第十五話 半年振りの探索再開
鮫頭の半魚人との死闘を生きのびてから半年後。
俺はダンジョンの【訓練場】の突き当たり、最初の扉の前に立っていた。
さて、行くぞ、久々に!
警備服の穴も修繕し、週刊誌という追加装甲も貼り付けたし!
(`・ω・´)b 安くてお手軽でいいね!
重たい鉄鎖と頑丈な連結器をガラガラ、ジャラジャラ言わせて明るい部屋へ踏み込む。
最初の部屋の様子は相変わらずだ。
日本間ならば五間四方相当の、円形の石造りの天井は高く4m程度。
天井中央に嵌まったままの岩が、温かい色の光を部屋中に放射している。
この光には、こころを落ち着かせる効果を感じる。
部屋の奥と左右の扉の把手には、以前に俺がしっかり差し込んでおいた鉄パイプが何本もそのまま留まっていて、向こう側からの進入を妨げている。
部屋に入ってすぐの床の上を中心として、そこから少し離れた場所の床や、手前の壁の一部にも、黒い炭化物がこびりついていて、微かに臭う。
戦闘の痕跡を、灯油を沁み込ませた枝切れで一つ一つ焦がし焼いて処理した跡だ。
全ての両開き扉の左右の把手同士を鉄鎖で繋いで、鉄パイプを抜き取っても扉の開放が制限されるようにしておく。
安全確保の為。
部屋に入って右側の扉を通り、その先の通路へ。
反応は何も無い。
その途中までしかまだ踏み入ったことがない。
失われた六尺棒に代わり、鋤を用いて罠をチェックして進む。
鋤も柄を汚損して焼却したので、今は裏山でとってきた枝を長柄にしている。
遂に通路の先の部屋の中がよく見えるようになった。
そこは海水がちゃぷちゃぷと波打つ、通路より室内の床面の方が低い、浅い円形プールの部屋だった。
まるで市民プールの幼児向けのそれを、ちょっと広めにしたような。
ブーツが濡れるのが厭で、部屋の入口から中を眺めまわす。
広さは最初の部屋と同程度。
最初の部屋のと同じような明りを発する、しかし小ぶりで光量が少ない岩が、入って左手奥の天井と壁の境目に嵌まっていた。
ここも天井の高さは4m程度と高いので、大きな脚立でも持ち込まないと、光る岩にはちょっと手が届かない。
部屋は全面が青を基調とするマーブル模様の岩で出来ていた。
当然だが、表面だけの装飾材かどうかは不明である。
足元の海水は、単なる海水に見えた。部屋の近くから臭いだした。磯臭い。
室内に首を突っ込んで見回したが、特に他の出入り口というものは無さそうだ。
足許の海水と、もしも破壊できれば青いマーブルと、それ以外に何も得られそうな物は無かった。
明りの岩を破壊できたとしても、なんとなく直感的にだが、碌な事にはならなそうなので、近寄らずに居る。
海水採取瓶など持参してきていないので、何も採取・拾得物なし。
最初の部屋に戻ると、また閂をかけてから帰った。
空のペットボトルを一本もって戻ってきて、採取してみた。
特にこれといって変わったところのない海水に見える。
こんなところにそんなものがある事それ自体が怪しいけれど。
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翌日。
また最初の部屋である。
ちゃんと毎回毎回、帰る時には戸締りしていくので、今日も【訓練場】から閂と鉄鎖を外して入っている。
罠などを含めて準備して、今度は左側の扉へ向う。
両開きの扉の向こう側には半魚人のような敵性存在が待ち構えているかもしれない。
久しぶりに緊張する。
既に6フィート棒は富士登山記念の焼印ごと失くなっているから、今は代わりに前方の罠確認には鋤を使ってる。
その柄の端に手回しドリルであけた細穴に通した紐の輪にS字フックをつけて、できるだけ離れた位置から、右半分の扉の把手をゆっくり引っ張る。
ガチャリ……
今回も同じように音が響く。
この先にもまた鮫頭の半魚人の一隊が待ち構えているのだろうか?
左右の扉の把手の間にかけた鉄鎖が許すだけ、右半分の扉を引き開ける。
扉の厚みはおよそ10cm。
開いた隙間は20cmほど。
こちら側の通路は、真っ暗だった。
部屋からの光が少し差し込んでいるが、暗い。
もう、それだけでぞわぞわと恐怖が湧いて来る。
しかしそういう事態の来る事は既に予想範囲。
対策は準備してある。
今回は、呪文の詠唱らしき声や白い光は、今のところは、無い。
革手袋の指を、腰のベルトに取り付けてる道具入れの一つに突っ込む。
インドネシア製の安いミニランタンを一つ取り出し、捻って電源ON。
それなりに明るく輝くそれに付属する紐をS字環に掛けて小型照明器具を吊るすと、腕を伸ばして扉の隙間から挿し入れて、そっと床に置く。
左扉の裏側が死角になってるから、見えるようにする為に、左半分の扉もゆっくり引く。
鉄鎖に引かれて右半分の扉が少し戻るが、調節して左右同じくらいになるように開ける。
左右の扉の間の隙間はうんと細くなった。
お城の狭間、つまり銃眼のように。
うーん、ちょっと狭すぎる。
これじゃ左右の扉の後ろが両方とも死角だ。
少し退がって、鋤の先で扉を突いて押し込み、一旦閉める。
安全の為に閂を差し込んでから、鉄鎖を連結しているシャックルを外し、鎖の巻きつけを少し緩めてから再び連結。
閂を外して、また左右同程度に引き開ける。
今度はさっきより20cmくらい隙間の巾が広がった。
部屋の照明光がまっすぐ通路に差し込むので、ランタンがなくても通路中央がさっきより明るく見える。
でも扉の後ろや壁際がよく見えるのはランタンのお蔭。
扉から離れたところを左右に歩いて、狭い隙間から、ミニランタンに映し出された扉の向こう側を観察する。
とりあえず、扉のすぐ向こう側には何もなさそうだ。
先ずは一安心。
ミニランタンに照らされて、こちらの通路は緩い登り坂になってるのが見て取れた。
そして、右側へ少しずつカーブしているので、あまり奥の方を見通せない。
ミニランタンに照らし出されてる光景の色合いが不気味。
冷たい白色じゃなく、温かな黄色にしておけば良かった。
やだなあ。恐いなあ。
不気味な通路の先を調べたい。
ドローンのような遠隔操作の偵察機が欲しい。
(´・ω・`) お金なんか無えんだよ……
遠隔操縦はともかく、視線が通らない場所をリアルタイムで見る、覗きに使えるツールというのは、お金がかかる。
そういう目的の小型監視カメラ、今はすごく安くなってるけど、それでも五千円近くする。
一台くらいは買っても良いのだが、敵を見つけた時に真っ先に破壊されることを考えると、扉の先を覗くたびに毎回数千円なんて出費は無理なので、残念だけど買ってない。
でも一台くらい買っておけばよかった、と今後悔している。
金欠だから、子供の頃の玩具箱を漁り、未だにそこそこよく弾むスーパーボールの大玉に手紙を細紐とセロテープでくっつけて、通路の先の部屋めがけて思い切り投擲するつもりだったのだ。
相手が友好的な知性体なら、こちらが意思疎通したいというのを察してくれるかもしれないから。
逆に、敵性存在なら、攻撃と受け取って襲い掛かってくるかもしれない。
が。
上り坂で、しかも曲がっているのでは、いくらなんでも手紙をひきずったままでは、部屋の中まで辿りつかずに、下手すりゃ戻ってきてしまうだろう。
そもそもどのくらい通路が続いてるのかも、これじゃ分らんし。
これは予想してなかった。
どうしよう?
扉の隙間をもう少し拡げておいて、単身直接見に行くしかないのかな?
恐い。
想像しただけでガクガク震えだしてしまう。
こうして迷っている間にも、この薄闇に紛れて何かが、通路を密やかに忍び寄ってきていたら……
なんとなくそう想像してしまい、ゾッとして扉の隙間の先へ目を凝らす。
何も来ていない。何も変化ない。問題は今のところ無い。
今、まだかなり恐怖心を感じているが、パニックではなく、状況は静穏。
或る意味では、理想的な状況……逃げる訓練をするには。
今のうちにまた、全力逃走訓練をしよう。
不要な恐怖はその都度、克服し、ついでに身体を動かす訓練だ。
冒険は身体が資本だ。
未知の空間に繋がる左側の扉を開けておくと恐怖が新たに幾らでも湧いて来てしまうので、一旦ミニランタンを回収して扉を閉めて閂をかけた。
そして最初の部屋から【訓練場】をぬけて玄関までの距離を、今までより少し長くなった障害走ダッシュ十本。
洗面所の鏡で見てみたら、予想通り、白髪を新たに発見。
日課の訓練と違い、久しぶりの探索本番で疲れたので、押入れの観音開きを閉めて、今日はダンジョンおしまい。
最初の扉だけ開きっぱなしだが、まあ一日くらい、いいだろ別に。
今までだって向こう側から力を加えられた跡なんてあったためしがないんだから。
ダイジョブ、だいじょぶ。
他の扉はどれも閂かけてあるし。
それよりとにかく久しぶりに凄く暑い。
さっさと全部装備を脱いで、カビないように手入れして片付けてから、シャワーを浴び、お茶とお菓子で休んだ。
拙作を御読みいただき、有難うございます。




