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8・勉強会2


 「って事で、パンタシア全体の情報と、この国周辺の情報が欲しいです」

 

 言語の勉強会となっているアンナさんと話し合いの場で、これ以上教える事はないと言われて『何かある?』と聞かれ、すかさずに聞いた事がこれだ。


 「そう、ナターシャから……」


 なにやら複雑そうな表情だ。

 

 「まぁ、良いでしょう。けど、どこから話したものかしらね」


 アンナさんが考え込む。


 「とりあえず、現状の話ですが、この国は割とピンチなんですか?」


 「ピンチって、つまりは滅亡するかって事?ないとも言えないけど、どうかしらね?この国を奪っても旨味は少ないから」


 「どういうことです?」


 国土を奪う事が一番の旨みだと思うが、それが少ないのは砂漠とかの不毛の地とかかな?しかし、この村周辺に限れば、実りはあるように見えるが……。


 「アスファレス王国は一番大きな国だったの。昔はね?」


 「魔法大国からいち早く立て直したって事ですよね」


 「そこまで昔にいかなくても、数十年前の段階でこのパンタシアの西側の三分の一を治めていたから」


 「それは随分と大国ですね」


 この大陸の大きさを明確に知っている訳でもないが、仮に日本と同程度だとしても、その西側の三分の一を治めるのはかなりの苦労が伴うだろう。

 勿論、王族のみで統治してる訳でもなく、貴族や、さらにその中から領主なんかを任命したりして、地方に関しては王族の目もあまり届いてはいないだろうが、それでもそれだけの領土を治めるのはかなりの労力が伴う。

 強大になればなるほど、離反のリスクも高まっていくし、維持する能力の要求値はどんどんと上がっていく。

 

 「ちなみにパンタシア大陸の全容と言えばいいか、ざっとで良いので概要を教えて欲しいんですけど」


 「―――ん、でしょうね。簡単に教えるわ。まず、四つに分けて考えて、東西南北ね」


 「はい」


 「東が亜人が主に暮らすエリアで、西が人種が主に暮らすエリア。その二つを分ける様に東西の中心にアカトース渓谷、地獄の底に続くって言われる大穴があるの」


 地獄って、いやでも、魔物がいる世界だからな。元の世界の常識も通じないかもしれないな。


 「で、その大穴の上を通る大橋が二つあるのだけれど、西側でそれを管理してるのがオルド商業連合国とベルドバラン共和国ね」


 共和国は分かるが、商業連合国ってなんだ?いや、なんとなく意味は分かるが、まさか、商人が独立して立ち上げた国って事か?


 「東西の行き来が出来る唯一のルートよ」


 「え、待って下さい。大穴が開いてるのは理解出来ましたけど、北側や南側から迂回したり、海から船で行ったりは出来ないんですか?」


 「出来ないわ」


 即答。

 いや、しかし、そんな事あるだろうか?


 「と言うのも、北側は雪に覆われた山脈で危険な魔物の生息地。南側も砂漠で同じく危険の魔物の生息地。海は論外で船で渡ろうにも船を貫通する攻撃が出来る魔物だらけ」


 「……つまり、通るのは至難の業だと?」


 「ハッキリ言えば無理ね。過去には其処等から東西を行き来出来るルートを探そうとした人達が少なからず居たようだけど、成功例は一度も聞いた事はない。その土地から帰還したって人も一人しか知らないわ」


 「一人は居るんですね」


 「一人と言っていいかは疑問が残るけどね」


 「亜人なんですか?」


 「あぁいえ、一応種族は人間よ?」


 人としてカウントしないと言うから、亜人は人ではない的な発言で、帰還したのは亜人って事かと思ったが違うのか……。


 「その人がどちらにせよ、南側と北側は未開の地って事ですね?」


 「そうね。一応はパンタシア大陸はほぼ丸い形と言われているけど、それを証明する事も出来ないわね」


 「ちなみにその北側の山脈と南の砂漠の名称は?」


 「ガロウズ山脈とイルミナル砂漠の二つね。これに海も加えた三つがパンタシアにおける三大危険地ね。覚えておきなさい」


 「さっきの大穴、アカトース渓谷は含まないんですね?」


 「アンタ、地獄は危険よって教えなきゃ危険だと思わないの?」


 呆れたように言われた。


 「オーケーです。分かりましたから睨まなくても……」


 「はぁ。それで、東側にも国があるのは知ってるけど、詳しくは分からないわ。知っている人の方が少ないんじゃないかしら?」


 「なるほど」


 とりあえず分かったと頷く。


 「で、西側だけど、大小合わせて十以上の国があるからね。さらに属国なんかも合わせると正確な数は、えーっと何個だったかしらね?」


 アンナさんが考え込むが、一瞬で顔を上げた。


 「どうでもいいわね。直近の情報としてはアスファレス王国と、クルクス聖教国、アントリューズ帝国の話を覚えていればいいわ」


 「アスファレスはファブール村がある国ですよね。他の二つは?」


 「アントリューズ帝国は、地方の寒村からたった一代で周辺の領地を飲み込み、一番の大国に急成長した国よ。現皇帝がその寒村の領主だったのだけれど、僅か三十年程で西側の四分の一程を治める皇帝になった傑物よ」


 「それは随分と化け物染みていますね」


 なんだそれは織田信長か?えげつない。


 「クルクス聖教国は元々は元になった国で始まった教え、まぁ、宗教ね。だったんだけど、その国の元首が教会に国を寄付したのが始まりね」

 

 「国を寄付って」


 そんな簡単に国を遣り取りするなよ……。


 「言いたい事は分かるけど、そうして始まった国は小国ながら精霊信仰の教えの元、堅い結束で強大な国力を誇っているわ。特にクルクス教会は他国でも一番信仰されている教えだからね」


 他国の宗教が一番持て囃されるのは、国を治める人からすると頭が痛いだろうな。

 商品と交換という形以外で国か金が出て行くのだから始末に負えない。

 少しずつかもしれないが、確実に自国の国力を奪われていくのだから。


 「で、帝国が肥大化して、遂には魔物の使役を可能にしてからはさらに状況が加速。帝国は西側の四分の一を手中に収め、その中には当然のように元々アスファレス王国の一部だった場所もあるんだけど、圧倒的な戦力差から、アスファレス王国は奪還も出来ずに奪われるだけ」


 実際に低ランクの魔物を遠目に見ただけだが、それでも自由に命令出来るのであれば、高い戦力になってくれるだろうと思えた。

 それに何より、戦争では士気の高さが戦力の高さと言っても過言ではない。

 舐め腐った大軍が士気の高い小勢にやられたり、互角に渡り合う事になったり、甚大な被害を受けるっていうのは良く聞く話だ。

 勿論、その小勢の中にそんな状況でも味方の士気を上げる様な傑物が混じっていればの話だが……。

 魔物で露払い出来るのであれば、それだけ死に難いと言う事だ。帝国は士気の管理も、他の国に比べれば楽だろう。


 「さらに教えの中で魔物は悪と説いているクルクスが、帝国と戦う為に騎士団を無条件で国を素通りさせろと周辺国に告げ、断った国はクルクスに滅ぼされたわ。一応、その国の民に被害が出ない様に立ち回って、戦争後は基本的に現地の者にそのままの形で運営を任せているようだけど」


 騎士団って言うのはクルクスの軍事力の事だろう。

 しかし、とすると、他国の軍事力を無警戒に自らの国に招き入れろという話だ。

 まともな神経をしている為政者であれば、怖くてそんな事は出来なまい。


 「で、アスファレスも断った国って事ですね?」


 「そう言うこと」


 これで得心がいった。

 強大な軍事力を持つ大国と、人心に強い影響力を持つ宗教国家に挟まれ、嫌が応にも戦乱に巻き込まれているのだから。


 「けど、クルクスとアントリューズはそんなに離れているんですか?」


 「どういう事?」


 「そんなに幾つもの国を飲み込まないといけない程に、クルクスからアントリューズは離れているのかなぁ?と」


 「ああ、そういう意味。そうね~、当初であれば最短で二国を跨げばよかったかしらね?」


 「たったそれだけですか?でも、さっきのアンナさんの話しぶりではもっと幾つも国を巻き込んだ感じでしたけど?」


 「そうね。クルクスに滅ぼされたり、属国になった国、騎士団を素通りさせることを約束した国が八つはあるかしらね」


 「随分と余計な手間というか、余計な進路を取ってるんですね?最小なら二国で済むんですよね?」


 「仕方ないわ。最短で行こうとすれば、戦う可能性が高い地はこの辺り、両国ともそんな面倒は抱え込みたくないでしょうから」


 「戦地がファブール村周辺って事ですか?それに面倒って?」


 二つの国の丁度中頃がこの辺りだと言うのは分かったが、面倒って?

 

 「三大危険地ってさっき話したでしょ?その他にもいくつかの危険な地域があるのだけど、その中でもこの辺りは有数の危険地を周辺に抱えているから」


 「はい?危険地って、この辺りがですか?」


 魔物を遠巻きに見た事はあったが、そこまで危険な土地ってイメージが無いのだが……。


 「オルコス森林は多数の魔物で占拠され、普通の獣すら住めない土地よ。他の魔物が出るような場所でも、野生の獣ぐらいはいるのに、あの森からは完全に駆逐されてるの」


 「ただ肉食系の魔物が多いとか……?」

 

 「無いとは言わないけど、魔物は自らの縄張りを守る為なら、自分より強い魔物にも平気でかかっていく個体が多いの。けれど、そんな個体でもオルコス森林では低ランクの魔物が森を逃げ出てくることがある程よ」


 「実力差を認識しない魔物にそれをさせる程の個体とか種類の魔物がいると」


 「それもゴロゴロといるのでしょうね。前に依頼した冒険者が『Ⅾランク以下の魔物がほとんど存在しない。こんな場所ありえない?!』とか冒険者ギルドに報告した程だからね」


 ランクとか言われても正直分らんが、ただその冒険者の言葉を考えるに、Ⅾランクでも相応の危険度なのだろう。


 「その所為もあって、この辺りに来てくれる冒険者もいないし、一番最寄りの冒険者ギルドも王都の本部で、どんなに急いでも早馬で半日は掛かる」


 早馬って、確か足の速い連絡用の馬だっけか?


 「え、でも、この村で馬なんか見た事無いですけど?」


 「そうね。その早馬がある周辺の村や街までだと歩いて半日ぐらいかしら?走ればもう少し早く着くでしょうけど、半日、少なく見積もっても8~10時間、走ってるとすればもう少し短いから5、6時間ぐらいかしらね?その間中走り続けるのは無理でしょうね」


 ランニング程度の速度であれば不可能とは言わないが、少しでも早く連絡しないといけないと早馬を求めている人がペースを守って、体力に気を遣って、速度を緩めず走れるとは思えないな。

 特にそれ用の訓練でもしているのならともかく、この村に現在いる人は女か子供で、さらに体力が付くような食事も摂れない人たちだ。

 元になる体力も相応のものとなる。

 さらにその街に辿り着いてから早馬で半日、諸々の準備をした所で村を助けに来れる人が来るのは最短で二日半から三日掛かるって事になるな。


 「魔物の生息地でもあるんですよね。それって不味くないですか?なんでそんな土地に村を作ったんです」


 元々は魔物が沢山いるような危険な場所ではなかったとか?

 それで『危険でも自分たちの故郷は捨てられん!』的な奴か、などと勝手な想像をしてしまう。


 「鳴子よ」


 「鳴子?」


 鳴子という単語で合っているか覚えたこの世界の言語を頭の中で反芻する。

 うん、間違ってないな。

 単語は間違ってないけど、今度は意味を理解できないぞ?

 鳴子ってのは動物なんかが引っ掛かると音を鳴らして接近を知らせるものなのは分かるが、それが村とどう関係すると言うのだろうか?


 「そう、鳴子」


 「どういう意味です?」


 「そうね~。アンタさ、外部から危険な物が迫ってくる可能性があるとしたら、どんな守り方が一番良いと思う?」


 少し悩んだ末にアンナさんは逆に質問してくる。


 「そうですね、あーと、防壁とかで覆いますかね?」


 少し悩むが、それが一番安心感がある守り方だ。

 特にさっきまで話していた内容から、人の住む場所の話だろうし、住む人が安心出来るように高い石壁を築くのが手頃だろう。


 「じゃあ、広すぎて防壁で囲い切れない。あるいは資金的に壁を作る程の事が出来ない場合、あるいはその程度の防壁では防げない魔物がいたとしたら?」


 それぞれの条件で幾つか違う候補もあるが、そのすべてに対応できるとなるとそう多くはない。


 「そうですね、見張り台を守りたい場所から外側に一定の距離で建てていきますね」


 「それで?」


 「一番外側の見張り台から見た情報を次々に伝えていきます」


 知らせる方法は狼煙なんかもあるし、距離によっては旗で知らせる方法もあるし、多少金は掛かるかもしれんが伝声管なんかを作る方法もある。


 「そっか、そういう方法もあるのか」


 アンナさんが感心したように頷く。


 「それで答えは?」


 「ソージの答えと本質は同じよ。危険地帯のすぐそばにあるこの村の存在する意味もそれと同じ」


 同じってどういう意味だ?

 見張り台の意味は危険を知らせる事だ。そして、この村は同じ意味を持っていて、さらにアンナさんはこの村の事を鳴子と称した。


 「それって……」


 「気が付いた?」


 「つまりは鳴子、危険が起きた際に命を懸けて周囲に危険を知らせろって事ですか……」


 随分と思い切ったやり方だ。

 人材という資源が無限に出来るとでも思っているのだろうか?


 「そう言う事ね。この村の当初は狩人の住処で、この辺りの森を狩場にしてたみたいね」


 「住んでいるならちょうどいいとばかりにそんな役目を押し付けられたと?なら、この村を捨てるという方法も取れるのでは?」


 「少なくとも、ファティマさんは動かないでしょうね。となると、グレタもソフィアも含め、多くの村人が動かないでしょうね」


 「けれど、そんな見返りもなく命を懸けるなんて、いや、見返りがあれば命を懸けるって話でも無いですけど」


 「見返りもあるにはあったのよ」


 「あったんですか?!」


 意外だ。

 見返りがあると言う事は優遇されると言う事だ。

 領主に好き放題されているようだし、そんな見返りがある状態とは思えないのだが……。


 「あったのよ。先代の領主の頃にはね」


 「なるほど、そういう」


 件の現領主は、どうやら典型的な親の七光りで自分が凄いと勘違いをしてる奴だ。

 別に悪いとは思わない。

 親が凄いってのも一つの、才能とは違うが、その人を形成する物で、実力でもある。

 まぁ、親が凄くて、周りにチヤホヤされて生活をしたら、誰だって少なからず調子に乗る可能性も高く、多少正確に難を抱えている可能性が、一般的な人より高いとは思うが。

 それはそれとして、その親の立場も使って、それこそ親以上に凄い事をする人だっている事のはいるのだ。

 大抵の場合は凄い親と比べられる事に耐え切れずに親とは別の道に進む人も多いと感じるが。


 「先代領主の頃は、なんていうの?それなりに危険な場所にいる敬意みたいなの?があって、税金も領土のなかでも格安だったし、その税金すら支払いを待ってくれたりもしたのだけど」


 「現領主は待つ処か、税金をありえないくらいに上げ、さらに人攫いもですか」


 随分と救いようのない奴だ。


 「そんな訳でこの辺りを自国の管轄下に置きたい国はそう無いのよ」


 「なるほど」


 管理下に置かずに戦場にしようとも、横から魔物に襲われる可能性もあるので、有利だったのに気が付いたら魔物と敵軍に挟まれて壊滅状態ってのもあり得る。

 まともな指揮官、国の長ならそういう無茶はしたく無いだろうな。

 まぁ、もしかしたら魔物のお陰で有利になる場合もあるかもしれんが、それは戦力で劣っている側が起死回生で打つ手段には成り得ても、相手より上、もしくは同等な国が気軽に打つ手段ではない。


 「話は変わるっていうか、戻るんですけど、ドワーフは西側に住んでるんですか?」


 とりあえずの周辺と現状の把握は簡単にだが済んだので、新しく生まれた疑問を聞いてみる。


 「そうだけど、なんでそんな事を聞くのかしら?」


 アンナさんが疑問の声を上げる。


 「あぁ、いえ、ナターシャがこの辺りに流れてきたんですよね?ドワーフもその亜人なら東側に住んでいるのではないかと」


 「ドワーフが亜人?ドワーフはドワーフよ?」


 そういえば、ナターシャも発言的にドワーフを亜人には含めてなかったな。

 となると、亜人ってのは獣人や魔人みたいに人間に作られた存在のみを指す言葉なのか?


 「じゃあ、ドワーフってこの辺りに住んでいるんですか?」


 「ドワーフは集落を幾つかに分けてるし、国としての形態は取ってないから詳しくは分からないのよ。聞いた話では集落の位置すら採掘次第では破棄して場所を変えるらしいからね」


 「エルフも同じくですか?」


 「エルフね……」


 「エルフがどうかしたんですか?」


 「そうね。簡単には説明しておいた方が良いか」


 アンナさんは独り言ちて続ける。


 「昔に亜人と人が争ったのは知ってる?」


 「あ、はい。人に魔法で改造された亜人が反発して戦ったんですよね?」


 「間違ってないけど、足りないわ。魔法を使えるのが当たり前の時代で、すべての人が魔法を使えたと思う?」


 「それは……」


 答えは否だ。


 「使えないでしょうね」


 「ええ。今の時代に文字が書けない人がいるのと同じよ。総数がどうだったかは分からないけど、魔法を使えない層、恐らく貧困層と奴隷の一部は使えなかったでしょうね」


 魔法が使える奴隷はいただろうし、貧困層でも使える人もいただろうけど、どんな技術も知識も学ぶっていう当たり前の事をしないと知れないものだ。

 言葉は周りが喋っているのを聞けば、ある程度は喋れるようになると思うし、他の事もその行動を見て学べば出来るようになるだろう。

 けれど、魔法の様に過程が分からない物は見ようがないし、それ以前に見て学ぶって言うのも、そういう認識をしていないとそうそう簡単には出来るようにはならない。

 そういう意味では日本の小学校とかは学ぶ姿勢を学ぶ場所とも言える。

 まぁ、俺とかの世代、特に俺の下の世代は小学校でも詰め込み学習にシフトしているので、学ぶ姿勢を学ぶのとは変わって来てるかもしれないけど……。

 それでも十分に学ぶ必要性を教えてくれる。


 「そういう層が合成魔法、要は亜人を生み出す魔法ね、それの被験者となるのは、まぁ必然よね」


 「でしょうね」


 社会的に弱い者が搾取され食い物にされるのはどんなに社会福祉が整った国でも同じだ。

 まぁ、中には例外的に社会的弱者という看板で世間の荒波をサーフィンするある意味の強者もいるが……。


 「で、まともな状態で合成に成功した者はまだいいとしても、中には失敗した人もいるでしょうから、そうなると、後はもう転がるように事態は進行するでしょうね」


 失敗した人、どういう風に失敗したかはともかく、成功した人もそんな人を見て『自分は成功して良かった』とだけしか思わないだろうか?

 あれは自分の可能性だ、こうなるかもしれなかったと考えるのではないだろうか。

 仮に成功例の亜人が誰一人動かなかったとしても、失敗した人の全てが死んでいる訳でもないのであれば、その本人、あるいは周囲から反発も起こるだろう。

 そうして反発が起これば貧困層は明日は我が身なので魔法を使える層や富裕層と揉める人も出てくる。

 後はアンナさんの言う様に転がるように事態は加速して悪化していくだろう。


 「それでその後は?」


 「亜人と人が争って、人が嫌いなエルフが亜人に協力して、エルフが嫌いなドワーフが人が滅んだ後に亜人とエルフにでかい顔されるのが気に入らずに人に協力、大きく分けて四種族で争い、終戦を機に基本的にお互いに不干渉を定めて東西に別れ住んでるのよ」


 争うなら顔を合わせなければいい、兄弟喧嘩を止める親のやり方に似ている。

 

 「これが昔にあった亜人戦争よ」


 「ありがとうございます」


 詳しく知れたのでお礼を言う。

 

 「それなんだけど、勘違いしないで欲しいのだけれど、中には終始争いに関わらなかった人とか、エルフとかも居るの。その末裔は西側にも隠れ住んでて、グレタの母親とソフィアの父親はそのエルフなの」


 「はい?」


 「驚くのも無理はないけど―――」

          「あのー、グレタさんとソフィアって姉妹じゃないんですか?」


 「ハァ?!」


 この反応、違うようだ。


 「…違うわよ。グレタの父親とソフィアの母親が兄妹でファティマさんの子供で、グレタの母親とソフィアの父親がこれまた姉弟なのよ」

 

 姉妹だと勘違いしていた……。アンナさんに知らなかったのかとばかりに呆れられる。

 まぁ、姉妹じゃないからと言って何が変わるって訳でもない。

 しかし、二人共ハーフエルフか……。全く気が付かなかったな。

 ハーフエルフは綺麗ってか容姿が良いって言う説が補強されてしまったな。

 グレタさんの容姿は文句なしで綺麗だし、ソフィアも可愛く、将来性の高さが伺える。

 容姿の良さも才能の一つと考えるとエルフは長命みたいだし、確かに優れた種族と言えるのかもしれない。

 まぁ、その長寿自体が種族としての弱点とも成り得るかもしれないが……。

 

 「複雑ですね。異種族で兄妹同士で結婚か」


 子供を作ったりとかちゃんと出来るんだな。

 多少の違いはあってもドワーフもエルフも人って事の証明だ。


 「―――その内二人、ソフィアの両親ね?が行方不明で死亡扱い。グレタの父親は炭鉱夫で母親は領主に連れて行かれてその後、生死不明の行方不明」


 うわー、ますます複雑。

 

 「グレタさんの方はまだ分かりますけど、ソフィアの両親が行方不明って、理由はなんなんです?」


 グレタさんの両親は新しい領主の所為だ。

 男衆の出稼ぎは新領主に払う税金の為だし、母親が領主に連れて行かれるのはそのまんま領主の所為だと解り易い。

 同様にソフィアの両親の死も何かしらの理由があるのかと思ったのだが―――


 「ソフィアの両親はとある魔物の討伐、撃退の方が正しいかしら?その撃退に出て亡くなったわ」


 撃退と言い直したって事は、討伐は諦めているという事か?

 それほど強力な魔物という事だろうか?

 いや、それ以前に魔物がどれ程の脅威かも理解出来てないのだが……。


 「その魔物の名前は?」


 「グラン・タルナード。天災とも言われ、お伽噺にも出てくる竜の五体の内、現存が確認されている二体の竜、その内の一体よ」

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