13・魔物討伐作戦・準備
冒険者登録をしてから三日が経過した。
その間に様々な準備を済ませ、アビリティーで新たにスキルを二つ獲得した。
本当であれば、三つのスキルを獲得出来た筈であったが、初日に創ろうとした能力が異世界転移という、なんとも直接的に問題解決が出来る能力を求めた結果、該当能力なしで無駄に終わった。
いずれ試す必要があった事ではあったが、このタイミングではなかったかもしれないと少し後悔もしたが、それは結果論だなと思い直すことにした。
結果、二日目と三日目で得た能力は―――
身体強化A
危機察知A
―――の二つだ。
どちらも即時効果の出る能力でパッシブ―――基本的に常に効果の発動している―――スキルだ。
しかしながら、魔力を使用しないという訳でなく、体に魔力を残して置く必要がある為、これらの能力が必要になるであろう本日は未だにスキルを創らずにいる。
詳しく説明すると、魔力の一部をその能力に変質させ、その能力をブーストしている状態がパッシブスキルを発動している状態だ。
だが、元になる変質させるべき魔力がなければブーストする為に必要な魔力が確保できないので、当然だが効果を発揮出来ない訳だ。
だけど、変質させた魔力は消費する訳ではないので、必要になればパッシブスキルの変質した魔力を元に戻せばいいだけなので、今日も用事を済ませた後の就寝直前とかなら能力を創れるだろう。
この世界で生きていく為に、いやもっと正確に言うのであれば、この世界で俺の生き方を貫くのであればこの能力は俺の命綱とも言えるものだ。
厄介な火種にもなり得るものだが、それ以上に得られる能力の大きさを実感した。
というのも、得た二つの能力だが、身体強化は文字通りの効果で、全体的に身体能力が上がるというものだ。
実感出来るレベルの強化具合で軽くジャンプするだけで自分の身長よりも高い木の根っこを飛び越し向こう側に難なく着地も出来る。
元の世界で例えるのであれば、一軒家の二階のベランダに簡単に飛び入れるぐらいのチート感だ。
しかも、そういう分かり易い筋力などの増強の他にも肺などの内臓系も能力の影響の範囲内のようで、心肺の能力が強化された結果、激しい運動も長時間続けられる。
運動部ではなかった俺にとってはありがたいもので、瞬発的な運動だけではなく、持続的な運動にも耐え得る事が可能になった。
危機察知は自らの危機を何らかの形で教えてくれると言うもので、例えば突然飛んできた野球のボールがこのままであれば当たる場合などに教えてくれると言うものだ。
逆にこのままいけば危険がない場合は警告がないので戦闘中の行動指針の判断材料にも使える。
ゆえに手に入れた能力はこれからの作戦に必要だ。
そう、村を魔物から奪還する作戦に―――。
「揃いましたね」
辺りを見渡しながら確認の言葉を紡ぐ。
「はい」
その言葉に反応したのはグレタさんだ。
他にも8人の人が居て、グレタさんと俺を含めた10人がその場には居た。
「まずは、この作戦に協力してくれてありがとうございます」
俺は頭を下げる。
「はぁー、ホント馬鹿よねアンタも」
アンナさんが毒吐く。
「何がです?」
突然の罵倒に意味が理解出来ずに聞き返す。
「率先して命懸けて、アンタには関係ないでしょうに一番危険なポジションにまで就いてさ。ホント馬鹿よね」
二度も罵倒しなくても……。
「そんなこと言ったら、ここに集まってくれた皆さんだって。程度には差はあれど危険な事には変わりないんですよ?」
直接の戦闘はなくとも、魔物の近くまで行くことに変わりはない。
更に言えば、俺がやられた場合はそのまま魔物に殺される可能性が高いのだから、命を懸けるのが馬鹿な行為なのであればお互い様だ。
「矢面に立つのは無理でもおばちゃんでも手伝いぐらいは出来んのよぉ!」
「そうそう!」
グレタさんやアンナさん以外に集まってくれた有志の人達がそう答えた。
「それに余所もんが命張るってのに私達だけ逃げ出せるもんかい!」
負けてらんないよと鼻息荒くやる気アピールが飛んでくる。
「違いますよライリーさん。もうソージさんは余所者じゃないですよ、ね?」
グレタさんが俺に向けて微笑む。
『ね』と言われてもな。正直に言えば余所者だろう。
元の世界への帰還が主眼に据えたままだし、一度は畑仕事の際に聞いた名前なのに、ここに集まってくれたおばちゃん達の名前すら不明瞭なぐらいだ。
そんな有り様なので、グレタさんの言う余所者ではないという発言には全面同意は出来ない。
けれど、グレタさんのその思いには応えたいと思ってしまった。
それが命を懸ける事に繋がるとしても……。
「余所者じゃなくなるように頑張ります」
どうせいつか帰る身だからと余所者から村の住人になる覚悟もない俺は、今はこう返すのが精一杯だった。
それを聞いたグレタさんが微笑みこう言った。
「頑張らなくてもいいんですよ。みんなで支え合えばいいんですから、ね」
グレタさんが子供に理解させるようにそう言いながら穏やかに笑う。
「いつも通り分かんない事があれば教えてあげるから、さっさと私たちの村を取り返すわよ」
アンナさんは照れているのか顔をプイっと横に背けて呟く。
クイっと服の袖を引っ張る感覚に目を遣ると、準備やあれこれで最近一緒に居られなかったソフィアが屈託のない笑顔で、声なく笑っていた。
「ありがとうございます」
俺を見上げている少女の頭を撫でながら、感謝の言葉を伝える。
ソフィアはくすぐったそうに笑い、アンナさんはしょうがないという感じで呆れたように笑い、グレタさんは微笑ましいものを見るかのように優しく笑った。
他のおばちゃん達も豪快に、あるいは子供同士の交流を見る親の様な顔で見つめてくる。
「ねー、なんでもいいけどさ。早くしないと夜になるよ?」
「そうだな」
ナターシャのちょっと空気の読めない発言に頷き、同意する。
ここから村までの時間と戦闘時間も考えると感慨に耽る時間は流石に無い。
「それじゃあ、作戦の概要を説明します」
俺の言葉にその場に居た全員が頷き、表情を引き締める。
「まずは俺が突っ込みます。これで他の皆さんに魔物の目が行かない様に引き付けて、四方向に陣取る予定のバリスタで魔物を撃って貰います。敵が減る、あるいは隙が出来れば群れのボスにトドメを刺します」
そうすれば、残った敵は各個撃破も容易い。
少なくともハーミアさんから聞いた話では、群れのボスを失うと統率が切れる以外にもボスの能力に依るブースト、詰まる所のバフの効果が切れるらしく、俺のステータスから見ても苦戦する事もないだろうとの見立てだ。
「そして、皆にして貰いたい事はバリスタの運用なんだが、それに関してはナターシャから説明してもらおう」
俺の呼び掛けに応えてナターシャが一歩前に出る。
「バリスタって言うのはこの巨大な弓矢の事でこれの開発には中々苦労もしてね!というのも―――」
「開発の話はどうでもよくて、使い方の説明をして欲しいんだが…」
「何言ってんの!普通の弓矢の素材じゃ強度の問題で解決出来なかった所をアンタの機転と、私の技術で仕上げたんじゃない!そもそも、通常は捨てていたルミア草の茎の柔軟性に目を付けたアンタの機転は中々のモノだったし、初めて扱う資源を必要なように加工出来る私の腕の良さ!これを語らないとかどうかしてるよ!?」
どうかしてるのはナターシャの方だと思う。
ナターシャの技術力はともかく、俺の方はただ単に元の世界に在ったのと似たような材質の物があったので、なんとか加工出来ないかどうかと言っただけだ。
その結果、薬草に使われているルミア草の茎がゴムの様に伸縮性が高い事やペガタ草という一度くっ付くとお湯を掛けない限り剥がれない迷惑な害悪扱いの植物を粘着剤としての利用を提案しただけだ。
そこからのどう加工するかなどはほとんどナターシャが行った事ので、俺が誇れることでは無い。
「後でたっぷりと説明してもらう事になると思うから、ここは一旦簡潔に頼む」
恩返しも兼ねての村の発展に役立てればと考えていたナターシャの発明の手伝いだが、魔物から村を取り返した後の村の今後を考えると防備の充実は急務だ。
その際にこの急造のバリスタは村人でもまともな訓練無しで扱える手頃な迎撃装置となる。
だから、その際に量産の為や使い方の説明の際にいくらでも喋って貰う必要も機会もあるのでここでは堪えてもらって、説明を優先して頂きたい。
「しょうがないなぁ~」
俺が再三に亘って説得をすると仕方がないとばかりに渋々説明を始めた。
「―――ってな感じで、一人が装填係で、もう一人が照準を合わせてここの部分の引くと発射されるってなとこかな」
ナターシャが簡単に纏めてくれたので俺が話を再開する。
「移動にもキャスターが―――って言っても伝わらんか。えっと、馬車とかに付いてる車輪みたいのが付いてるので比較的簡単に運べると思う。後は道すがらにでも編成と待機する方角なんか、あ、番号も決めておかないとな」
「番号?」
グレタさんが首を捻る。
「はい。その番号は方角ごとの班に付けてもらって、俺が叫んだ番号の班がバリスタを発射してもらいます。じゃないと俺がバリスタの弾に当たり兼ねないので」
丸太よりは一回り細いが、あんなサイズの木材が勢いよく飛んで来て、それに当たるとか考えただけでも痛い。
何よりも先端は、壊れた農具の鉄の部分やらを集め、溶かしてから加工した物になっている。
テストの結果、大木を穿つ矢があったり、刺さった後に自重を支えきれずに落ちたり、はたまた、人と同程度の太さの木を圧し折ったりと攻撃力には事欠かない物へと仕上がっている。
そんなものが当たれば俺も只では済まない。
なので、各自のタイミングで放つのではなく、あくまで俺が撃つタイミングを指定するのに番号と方角の咬み合わせが必要だ。
掠っただけでも腕やら足やらが圧し折れかねないからな。
「なるほど」
「じゃあ、内訳ですけど―――」
地図を広げながら話す。
「近隣まで近づいて上で偵察してからの話になりますけど、一番がグレタさんとアンナさんで東側、つまりは街道側ですね。二番がモニクさんアンズーさんで南側、砂漠側とか聖教国なんかがある方角ですね。次に三番が西側で一番移動してもらわないといけないのでジョルジャさんとジネヴラさんの二人にお任せします。最後が四番の北側ですね。帝国領に続くプレリア大平原の方角から侵入をお任せするのはジュリーさんとライリーさんです」
参加メンバーとして聞くまでうろ覚えだった名前を呼びあげる。
「よろしくお願いします!」
「了解よ」
「おばちゃん達に任せときな!」
「任せときなって、一番危険なのはこの子じゃないのさ」
「あら、いやだ。ホントそうね!」
笑いながらそんな事を言い合っている。
確かに危険度が一番高いポジションは俺だが、それでも全員の危険度も高い事に変わりはないのにそんな事も感じさせない程に明るい雰囲気で全員が笑っている。
別に恐怖心がない訳ではないだろう。
ただ、それ以上に周りが落ち込んだり、必要以上に気負ったりしない様に明るく振る舞っているのだろう。
それはふとしたタイミングで訪れる沈黙からも察せられる。
それでも周りに余計な負担を掛けまいとするこの人達は心が強いなと感じる。
もし、元の世界で魔物が急に現れて人を襲ったら、どれくらいの人が他者に寄り添える心を保っていられるだろうか?
別にこの世界の人が、この村の人が素晴らしいって訳ではない。
事実、村の奪還の為に協力的なのは少数だ。
多くの人は諦めたり、ファティマさんの所為にしたりしている。
「それじゃあ、行きましょう」
だからこそ、そんな恩人たちに幸せになって貰いたいと願う。
蒼司メモ ファブール村
異世界パンタシア大陸(正確に言えば他に陸があるかも不明なので大陸と称して良いかは不明)の西側の人が住む土地にあるアスファレス王国の貴族、アルスバイト伯爵が治める領地の中にある小さな村。
特産はこの村周辺で採取出来る薬草などから作る塗り薬。原材料の一つがルミア草はこの辺りにしか生えていない。
それにしても、言葉が通じる相手がこの村に居てくれて本当に助かった。
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いつも評価とブックマークを強請るだけだと芸が無いので蒼司の異世界での認識をメモという形で紹介していきたいと思います。
ここ最近、腕をやったり、コロナに掛かったり踏んだり蹴ったりでしたが、なんとか連載を再開したいと思います。
今後ともよろしくお願いします!




