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9・領主、襲来


 森での採取やナターシャの所での説明と発明、それからアンナさんとの勉強会と忙しい毎日を過ごす。

 けれど、元の世界である日本の白鷺市鷹宮町に帰る目途は一切立たず、僅か数日ではあるが、微かに焦れてくる。

 目途が立たないのは帰還の方法ばかりで、ナターシャとの発明は進んでいく。

 やや発想力はないものの、足りない物を別の物で補うなどの機転は利く上、弱点を補って余りあるやる気がある。

 それに俺が発明とかで役に立てるのなんて、元の世界の微かな知識と発想力ぐらいなものだ。

 まぁ、俺に発想力があるのかという別の問題は出てくるが……。

 ノコギリなどの建築物の修繕に使う物をナターシャが次々と作ってくれ、作業の合間に電気などのエネルギーの概念についても話した。

 中々理解を得るのには苦労したが、人間も食事でエネルギーを確保しているという話から、ドワーフは土くれから魔力を吸収しているという話になり、それを使って活動するのもエネルギーとその消費だと説明すると一応の理解を得られた。

 同じ"常識"を持ってる人ならともかく、文字通りに"生きてる世界"が違う人が教える相手だと、どう教えればいいかも結構悩むものだ……。

 パッと簡単に電気を得て、それをさらに活用出来ればいいのだが、電気を得られても蓄電する事も、活用する事も現状では難しいので、今は扱いに注意は必要だが、とても簡単に利用可能な蒸気エネルギーについて説明を行っている。

 そういえば、運動エネルギーの説明の際に人力の説明として自転車を代表として説明したのだが、妙に興味を持たれてしまい、試作品を作る事となった。

 乗り心地はともかくとして、試作品は完成し、後は改良次第では売り物にもなるかもしれない。

 この世界では乗り物と言えば馬で、荷物を運ぶのも馬車だ。

 馬は確かだが、基本的には時速5~6㎞程度で走る。

 勿論、これは馬にとっては散歩の様なもので、負担も極端に少なく、ほぼ丸一日この速度で走れ、一日に50~60㎞程移動可能だ。

 多少急がせれば時速13~15㎞程度でも走れるが、潰れる可能性を考慮するのであれば、一度に一時間程度を走らせ、数時間休ませる必要がある。

 この場合は一日に走れる距離は時速5~6㎞で走らせた方がより多くの距離を走らせられた筈だ。

 他にもさらに馬に負担が掛かる走り方だが、競走馬なんかは時速60~70㎞は出るらしい。

 まぁ、馬の種類や荷物の有無でも速度は変わるのでどの場合でもこの速度とはいかないだろうが、それでも馬は人よりも走る為の能力は高いと言える。

 けれど、自転車なんかは条件次第だが、馬よりも早く、長く走ることも可能になる物だ。

 特に馬を買えないファブール村の様な寒村では重宝するだろう。

 そんなこんなで忙しく新しい日常を過ごしていると、当然のようにこの村が抱えている面倒事にも遭遇する事となる。


 「りょ、領主様が来たよー?!」


 村に住む中年に差し掛かる手前の女性が声を上げて回る。

 その声には焦りが含まれ、その声を聞いた他の村人も焦りながらも手早く行動に移る。

 それもその筈で、この地を現在治める領主は聞いた限りで判断するとクズで無能なのだ。

 不必要に税を上げ、払えなければ女性を『仕事を斡旋してやっている』と上から目線で攫って行くのだから、村人からしたら堪ったものではない。

 やっている事は山賊とほぼ一緒だ。

 しかも、仕事を紹介したという体で攫って行く割には税金は減らず、攫って行かれた者が払っているのは待ってやっている利子の様なものと宣い、さらに攫って行かれた者で村に一度でも帰ってきた者はいない。


 「ソージさん!こっちです」


 グレタさんに連れられ、近くの空き家に入り、空っぽの家具に隠れるように作られたデッドスペースにグレタさんと二人で隠れる。

 村の存続の為にもこれ以上の若者を連れて行かれては堪らないとファティマさんが考えた苦肉の策が空き家や住居に隠れられる場所を作り、領主に若い層を連れて行かれない様にする事だった。

 この空き家は空っぽのクローゼットの様な物を部屋の角に斜めに置き、本来であれば嫌われるデッドスペースを隠れ場所として利用している。

 奥まで入ってきたり、家具を寄せれば簡単に見つかってしまうが、入った瞬間に空き家だと分かる家を誰もそこまで調べない。

 空き家以外の家での隠れ場所は床板の下にある微かなスペースを穴を掘って広げ、そこに隠れているはずだ。


 「俺まで無理に隠れる必要はないのでは?」


 目の前数センチ、いや微かに体が触れたりしているグレタさんに問いかける。

 一応、怪我をした旅人が怪我が治るまで数日間滞在しているという設定を、あらかじめ決めてファティマさんにも伝達済みなので、俺まで無理に隠れる必要性は無い筈だ。


 「あります。ソージさんの事ですから、どうせ思い付きで面倒事を起こすに決まってます」


 おぉっと、ナターシャとの発明の件や、畑仕事から採取の仕事に変えてもらったりと色々迷惑を掛けたからか、俺に対するイメージが悪いね。

 こればかりは仕方がない。


 「思い付きですけど、必要な事なんで」


 「必要でも相談もなく急に行動されたら大変なんですよ?」


 「仰る通りで。すいません」


 「何か考えてくれてるのは分かりますし、ソージさんは元々異世界に帰る為に行動してるんですからしょうがないのは理解できますので今回は良いですけど、これからは私に相談してください。解決出来なくても、一緒に悩むことぐらいは出来ますから」


 うーん。心配してくれて良い人なのは分かるが、グレタさんは自ら他人の面倒事を抱えて苦労している様に思えるな。

 いや、その面倒事の一端を担っている俺が言うのもどうかと思うのだが……。

 それにしてもソフィアは勿論、グレタさんにファティマさん、アンナさんと恩を返さないといけない相手ばかりが積み重なる。

 

 「ところでソフィアは大丈夫なんですか?」


 どこかに隠れてはいるのだろうが、一緒に隠れなくて大丈夫なんだろうか?


 「ソフィは朝にはいなかったです。どうせ何度言っても止めない森への散歩だと思います」


 「え?森の散歩って、あの魔物がいる森を、ですか?」


 「はい。何度言っても止めないんです。ソージさんからも何か言ってあげてください。ソージさんからの言葉なら聞いてくれるかもしれませんから」


 確かに何故か懐かれてはいるが、俺の一言ぐらいで止めるのであれば、グレタさんの説教の時点で止めていると思う。


 「言うのは良いですけど、ソフィアは何で―――」


 そこまで言った時に、外からの会話が漏れ聞こえてきた。


 「ようこそおいで下さいました」


 ファティマさんの声だ。


 「うむ」


 鷹揚な態度でそれに答える声がする。

 おそらくだが、これが現領主なのだろう。


 「領主様、今日はどのような御用でしょうか?」


 「何用かだと?老いぼれ、俺がどう行動しようとお前に関係あるのか?愚民風情が思い上がったものだな」


 「いえ!決してその様な事は!」


 慌ててファティマさんが否定する。

 しかし、この言い分といい、随分と極まった勘違いさんだな。

 貴族が偉いのは貴族だからと思っている手合いだ。

 まぁ、完全に間違いでも無いのだけれど、本来は統治する上で完全に上下を決めておいた方が統治が楽だというのと、自らの地位を脅かす状況にし難い様にという、統治者に取っての都合のいいシステムとも言える。

 けれど、それだけの権利を手に入れる代わりに統治者、つまりは貴族は自分の領地の民の暮らしを守る事しなければいけない。

 これは心掛けだけの話ではなく、領民の暮らしが潤わなければ領地が発展しないからだ。

 金の基本構造は外から取り入れ、中を潤すものだ。

 この世界の経済面がどういった構造になっているかは不明だが、それでも基本的にそこまでの違いはないだろう。

 領地内で足りない物を外から仕入れ、その為のお金を領地内の資源、特産品などで稼ぐといったものだ。

 そして、それらを行うのが商人で、その商人を来させるためにはある程度の活気が必要となる。

 商人も慈善事業ではないのだから、金に成らない事は基本的にしない。

 つまりは、商人の売り物を買う領民もある程度は生活が潤ってなければいけない。

 これが統治者ばかりが潤っていると、商人は呼ばれない限り寄り付かず、領民のやる気は低下し、特産品などの外貨を得られる物の質が落ち、一部の領民は餓死や亡命し、国に取って一番重要な人材という資源を失う事になる。

 そうなれば、後に待つのは滅びだけだ。


 「ふん!まぁいい。来た理由など税金の取り立てに決まっておろう?税金をこれだけ待ってやっているのにも関わらず、未だに未納のままとは、よもや、税を納めずに蓄えているのではあるまいな?」


 「いえ!本当に支払う程のお金もないのです!この辺りはあまり降らないとはいえ、冬の蓄えも多少は必要ですし……」


 今は夏季に当たる季節の様だが、夏と秋の野菜と内職の様な薬品作りで村人の蓄えを作る必要がある。

 言葉だけでしか聞いていないので何とも言えんが、この辺りは稀に雪が降る程度とはいえ、冬の間は畑を休める期間に充てているようだ。

 さすがに畑に関してはあまり詳しくはないが、微生物の影響もあって、ずっと同じ作物を作る訳にも、同じ場所で野菜を作り続ける訳にもいかないんだよな?

 

 「チッ!蓄えだと?支払うべきものも支払わずに蓄えなどと、ふん!それほどに金が無いのであれば、この私が仕事を直々に斡旋してやろう。見繕ってやる、人を連れて来るが良い」


 うわー。

 表情は見えないけど、声からだけで伝わる傲慢さと下卑た言い方だ。

 正直、親の七光りとか言われる人で調子にノっているとか言われる人がいる。

 実際に調子にノっているかどうかは置いておいて、そう言われる人がいるが、別に調子にノろうが、天狗になろうが、攻められる事ではないと思うのだ。

 調子にノってしまう気持ちも理解は出来るしな。

 考えてもみてくれ、明日から金も食事もある程度の異性関係も金と権力でどうにかなるって言われて、実際にその生活を何年も過ごしたら……。

 誰だって強弱はあれど、調子にノるのは仕方がないという物だ。

 じゃあ、何がダメか、それは基本的に二つだ。

 自らの権力の持つ力以上をする事。例えば、社長になったからと言って、別の会社の社員に命令を出すのはおかしいっていうそういう話だ。

 もう一つは、自分よりも立場が弱い人に対して"何をしてもいい"と思う事だ。

 貴族は立場が上で、領民は下だ。けれど、領民を貴族が殺していいか、殴っていいか、連れ去っていいか、そう聞かれれば、答えはノーだ。

 

 「やっていい事と駄目な事の区別も付かないのか。面倒だな」


 「ソージさん?」


 「あ、いえ、何でもないです」


 つい漏れた独り言にグレタさんが反応するが、それを誤魔化す。

 グレタさんやアンナさん、ファティマさん、特に怪我の治療と村に来る切っ掛けをくれたソフィアには恩返しをしなければいけないのだが、満足出来る案返しをするにはあの領主は邪魔だな。

 かといって、流石に殺す訳にはいかないし……。


 「申し訳ありません。なんとか、納めますので、冬の中頃までお待ち下さい!そこまで行けば煎じた薬の売れたお金もなんとか入りますので」

 

 「ならん!待ってやっている間に利子も積み重なる。その分の支払いも必要だ。若い女を連れてこい」


 人、だったのに、今度は若い女か……。

 遅かれ早かれこうなっていただろう。

 これ以上、村から人を差し出せば、村は持続できないだろう。けれど、人柱として領主に人を差し出した時点で、差し出された人物の関係者の目もあり、次の人柱を出すしか選択肢が無くなっていた。

 多くの者を守る為に少数を差し出す。

 間違ってない様にも見えるが、終わりの先延ばしにしかならない。

 滅んだとしても、最初から少数を切り捨てなければ罪悪感は持たずに済んだだろう。

 そしてどちら付かずのその場凌ぎで乗り切って来たツケはいずれ支払う必要が出てくる。


 「……もうほとんどが村を出てしまっていて、村にはもう若い娘は残っておりませぬ」


 ファティマさんが遠回りに断る。

 今までの人柱の関係者も周辺にはいるだろうに、ファティマさんは孫は売れないと、犠牲に出来ないとそういう意味の言葉を言ったのだ。

 これで村の意見は割れかねない。

 村がもたない可能性は考えていたが、思ったよりももたない様だ。

 最低でもグレタさん、アンナさん、ソフィアは助けないと……。


 「出て行っただと?この私が統治してやっているのにこの村を離れたと申すか?ならば、そいつらは反逆者として処罰する。名を教えよ」


 「……それは」


 ファティマさんも予想外の領主のクズさだ。

 村人からの追及はあれど、領主の件はとりあえず乗り切れると考えていたであろうファティマさんの声からは動揺が伝わってくる。

 

 「伯爵様!」


 「なんだ?」

 

 「あれを」


 「ん?ふん、いるではないか?若すぎて私の趣味ではないがな。貴様らの手慰み程度にはなるのではないか?」


 領主の下卑た笑い声が聞こえてくる。

 

 「ソフィア?!」


 何だと思っていると、ファティマさんの慌てた声が聞こえた。


 「今、ソフィアって!まさか?!」

 

 今度は身近なグレタさんが慌てだす。

 気が付いた時にはクローゼットの裏のデッドスペースからグレタさんが飛び出し、ドアの隙間から外を窺う。

 俺もそれに追従し、ドアの隙間から同様に窺う。


 「お前らの中にそこのを欲しい者はいるか?」


 領主がそう言って顎で指し示した場所にはキョトンとしたソフィアが居た。


 「あの子、何でっ!もぅ、タイミングが悪すぎですよ!」


 グレタさんが焦った様子で悪態を吐く。


 「お、おで、欲しいですだ」


 領主の護衛だろうか、なんだが貴族の護衛にしては柄が悪い気がする一団が『あんなガキじゃな?』などと周りと話している最中に、一人の男が声を上げる。

 その男は一際大きい巨躯を少しでも小さく見せたいのか、おずおずといった様子で領主に返答する。


 「よし、褒美だ。それはお前にくれてやる」


 仕事の斡旋とかの話はどうした、もう隠す気も無いな……。


 「あ、ありがとう、ござい、ますだ!」


 さて、どうするか。

 誰にでも曲げられない生き方ってのはあると思う。

 生きるのに必死な孤児も犯罪者でも誰でも自分の中に曲げられない、超えてはならない一線があると俺は思っている。

 そんなものはないって言う人も居るだろうが、それは自分でその一線を見つけてないだけだ。

 その一線を超えるにしたって、超え方には色々あると思う。

 例えば、人殺しが駄目だっていう、その一線だって人が居たとして、殺されかけた上での正当防衛であれば、許容する可能性はあるだろう。

 同じく人を殺めているのは変わらないのにも拘わらずだ。

 さて、ここで俺自らの話に戻るが、俺には信念と言えばいいか、生きていく上での生き方と言えばいいか、そんな自分の中心、芯とも言うべきことがある。

 借りた恩は返すと言うものだ。

 これは"事故"で死んだ両親との繋がりとも言えるもので、物心が付いたか付いてないかの辺りで両親を亡くした俺にとっては、大事な物だ。

 育ての親とも呼べ、叔母に当たる橘、芹佳さんという人がいるのだが、俺がある事をした際に言ってくれたことがあったのだ。

 それは俺が小学校を卒業する際に世話になった教師に個別にそれぞれ感謝のしるしにプレゼントした事があった。

 内容はハンカチとか、ペンとか、教師の仕事に使えそうで消耗品の物をだ。

 小学生の頃なので、担当教科などがなく、基本的に担任が教えるとはいえ、それでも小学校6年間なので、日頃のお小遣いでは足りなかったので、芹佳さんにお小遣いの前借りの相談した際に、言われたのだ『兄さんに似てるわね。そういう所」と。

 失いかけていた繋がりを取り戻したように感じた俺は、どういう所が父の様なのかを問い質し、その上で自らの生き方に反映させた。

 俺は"どんなことがあっても、借りた分以上の恩を返す"と決めた。

 それが亡くなった両親たちとの唯一の繋がりだからだ。

 それが俺の知っている父親の唯一"まとも"な事だから、そのつながり方を捨ててはいけないと思う。


 「ソフィア!」


 頭に浮かびかけた"事故"の時の映像を振り払っていると、目の前に居た筈のグレタさんがドアを開け放ってソフィアの所に向かって駆け出している。

 当然、領主やその護衛にも姿を晒している。

 

 「おっと、マジか」


 さて、どうするか……。

 この場でグレタさんとソフィアを助けるのは恩返しの為にも確定として、どう助ける?

 武器や軽装とはいえ防具をしている集団に無策で飛び込むのは愚策にも程があるが、準備もなしにすぐに取れる手なんてのは限られている。

 取れそうな手、会話などによる説得や交渉なんかも、あの自分を偉いと信じてやまない御領主様には通じそうにない。

 常識が違う相手は敵に回すと厄介だな。

 

 「こうしている間にも状況は進むか…。しょうがない」


 命の賭け時だと諦める。

 ソフィアとグレタさんに注目している集団は俺には気づいておらず、すでに集団の間を潜り抜けたグレタさんはソフィアを抱き抱えるようにして領主やその護衛達の視線から庇っている。


 「なんだ、居るではないか。それも中々に良い体付きだ。顔も少々幼さがあるが悪くはない。村長、これとそれを利子の代わりに頂いていこう。いや、その二人に仕事を斡旋してやろうではないか、なぁ?」


 「それは……」


 ファティマさんが黙る。

 自らの孫を差し出すのは抵抗があるが、これまで差し出した事実を考えると、居る事が明らかになった二人を差し出すのを拒否するのは村人全員からの反感を買う上、肝心のグレタさんとソフィアも領主に連れて行かれるだろう。

 かといって、心情的に『どうぞ、どうぞ』とはいかないだろう。

 そんな事がありありと分かる様子のファティマさんとグレタさん、ソフィアの二人に注目が集まっているこのタイミングで動き出す。

 無言で走り出すと、一番近場に居た護衛の腰に差されている剣を掴み、鞘から向き放つ動作と共に、その護衛の膝裏を足裏で蹴る。

 蹴った足でそのまま地面を踏み込み、抜き放った剣と共に前方に走る。


 「なんっぐぎゃ?!」


 剣を掴まれた事に反応しようとした瞬間に膝裏を蹴られて膝を折り、地面に転がった護衛が反応の声と短い悲鳴を上げる。

 その声に反応した者がこちらに振り返る。

 その間に走り出した俺は護衛達の間を潜り抜け、グレタさん達が居る方へと駆け抜ける。

 護衛の中にいち早く反応した者もいて、その人との距離を考えるに、その人を掻い潜らないとグレタさんとソフィアの所には辿り着けそうにない。

 迷って足を緩めたり、行動を止めてしまえば、すぐに取り囲まれるだろう。

 だから、こういう時にあまり迷わない質で良かったと思う。

 

 「ふっ!」

 

 手にしていた剣で、反応した護衛が剣を手にして鞘から抜き放とうしている腕を斬り付ける。

 腕を両断しようと踏み込めば、この人を戦闘不能に出来るかもしれないが、歩みが止まるので、その間に周りを他の護衛に囲まれる。

 だから、軽く撫でる様に斬り付けるが、思ったよりも良い剣だったのか、それとも剣とはこのぐらいあっさりと切れるものなのか、俺には判断が付かないが、護衛の腕は鮮血を撒き散らして、剣を放してしまう。

 護衛の手にした抜き放つ寸前だった剣は急に放され、その寸前の動作に因る慣性で鞘から放たれ、地面へと落ちる。


 「二人共、大丈夫か?」

 

 護衛達の痛みに堪える声と警戒を促す声が周りから聞こえる中、俺はグレタさんとソフィアに呼びかけた。


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