので、ナイロンコードで補強した。
それを組み込み、縄梯子一丁あがり。
垂れ幕型のロープ保護幕も細引きと一体化させておいた。
設置と撤収を容易にする為に、現場で結わえなくても済むように、予め短いロープとカラビナを組み合わせて準備した。
ロープ保護幕は軽いから、カラビナも安い小さなもので済む。
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翌日。
ダンジョンに入るのが少し遅くなったが、自転車で中央通路をとばしてT字路にランタン置くと、幸せな窓へ。
今日も異状なし。
あちらの天気は晴れ。
イイ感じの風だから、降りるときは少し注意しないと。
すぐに窓を開いて、取り付け作業を済ませて、降下開始。
ただでさえ強度の怪しいトラロープを用いてる為、切り替わりの結び目で引っ掛かってしまうエイト環はもう使わず、背中に回して両腕で摩擦を調整するに留めている。
襤褸を貼り付けたり色々着込んだりしているので、ザイルやトラロープを背中に直接擦らせるわけにもいかず、古いバスタオルを重ねてまとめたものをクッションにしてハーネスの腰背部を覆ってある。
剣もホルダーでなく、胸から細引きで繋げて先に地面に下して寝かせてある。
これだとすぐに手繰って使える。
風があるが、腹の前の動滑車から極めて鋭角的にではあるがV字にザイルが上方に出ているので、全く不安定というわけでもない。
無事着地。
カラビナから動滑車を外さず、身体からハーネスごと外す。
トラロープの端にしっかり結わえた細引きを引いて、草原を歩き、最寄の潅木に結わえ付けた。
とりあえずこれでロープが風に吹かれてどっかにふらふらすることは無い。
次にザイルを引っ張って潅木に結わえる。
この潅木に結わえてるのを解けば、宙に引き揚げられているハーネスが落下してくる。
さて、ここは空中通廊の真下から少しだけ坂を上ったところ。もう少しちゃんと坂の上に上ろう。
冷たい朝風が吹いてるので、鎧を着てるといつもなら運動を続ければ暑さで茹だってくるのが、今は気にならない。
鮫剣を右肩に担いで、芒のような草を踏みしだき、小走りに坂を上りきる。
点々と潅木や木々が散在する草原が広がっている。
振り向けば、幻想的な空中の通廊。
空中からぼや~っと現れ出でて、同じように逆側へ消えてゆく。
虹の様に。
あ、昨日のマントの人が単騎馬上で、お供の方々と共にお城からこちらへ出てくる。
「おーい!」
鮫剣をふりあげて、左右に振って挨拶してあげた。
あ、いいのあったな。
日章旗があったので、剣に結び付けて、掲げる。
白地に赤い太陽が、草原を疾る風に靡き、はためく。
こういう広々とした場所だと、旗は良い目印になるなあ。
「ドウドウ! 本日もようこそエルレイシア王国へ! 某は騎士ギデアと申す!」
あ、そうか、昨日は自己紹介もしてなかったっけ。
「本日も参りました! わたくしは、名もなきただの靖子! この旗は祖国にっぽんの国旗です! 白地は空! 赤い丸はお陽様! 以後見知りおきを!」
鮫剣を右手で掲げたまま、左手一本でヘルメットを剥いで、ゴーグルとマスクを手首にひっかけ、あらためて笑顔で挨拶する。
どうやら魔物に騙されているのでも無さそうだから。
うわっぷ、くせっ毛が背後から風に煽られて目に入る!
「失礼、風が強くて!」
ゴーグルだけはかけておこう。
マスクは要らない。むしろ気持ちよい風を胸溢杯に吸い込みたい。
もうたっぷり見せたから、旗もしまおう。
鮫剣を掲げ続けるのはそれなりに疲れる。
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その後、ギデア様や近習の方々に伴われて、喋りながらお城の前まで同道。
そこで大半の者とは別れて、一人だけ残ったシコーキという女性の戦士に連れられ、小道を辿って、教えられた街道まで出てみた。
広々としているのは良いが、何をするにも結構時間がかかる。
「……から来ていて、西の港町ルートゲルトまで延びています。ここからだと、歩いて14,5日かかるでしょう」
「結構な旅ね、危険は無いの?」
「それはもう、危険だらけですよ。魔物や山賊がいますから。山賊はともかく、魔物相手だと走って逃げねばならない事もよくあります。走っても魔術を使われると逃げ切れずに誰かが命を落すことも多いです」
旅に出れば死ぬのは当然の事、と云うようにシコーキが話すので、少し驚く。
「ギデア様は、この国は平和と仰っていたけれど……」
「他国と較べればたしかに平和ですよ。民が戦乱に脅える必要がほぼありませんから。エルレイシア陛下やラウス様のお蔭です」
「そういう意味なんですね。私の祖国は今のところは戦争も暫くなく、魔物も居ません。まあ、周囲には仮想敵国が犇いていますし、魔物と似たような輩は国内にもうようよ居ますけれども……」
「なら、レイシアの地の方がもしかすると安全なのかもしれませんね、ふふ」
「ふふふ、さあ、それは」
街道が遥かに地平線まで延びている風景を堪能して、この日は帰路についた。
「必ずしも毎日は来られませんし、定刻に訪問するというわけにもいきませんけれど、これからも伺いたいと思います」
「いつでもいらして下さい」
シコーキに見送られて、今日も窓を閉じる。
今日はなんとなく周囲の通路の暗闇から早く出たくなって、まっすぐに帰宅した。
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翌日。
最初の部屋の奥の扉を左半分全開にして、今日も暗闇の中を約1,5km、幸せな窓まで自転車でスッ飛ばす。
窓の外は、曇り。
ちょっとやだな。 雨、降らないといいけど。
そう思いながらも、窓を開けて気持ちよい風を入れて、昇降用具の設置作業に入る。
今日は自転車を窓から細引きに繋いで下ろす。
外装6段変速のシティ・サイクルだから、気をつけないと壊れてしまうが、昨日観た感じでは、街道を転がすくらいはできるようだから、試しに実地に走らせてみようと思って。
前部荷台のお手製蔓カゴは小さめだから特段気をつけなくても良いが、後部荷台の蔓カゴはやや大きめなので、引っ掛けて壊さないように慎重に作業する。
草原で壊れてしまわないように、古くて汚れて破れたシーツで前後の車輪をペダルごと包む。
草の葉の縁で切れてしまうかもしれないが、自転車の部品の隙間に草が噛まなければそれで良い。
無事に自転車を降ろせたと思ったが、そこ、俺もこれから降りようと思ってるんだけど……。
ああ、考え無し。
仕方ないので、細引きを手から放さぬように気をつけながら、隣の窓を開けて、少し引っ張り上げて、振り子で自転車を少し横へズラした。
自転車専用にした細引きを、柱にしっかりと結わえ付ける。
それから自分もハーネスを装着し、各部点検後、縄梯子に足を掛けて降下開始。
やや風が強くて、次回から垂れ幕に錘を付けるべきかと思うが、ともあれ無事着地。
すぐにハーネスを外し、鮫剣の細引きを解いて巻きながら歩いて、トラロープに確り結わえた紐で潅木に固定すると、トラロープ、ザイルの順番に引き寄せてハーネスごと動滑車を空中通廊の窓の近くまで引き上げ、ザイルを潅木に結わえておく。
右手で剣を右肩に担ぎ、古シーツで包んだ自転車を左手で握って、通り易い草の上を選びながら引きずりあげ、坂の上へ運んだ。
これは手間だなあ。
自転車を窓辺から真下に降ろすのではなく、ロープを窓辺から坂の上の木まで常設して、紐で手繰って水平方向に移動させられれば楽なんだけどなあ。
雨や嵐を考えると、用の無い時には窓を閉めておくべきだろうけれど……。
今日は騎士ギデアは出てこず、シコーキと一人の兵士だけが徒歩でやって来た。
兵士は中世風の革鎧と鉄兜と槍と短剣で武装している。
シコーキは金属鎧の肩に盾を掛けて、剣を佩いている。
一緒にお城の方へ歩きながら、
「今日はこれを試してみようと思って」
「これは何ですか?」
「自転車といいます。この部品はペダル、これはサドルといいます。サドルは要するに腰掛のことです。ペダルは足を乗せて踏む為のものです」
「腰掛けて、足で踏むんですか。もしかして、この車輪をそうして自分で回すから自転車なんですか?」
「そうです。シコーキさんて聡いですよね」
「糸繰り車や荷車と似てますから。これは自分自身を運ぶものなんですね」
「ええ、早く楽に遠くまでいけます。便利なんですが、路が凸凹だと困るので、試しにここの路で使えるのか走らせてみようと思いました」
「速いんですか・・・逆に足が疲れませんか?」
「まあ、見ていて下さい」
城の前で喋りながら、準備を整える。
剥がした古シーツを払って畳んで、蔓で自作した前カゴに収める。
鮫剣は背中のホルダに収めて固定する。
この恰好で真っ暗な中央通路をいつものようにスッ飛ばしてきた。
「さて、いきます」
「はい」
「見えなくならない程度に遠くまで行ったら、戻ってきますね」
「気をつけて下さいね、くれぐれも。 明るいし、お城の近くですから、賊が潜んでいても、そうそう襲い掛かるわけもないとは思いますが、一人ですから」
「はい、気をつけていってきます」
小道で自転車に跨り、街道へ。
歩けばそれなりにかかるが、すぐに到着。
装備重量があるし、特に鮫剣でトップヘビーなのでバランスが悪く、少しふらつく。
想定積載重量をかなり超えてるだろう。100kgくらいのデブが乗ってるようなものだから。
パンクも心配だ。
いつもの中央通路なら平滑かつ平坦だから、チャリにかかる負担も最低限で済むから、あまり気にならないのだけど。
街道へ出て、もしも急に転ばされても怪我をしない程度に、それなりに早く漕ぐ。
ほぼ平坦だが、微妙に上り坂なので、装備重量もあってペダルがそれなりに重いから、一速に入れてゆるりと進む。
あまりにのろすぎても安全上宜しくないが、重いと僅かな上り坂でもどうしようもない……。
振り返れば、もうシコーキ達もかなり小さい。
そろそろ戻ろう。
路の真ん中を走っていたが、それが幸いした。
突然街道の両脇の草叢から、野盗が一人ずつ踊りあがって襲い掛かってきた!
戦いだ!
チャリを左ペダルで蹴り飛ばす!
チャリから跳んで頭下げ、慣性で前方へ持って行かれる身体、ザッと右足が街道の地面を削る。
前屈した反動で振りあがる右手で、血の上った頭の横の鮫剣の柄を握って、前方へ引き出す、がそのままではホルダーにつっかえてしまって引き抜けないので、襲い来る野盗からほんの少しでも間合いをとるべく、左脚で地面を叩いて一瞬に虫のように左右の足でバタバタバタバタッと小刻みに後退しつつ、その後退の動きにつれて、ズルルルルっと前方へ抜けていき、ゴッと路上に落ちる、背負った巨大な鮫剣。
後退する身体からピンっと張った細引きに引っ張られた柄を掻き寄せ、柄にとびつきながら体を左へ開いて、後ろへ腰を回す!
いまや眼前に踊りかかる敵が、視界を流れて、大きく迫る姿が目の端へ。
その瞬間、更に一歩でも後方へ跳び退って僅かでも間合いをとるべく、左足で地を蹴って左回りに回りながら、肩に乗っかった剣に、ハッシ、としがみつく。
その無理な咄嗟の後退に、体勢が鋭角に傾きすぎて、滑りかけた左足!
刹那、前へ蹴り出していた右足が地を削る。
体を左へ回しきろうと捻りつつ、
「喰らえっ!」
一喝、体が回って、背後へ地を蹴る右足は膝をつき、その場で落ちてゆく腰、恰もハードルを飛び越えるが如き姿勢のフルターン・キャスティング!
開いた胸に長柄を引きつけ、刃を敵へ叩きつける !!!
右前から襲ってきた敵に、右肩に跳ね上がる剣身が真っ向から襲いかかる瞬間、遂にずるっと前へ滑って伸びゆく左足を、蹴り潰す勢いで飛び込んでくる二人目!
何をッ!!!!
と、怯まぬ一撃は確かに右の敵を叩き伏せた、と覚えた、その一瞬に左前からガッと押し倒されて遂に腰が完全に地面に落ちきって尻餅をつき、こちらの鎧に短剣を突きたてた敵に抱きつかれたまま右後ろに倒れ込む。
もつれあいつつ後転しかけて空を向くと、両手に握りしめる鮫剣の尖端が地面につっかえ、それ以上己が後方へ転がるのを妨げた。
敵だけが回転モーメントをまともに被って、突っ込んできた勢いのまま最後まで転がりゆく。
ひっくり返って一旦は宙へ跳ねたのが戻る勢い、その両脚の間に見えるのは、鮫剣の一撃を喰らって倒れ伏して悶える一人目の姿。
鮫剣を握ったまま両手で地面を衝いて、今しも右肩の先へ転がった二人目から目を離さず起き上がると、相手が起き上がるより先に、地を這うように駆け寄る。
担ぐ間もなく撞木のように腹の下に引っ提げた鮫剣、充分に勢いをのせて、二人目へチャージ!!
敵の腹めがけて切っ先をずん、と突っ込む、身体ごと。
大剣が貫通して震える敵へ当たる肩で押し飛ばし、蹴り飛ばして一気に剣を抜く。
致命傷だ。
振り返って、未だ死なずに苦しみ足掻く一人目へ近寄り、血の垂れる剣を峰打ちに構えると、無慙、容赦なく両脚を叩き折る。
大剣を振り回して血を払いつつ、周囲を警戒する。
もう良いか。
汚れた剣を襤褸で拭い、胸から細引きで街道に引きずり歩きながら庖丁を取り出し、殺した二人目の賊に近寄って検分していると、やっとシコーキが後方に兵士を二人連れて駆けてきた。
もう粗方、所持品は道端に寄せた遺骸の脇に並べてある。
盗賊のこと、無論、金子などは持っていなかったが、どこかで盗んだり奪ったりしたのか、刃渡り40cmほどの短剣を持っていた。
「ヤスコはちゃんと戦えたんだ」
シコーキが素の調子で喋り掛けてきた。
じゃ、こちらも敬語はやめよう。
「なんでそこで驚くの?」
「最初に降りてきた日、凄く不器用に剣を抜いてたでしょ。左右の手で交互に少しずつ」
「あー、あれかー」
「そんな大きな剣を背負ってて、あんな変な事してたら、誰だって見せ掛けの虚仮威しかと疑うわよ」
「あれはねー、たしかにねー、今もまだこれ調整してないし」
背中のホルダーの肩帯をいじりながら応える。
兵士の一人が、仲間に
「ともかく、周辺警戒だ、二人一組で南側から哨戒するぞ」
と周囲をぐるぐる回りつつ、少しずつ捜索範囲を広げるような足取りで哨戒を始めた。
更に遅れて到着した数人が、生け捕りにした賊を責めながら後詰めをしている。
自転車に被害が無いのを確かめると、シコーキに訊いて、幾つかのガラクタと短剣を一本、手に入れた。
ガラクタってのは、くたびれた薄っぺらいブーツだとか、臭いシャツだとか、ぼろい胴着だとかだ。
それ以外の襤褸も、腰布──さすがにそこまでは剥がなかった──以外は貰い受けた。
なあに、洗えば汚れってのは或る程度は落ちるもんだ。
襤褸はいくらあっても困らない。
ただ、さすがに自分の荷物と混ぜたら蟲でも移って来そうだから、薄い50Lのポリ袋に放り込んで口を縛り、自転車のカゴに乗せる。
短剣も全体的に、特に握りが不潔だから、これもポリ袋で包んでカゴへ。
兵士が死体を処理したり周辺を哨戒している間に、俺はシコーキに連れられて城の前まで戻ってくる。
道々、野盗どもにどのように襲われたか、どう対処したかを訊かれたので、思い出せる限り答えた。
城の跳ね橋の前まで来ると、シコーキが俺の鮫剣を指さして、
「剣、大きすぎない?」
「これしかなくて。でも威力があって、使い慣れると悪くないよ」
「いや、でも……新しく買わないの?」
「うちの方だと平和すぎて……てことも実は無いんだけど、とにかく武器を売ってないのよ」
「あら、あら、へえ……」
「あ、また驚いてる」
「だって、武器を売ってないって、それじゃどうやって手に入れるの? まさか皆自分で作ってたり?」
「ううん、国民が武器を携えてたらいけないって法律で決ってるの。持ってるのが見つかったら、その地域の治安を守る小役人に取り囲まれて捕まえられて、とりあげられて、更に罰金払わされたりもするのよ」
「何それ、酷い。どうやって身を護るの?」
痛いところをついてくるなあ。
「護れないのよ……」
「え、なあに?」
「身を護る為であろうと、とにかく武器という武器は、一切持って出歩いたらいけないのよ、うちの国って」
「はあ?」
目を丸くして驚いているシコーキ。
「武器は売ってないけど、庖丁は売ってるから、誰でも手に入れられるの。 でも庖丁持って歩いてるのが見つかったら捕まるの だから女性は刃物を持ち歩かないの でも悪い奴は刃物をこっそり持ち歩いてるでしょ?」
「……それって、女は黙ってやられろ、…………ってこと? 死にたくならない?」
「今のところ、まだそういう目に遭ったことはないから」
「どのくらい危険があるの?」
「治安が良い場所に居れば、油断しなければまずダイジョウブ」
「悪い場所だと?」
「ん-、それなりに危ない、かな……」
「ぅええ……」
「それはそれとして、武器を売ってないから、これはここに来る途中で、穴の中で、家から一番近い辺りに居た人と魚の合いの子を倒して手に入れた槍が元なんだ」
「随分大きな槍ね、半魚人ってどれほど大きかったの? そこらの庶民の家よりも大きいんじゃない?」
「え、ん? いや? 私よりは大きいけど、そんな巨大じゃないよさすがに」
「あ、そうか、これが穂先だったわけじゃなくて、これで槍の全体だったのね」
「うん。握りから穂先まで全部同じかねで出来ていてね、元々はこぉんな太かったんだけど、お金が無かったから鍛冶場に頼むこともできず、仕方ないから自分で少しずつ毎日削って、こんな剣の形になるまで刃も握りも削りだしたのよ」
「自分で削って?」
「三ヶ月かかった」
「その自転車っていうの見れば、なんか凄い職人が居るってのは分るけど、ヤスコの家は職人じゃないんでしょ?」
「職人さんじゃないよ。電動工具って言ってね、人の力じゃなくて、電気の力で動かす鋸だとかヤスリだとか、一人で使える便利な道具が色々あるんだけど、誰でも店で買えるんだ、そういうのはね。あたしは電動の回転鑢をもってたから、それでがんばった」
「電気はよくわからないけど、何かの力なのね」
「そうね。まあそれで、これが何の金属でできているのかは分らないけれど、大分削って粉にしてしまって勿体無いんだ。削った粉は溜め込んでるから、炉があれば坩堝で融かせるかもしれないけれど、うちじゃ炉すら勝手に作れないんだよ。法律で年々ガチガチに縛られるようになってさ、息苦しいったらありゃしない。今じゃ庭で焚き火するのすら難しいんだよ、信じられる?」
「信じられない。頭おかしい王様なのね」
「王様じゃなくて、国民の代表とやらを地方ごとに何人かずつ選んで決めて、全国からそいつらが中央の一箇所に集まって物事を決めるんだけど、任期って言って、選ばれた後に続けて仕事をできる年限が定められていて、それもたった数年でね、やる人も無責任になったり、元から無責任で単に高い給料目当てだったり、商人からの袖の下目当てだったり、元から敵国の手先に成り下がっていた屑だったり、最悪は元から敵国の手先なのに、なぜかうちの国の民としての資格を法律をどうにか誤魔化して手に入れてたりして、もうそういうのが多いもんだから、まともに物事が決りにくいし、色々と大変な国よ」
「なんで滅ばないの? そんな国……あ、ごめん」
「いいの。あたしが生まれる前にもうそうなってたんだし。元々は諸国の中でも相当立派な国だったんだけど、あたしが生まれる前に一度海の遥か向こうの国に滅ぼされたのよ。それ以来、近くの敵国から来た多数の手先にいいように牛耳られててさ。その敵国も一つや二つじゃないし、戦前から入り込んで来ていて侵略工作をしかけてきてたのが。直接に戦争を仕掛けてきてうちの国を負かしたのは、そういう陰湿な工作仕掛けて来ていた連中じゃなくて、どっちかというとマヌケな莫迦だらけのでも成金で国力だけは凄い大国だったんだけど、基本的には悪人じゃなくてどっちかいうと気の良い親父どもが腕っ節とカネで物事を決めてるようなまあ割と普通の国でさ、そこに負けたのはまだマシだったと云えちゃうくらい、近隣諸国はどうしようもない国ばかりだった」
「ヤスコも大変な国で生きてきたんだねえ。よしよし。うちの国はそんなんじゃないからね、安心して暮せるから、こっちに移り住んできても良いんだよ」
若いのにこの子、おかんっぽいな。
戦士やってるくらいだし、庇護欲が強いのか。
帰りは微妙に下りだったので、やや速めに走らせてみた。
街道は広いだけで基本ラフな道だから、マウンテンバイクが欲しいけれど、それでもまあまあ良い感じに走れることを確認した。
あくまでもまあまあで、走らせるだけでも注意が必要なので、このチャリで無理はしない方がいいな。
できたら街道を他の町まで快走できないかと思ったんだけど、これはちょっと無理そうだ。
麓の町までの往復が精々だろう。
残念。
拙作を御読み頂き、有難うございます。




