3-15 少女
今回ちょっと短めです。
フードを深くかぶり、二振りの剣を構えたその人物の顔をうかがい知ることはできないが、それでも背丈や声などから少女であることがうかがえた。
本当に、この世界は物騒だ。少女だろうと容赦なく戦いに駆り出される。
というか、あの少女は何なんだ?まあ、状況からして恐らくあちら側なんだろうけど。そうだとするならば、俺たちはあの少女と戦わなければいけないことになる。
「そこのポンコツはあたしが持って帰らなきゃならないんだ。悪いが、渡してくれねぇか?」
お?なんだか、そこまでがっつりあっち側ってわけではなさそうだな。アラディンは完全に俺たちを殺す気満々――というかそれしか考えてなくて話が全く通じなさそうだったのに。
それでユウも話が通じると考えたのか、説得を試みる。
「すまないが、こいつは引き渡せない。なぜ俺を狙ったのか、この黒い結界は何なのか。いろいろと聞き出さないといけない」
「....フン。なら、戦うしかないみたいだな」
そういうと、短めの剣を二振り、構える。
そして、聞こえるか聞こえないかというような声でぼそりと、
「こんな仕事、本当は受けたくないんだけどなぁ」
とつぶやいた。
本当は受けたくない....?というか、仕事ということは雇われでこんなことをしているということか。でも、こんな....なんというか、完全に犯罪な闇の仕事って、他人を雇ってするようなものなのか?俺の勝手なイメージかもしれないけど、こういうのって闇の組織が自分の持ち駒を使ってするようなイメージがあるんだけど。
受けたくもない闇の仕事を受ける....なんか、きな臭いというか、違和感がある。
「あんたたちを殺す前に、せめて名を名乗っておくよ。あたしの名前はタリス。悪いが、死んでもらうよ」
やっぱり、違和感だ。アラディンなんて名を名乗るどころか話さえ通じなかったのに、なんというか....この少女、タリスは常識があるというか、礼儀正しいというか。本来、こんな仕事をしていてはいけないような、そんな感じがする。
口は悪いんだけどね。
そういえば、全く関係ないけどタリアと名前が似てるな――
と、そんなことを考えているうちにもタリスは俺たちを殺す気満々でこちらへ突っ走ってくる。
「じゃあね....ッ!」
アラディンを回収しようとしていたユウめがけて突っ走るタリス。
振るわれた剣を、ユウはとっさに飛びのくことによって避ける。が、タリスは避けて態勢を崩したユウにもう片方の剣で切りかかる。
――速い!それだけでタリスが剣の扱いに慣れている人間だということがわかる。
ユウが切り殺される。その寸前、ユウに向かって振り下ろされた剣を止めたのはアリシアだった。
「私を忘れちゃあ困るよ!」
そういって飛び出したアリシアが持っていたのは、いつも使っているものよりも幾分か小さい、ダガーとでも呼べるようなものだった。いつもの剣は、魔法が使えなくなったせいで持ち上げるのもままならない状態になってしまっているからか。その短剣でアリシアはタリスの剣を防ぎ、力を受け流す。
「ふん、案外やるね」
「あなたのほうこそ!」
そうやって余裕ぶっているが、アリシアが劣勢を強いられているのは俺の目にも明らかだった。
いつもは使っていない短剣を使い、しかも身体を強化する魔法すら使えないこの状況。ぎりぎりとはいえ、何とか保っていること自体がすごいのだ。
「でも、そろそろ限界じゃないのかい?」
タリスのその言葉を裏付けるように、素人目に見てもどんどんとアリシアの動きは遅くなっていく。タリスが二つの剣を使って猛攻を仕掛けているのに対し、アリシアは魔法を使えず短剣一本。攻撃をしのぐだけでも体力は削られていく。
息つく間もない剣戟に、次第にさばききれなくなった剣がアリシアをかすめるようになる。
と、そのとき、タリスの背後から唐突に短剣が付きだされた。
「――ッ!」
何とかかわしたタリスは、咄嗟に振り向いて剣を振るう。しかし、その剣が肉を絶つことはない。
「ルルちゃん!ありがと!」
「ん」
そこにいたのは、ルル。物理的な攻撃を全く受け付けないという特性と霊体であるが故の隠密性。その双方を生かした奇襲は、タリスに決定的な隙を与えた。
「やああ!」
ルルが作り出した決定的な隙を、みすみす逃すアリシアではない。
アリシアの蹴りがタリスの胸に直撃し、タリスが息を詰まらせ、大きく態勢を崩した。その瞬間、後ろからルルがタリスを羽交い絞めにする。が、これは実は危険な行為でもある。ルルは任意の瞬間に実体化できるが、実体化している間は自らも攻撃を受ける。つまり、羽交い絞めにしている状態で刺されたりしたら、ダメージをうけるのだ。
しかしタリスにルルを攻撃するだけの余裕はなかった。
羽交い絞めにされたタリスののど元に、アリシアがダガーを突きつける。
「ごめんね。悪いけど、死んでもらう」
そう冷たく言い放つアリシアの表情は、いつもの明るいものではない。獲物を狩るときの、覚悟を決めた目。このままだと確実にアリシアはタリスを殺すだろう。
だけど、俺はアリシアに、タリスを殺してほしくはなかった。
人だし。女の子だし。それに、何故か――本当に何故か、タリスは死んではいけないような....そんな気がしたのだ。
止めに入ろう。そう思って立ち上がりかけたそのときだった。
「待ってください!」
その声が、闘技場に響いたのは。
声の主は、ここにいるはずのない人物――タリアのものだった。
「タリア!どうしてここに?」
とユウ。驚くのも無理はないだろう。
タリアは今、どこかで囚われているはずなのだから。俺たちはそのタリアを救うためにここに来た。なのに、なぜタリアがここにいて、なぜタリアがタリスを殺すのを止めるのか。
タリアにとってタリスは、ただの敵のはずなのに。
その疑問に対する答えは、すぐにもたらされることとなった。
ほかでもない、タリア自身の口から。




