第一節 一二項 物語の始まりは暗闇と共に
「・・・・・・?」
目を覚ますと、俺は布団で寝ていた。目の前には知らない天井、横には外からの光を零している障子と畳が見える。少なくともここは、牢屋ではなさそうだ。
俺は布団で横になっている体を起き上がらせると、部屋の角で座ったまま寝ている瑠依葉の姿が目に入った。
なんで瑠依葉ここにいるんだ? そもそも俺はなんで布団で寝ているんだ?
俺の頭の中で疑問がどんどん浮かび上がって混乱していると、外から足音が近づいてきてそのまま障子を開けた。
「お、起きたか。どうだ気分は?」
「・・・・・・?」
足音の正体は碎だった。碎は俺を見ると何かを取りに、来た道を戻っていった。
数分後、戻ってきた碎の手にはお盆の上に置かれた湯飲みと急須があった。
湯飲みは1人分しかなかったから、碎はわざわざ俺の為に持って来てくれたらしい。碎の口調も優しく小さなモノだったから、寝ている瑠依葉と寝起きの俺に気を遣ってくれたらしい。
俺は立ち上がろうと体を動かすと、碎が手でそれを制止した。
「まだ動くんじゃねぇぞ? 今の蛍の体はボロボロだから、ちょっとした事でもすぐに倒れちまう状態なんだからな? だから無理をすんな、寝てろ」
碎はそう言うと、持って来た急須から緑茶を湯飲みに注いで俺に手渡した。
もらった緑茶は瑠依葉さんが淹れた様に超絶おいしい訳ではなかったけど、碎の優しさを感じられて別の意味で美味しく感じた。
お茶を飲んで少し落ち着いた俺は、俺が倒れた後の事を訊いた。
「あの後大変だったんだぞ?蛍が倒れて慌てて駆け寄るともう蛍の心臓は止まってて、なんとか心肺蘇生をして心臓が動き出したと思ったら、今度は体中が痙攣し始めて高熱も出るからもう大変、大変。蛍は本当に死ぬ一歩手前まで行ってる状態だったんだぜ?でもねぇちゃんが付きっ切りで看病してたから、ギリギリ命を繋げられたから後で感謝しとけよ?」
「・・・マジか」
そんな状態になっていたなんて全然わからなかった・・・
さっきまで何も感じていなかったけど、碎から死にかけていたと聞いた途端、恐ろしく感じてしまった。
だからこそ、瑠依葉には本当に感謝しなきゃいけないとも感じた。
「でもなんで、瑠依葉さんはここまで俺の看病をしてくれたんだ?」
「それは瑠依葉の能力を使わないと回復出来ないぐらい、蛍の状態は危険な状態だったって事だよ」
俺の疑問に答えてくれたのは、碎では無く廊下に立って見ていた吉野だった。
「瑠依葉さんも能力を持っているんですか?」
「そうだよ。だから心臓が止まったのも、痙攣していたのも、高熱が出たのも、全部治す事が出来た。普通の治療する能力では、治す事が出来ないぐらいの状態だったけど、瑠依葉の月光があったから治す事が出来たんだ」
「月光?」
「ねぇちゃんは月光っていう、ある一族しか受け継ぐ事が出来ない珍しい能力の持ち主なんだぜ?」
「ある一族しか受け継ぐ事が出来ないって事は、かなり強い能力ってことなのか?」
「いや別にそういう訳ではないよ。月光の能力は、元々治療が出来る能力では無くて、本来は人々を月明りの様に優しく照らす事が出来る、ただそれだけなんだ。だからこの能力を持っている人は、能力者として活躍することは出来なかったんだ。でも、瑠依葉の一族はそれぞれの性格が能力に反映される遺伝子を思っているんだ。だから同じ月光使いでも、喧嘩っ早い性格なら身体能力が強くなるし、根暗な性格なら月光本来の力とは真逆のモノになる。瑠依葉の場合はお節介な性格が起因して治療系や家事に関わる力が強くなった。だから、広大な廃亡の都を一人で管理をすることが出来るんだよ」
「なるほど・・・」
確かにそう言われれば納得出来ない事もない。でも、本来の能力とは異なる力を発揮することが出来る遺伝子を持つ瑠依葉の一族とは一体、どんな一族なのだろうか?
そう考えていると、吉野が更に言葉を続ける。
「で、この遺伝子で一番の強みになるのがその力を周りに伝染させることが出来る事なんだ」
「伝染?」
「言ってしまえば、蛍と逆なのさ。蛍の能力は相手の能力を自分の力の様に使える事だったけど、この遺伝子は自分の力を相手に使わせる事が出来る。だから力が強くなる効果は相手にも適用することが出来るし、根暗ならネガティブな感情が相手にも伝わる。これを瑠依葉の場合は、治療をする時に使ってるみたいで癒しの効果を周りに振り撒くことで治療しているらしい。正直ここら辺の話は個人の感覚になるから詳しい事は分からないんだよねぇ、だからさ・・・」
吉野は一拍置いて、言葉を続ける。
「さっき碎も言ってた事だけど、瑠依葉が目を覚ましたらちゃんとお礼を言ってあげてね?瑠依葉の能力は使い過ぎると、心身ともにかなり疲弊するから、褒めてあげたりちゃんとお礼をすると瑠依葉が嬉しくなって、瑠依葉自身にも癒しの効果が掛かって回復するみたいだからさ、忘れないで言うんだよ?」
「・・・もちろんです」
当然だ・・・俺を死の淵から救ってくれた恩人へのお礼を忘れる訳がないだろ・・・
これで忘れたら俺は、どれだけ恩知らずな男になってしまうんだ。
俺は改めて瑠依葉への感謝を胸に誓い、立ち上がろうとしたが体がよろけて立ち上がる事が出来なかった。
「だから病み上がりなんだから無理すんなよって言っただろ?ただでさえ呪いの影響で体中の体力がごっそり持ってかれてんだからよ」
「呪いの影響?」
呪いの影響とは一体どういうことだ?呪いは能力者には影響が出ないんじゃなかったのか?
「本来呪いの影響が能力に表れることはないはずなんだ。だから蛍の認識はそれで間違っていない。でも、蛍の能力は例外だったんだ。」
吉野は俺の心を読んで、俺の疑問に答えてくれた。でも吉野の顔は、まるで予想だにしていなかった事態を目の当たりにしたかの様に大きく歪ませていた。
「例外?でも、さっきの母親の話ではそんな事言ってなかったじゃないですか?」
「うん・・・だって玲香の時にはそんな事なかったから・・・確かに玲香の能力自体がイレギュラーなモノであったから、使用者が蛍になって突然変異が起きても不思議では無いし、玲香自身がその特性を隠していた可能性も無くはないけど、そんな能力として欠陥している事を隠しているはずがないから、まず玲香が隠していたという事は無いだろう。だからこの能力として欠陥している特性は、蛍だけが持ってしまった因子なんだと思う。」
「・・・その例外とは一体何なんですか?」
「・・・能力者の呪いの影響を受けない特権が、蛍の場合失われてしまっているんだ」
「・・・えっ」
それって本当に能力として欠陥してるじゃん・・・
呪いの影響を受けないから、敵との対抗手段として用いることが出来る訳なのに・・・これじゃあ、能力として意味を成して無いじゃん・・・
俺はあまりの自分の能力の欠陥さに、絶望していると吉野が慌てて言葉を続ける。
「あ~えっと、蛍の特権が失われているのは能力者の能力を反映するときだけなんだ。だから、世界に漂っている呪いが影響はしないから安心して。ごめんよ、言葉足らずだった」
「・・・でも、能力を反映出来なかったら意味無いじゃ無いですか・・・」
「そんな事もないぞ」
部屋の外から二人とは違う声がした。声の方向を向くとそこにはフェールの姿があった。
「それはどういう事?」
「吉野さんから聞いたが、お前の反映は能力の部分だけを反映するのではなく、使用者が能力を使うために使った呪いの部分も反映してしまうんだ。しかし能力を使うためのエネルギー源である呪いを、反映は使う必要がない。だから反映してしまった呪いの部分を消化することが出来なくて、体に残ってしまう。そこでお前の欠陥である、能力を使った時は特権が失われてしまう事によって、体に呪いの影響が出てしまう。」
「・・・そうなのか」
「・・・理解出来てないな?」
正直、寝起きの俺はフェールの話を最後まで理解することは出来なかったが、能力を使ったら体に悪影響が出るってことだけは分かった。
フェールは呆れた様子で、言葉を続けた。
「はぁ・・・要するにだ、体に呪いを残してはいけないということなら、呪いを消化する事が出来る技や能力の使い方を得ればいい事ではないかと言うことだ」
「・・・なるほど、お前は天才か?」
「バカ野郎、こんな事知識がある人間なら誰でも分かる事だ」
フェールはそう言って吉野や碎の方を向くと、二人ともポカンとした顔をしていた。どうやら、フェールの言っていた事をまったく思いついていなかった様だ。
「・・・碎はともかく、吉野さんまでそんな顔しないでくださいよ!あなたここの長でしょう!?それぐらい考えておいてくださいよ!?」
「えっ?だって僕が考えなくても、誰かがやってくれるでしょう?ここには優秀な人間な二人もいるんだから」
「・・・」
フェールは吉野のバカさ加減に呆れて、ついに何も言わなくなってしまった。頭の働いていない俺でさえ、吉野の言葉には呆れてしまった。
「いや~冗談だからね?ちゃ~んと考えてましたから。それにさっきの表情も演技だからね。本当だからね!だからそんな冷たい目をしないでっ!!」
フェールは吉野が言い訳をする度に目が鋭くなっていき、その目線に吉野は耐えられなくなってフェールに土下座するまで追い込まれてしまった。廃亡の都の長としての威厳は何処へ行ったのやら・・・
そんな実に下らないやり取りを終えて、吉野は装いを改めて言葉を続ける。
「フェールの言う通り、体に呪いを残してはいけないということなら、呪いを消化しなければ使えない技や能力を習得すればいいだけの話。だから、フェールと碎。これからお前達二人には、技の使い方や能力の扱い方を教えてやって欲しい。出来るか?」
「はい」
「もちろんだぜ!」
「よし。それから蛍。勝手に話を進めてしまって申し訳ないが、これから蛍はウチの調査員になって尽力してもらいたい。そのためにもさっき言った事をフェールと碎から教わって欲しい。お願い出来るか?」
正直まだ話についていけてないが、俺はもうここにいる以外の選択肢は残されていない。それに、ジィに言われたみたいに俺はジィの為に強くならきゃいけない。だから俺の答えはもう決まっていた。
「もちろんです。これからよろしくお願いします」
この言葉から俺の第3の人生が始まった。第1の人生はジィに会うまでの地獄の様な日々。第2の人生はジィに会って廃亡の都に来るまでの幸せな日々。そして第3の人生、この第3の人生が一体どんな結末を迎えるのか俺には分からない。でもはっきり言える事は、これからの日々を地獄にするのも幸福にするのも自分次第だということだ。俺の物語はいつも暗闇と共に始まる。




