第一節 十一項 物語の始まりは暗闇と共に
重度の火傷でほぼ動けない俺に出来た事は、迫ってくるフェールに向けて刃を突き出す様な形で構える事だった。
結果としてその刃は避けられる事も、弾かれる事も無く素直にフェールの腹を貫いた。
普通なら突き出されていて、しかも全く動いていない刃であれば避ける事は簡単なはずだ。でも俺を殺そうと暴走列車の如く突っ込んでいたフェールは、刃の存在に気付いても避けたりなどの反応をする事が出来かった。
腹を刀で貫かれたフェールは、力無く後ろへ倒れた。
「・・・なんで・・・なんで負けた・・・こんなボロ雑巾なんかに・・・」
「そんなの、理由は明白だよ」
縁側で戦いの様子を見ていた吉野は、近づいてきて冷たい声色で言い放った。
「お前の敗因は、蛍に自分の能力を軽々と使われた事への嫉妬だ。」
「・・・嫉妬・・・」
「そう、嫉妬。自分は能力を満足に扱える様になるまで何年もかけてきたのに、こいつはその何年分の時間を軽々と超えてきた。だからお前はその事に嫉妬している。その嫉妬の感情に我を忘れたお前は、取り柄である冷静さを捨てて暴走した。だからお前は負けたんだよ。」
「・・・」
フェールは吉野の言葉に何も返す事が出来なかった。
吉野の言葉は全てが混じり気の無い正論で、嫉妬の炎に駆られ我を忘れて攻撃をしていた事が敗因であることは、本人が一番分かっていた。でもそれを認めたくない事を心を読んで知った吉野は、あえて正論を言う事で現実を見させたのだった。
「まぁそういうことだから、次の機会があったら冷静さを忘れるなよ。お前の取り柄の冷静さと頑固さを無くしたらいい所は何もなくなっちゃうからな?」
吉野の止めの言葉を受けたフェールは、刺された事による痛みの所為なのか現実を突き付けられた所為なのか分からなかったが、顔を大きく歪ませていた。
「それはそうと、蛍が調査員のエース2人にまさか勝つとはねぇ・・・相打ちぐらいになるのが関の山だと思っていたんだけど・・・ジィさんから叩き込まれた体術と反映の能力と相性がバツグンだったんだろうなぁ」
吉野はさっきまでフェールに向けていた冷たい声色から一変、心から驚愕していると言った声をしていた。
正直、俺は碎との戦いもフェールとの戦いも自分の力で勝てたとは思っていない。全部運が味方してくれたおかげだと思っている。能力だってどうやって使ったのかよく分からないし、動きだって稚拙なモノだったと思う。だから俺は、この勝利を心から喜ぶことは出来なかった。
「まぁそんなに考え込まなくてもいいじゃないか?」
吉野は俺の心を読んで、思っている事に対してアドバイスをした。
「この廃忘の都に来て初めて能力の存在を知った。そして自分の能力を扱う事に成功して、能力を使った手練れに対して勝つ事が出来た。それだけでもスゴイことだと思うよ?僕は。だから勝てた事を素直に喜んで良いんだよ」
吉野の顔と声色はとても優しいモノだった。さっきは心から喜ぶことは出来ないと言ったが、やはり心のどこかには勝てた事への嬉しさがあった。それを認めてはいけないと思ったが、吉野の言葉で俺は完全にストッパーが外れて心の中が嬉しさで一杯になった。吉野もそれを感じているらしく、嬉しそうな表情をしていた。
すると突然、体中が暖かい春風に包まれた様にポカポカと感じた。暖かさは体中にある火傷の痛みを取り払い、まるで火傷などなかったかの様に綺麗に傷を治した。
後ろを振り返ると、さっきまで俺の刀で貫かれて倒れていたフェールがオレンジ色の炎を灯した剣を俺に向けて立っていた。腹にあったはずの傷を見ると、やはり綺麗に治っていた。
「・・・今回俺はお前と戦って、まだまだ力が弱いと言うことが分かった。だからその礼にお前の傷を治してやる。別にお前に負けて悔しい訳じゃないからな?ただ同じ実力者として敬意を払おうとしている訳で、負け惜しみで格好をつけようとしている訳じゃないからな?勘違いするなよ」
「素直じゃないねぇ~冷静さが取り柄とは言ったけど、自分の気持ちに正直になってもいいんだよ?」
「いえですから、私は悔しい訳ではないですから・・・」
いや・・・誰がどう見てもさっきの発言は、悔しいから出ただろ・・・
必死に取り繕うとするフェールだが、もう時すでに遅しでみんなの認識を変える事はもう出来ない状態だった。その必死で取り繕うとするフェールの姿があまりに滑稽で、俺達は全員で笑ってしまった。
「あぁ・・・」
今まで張り詰めていた気持ちが緩んだ所為か、急に足から力が抜けてしまって地面に女の子座りの様にして座り込んでしまった。
「おいおい!?大丈夫か?」
「うん・・・大丈夫。ちょっと足から力が抜けちゃっただけだから・・・」
そう言って俺は立ち上がろうと足に力を入れ直すが、足が動いてくれない。それどころか、徐々に体全体から力が抜けてそのまま前に倒れてしまい、そのまま俺の意識は再び暗闇の中に飲み込まれてしまったのだった。




