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15 終わり

「タカオさん、何をたそがれているんですか?」


 リージュと別れてからしばらくぼんやりしていると、後ろから声がかけられた。


「シュシュか」

「はい、私です」

「この際だ。向こうにつく前に聞いておこうか」

「あら、何ですか? タカオさんにだけは特別に、スリーサイズも教えちゃいますよ」

「アホか。もう知ってるわ。そうじゃなくて、魔大陸を旅するとか、何企んでるんだよ?」

「いいじゃないですか。どうせ私たち、100年旅したくらいじゃまだ老けないんですから」

「誰が百年も旅するかよ。明確な目的ないけど、10年いないに一回りして帰るぞ」

「まぁ、いったん戻るには妥当ですね」

「…ほんと、何が目的だよ」

「嫌でしたか?」

「嫌じゃねーよ。お前らと一緒だしな」

「ならいいじゃないですか」

「うーん」

「そんなに疑らないでください。私だって普通の女の子なんですから」

「だからなんだよ?」

「もう、さすが式をあげてから指輪を買ったタカオさんですね。女心が全然わかってません」

「仕方ないだろうが、式が突然だったんだから」

「結婚したら、新婚旅行に女の子は憧れるんですよ」


 いつものように優しく見える微笑みを浮かべるシュシュ。全く、どこまで本気で言ってるんだか。


「甲斐性なしのタカオさんのために私がセッティングしてあげたんですから、喜んでください」

「はいはい、有能で気が利く奥さんを持って幸せですよ」

「はい。私も、気がきかなくてお馬鹿でダメダメな、タカオさんが旦那様で幸せですよ」

「お前な、俺を馬鹿にするならするで、もっとそういう顔をしろよ」


 そんな風に、本当に幸せそうな顔で言われたら、怒れないだろうが。全く。


「そういや、斉藤は?」

「まだ荷物の確認ですよ」

「ちょっと手伝ってくる」

「もう、相変わらず差別しすぎです。妬けます」

「妬くなよ」


 シュシュにキスをした。シュシュはもう、と拗ねたように唇を尖らせる。


「最近のタカオさんは生意気です」


私の方がお姉さんなんですからね、とシュシュから俺にキスをした。









 斉藤にあてふられた部屋に行くと、せっせとひっくり返した鞄の中身を整理していた。


「斉藤、手伝うぞ」

「あ、高雄君。ありがと。じゃあ、高雄君の服を鞄につめていってくれる?」

「おう」


 思い立ったが吉日とばかりに、荷物をとにかくめちゃくちゃに詰めてでてきたので、鞄の中は誰のものかがばらばらにはいっていたりする。無限に入る鞄に改造したのはいいが、テキトーにつっこむといざと言うとき全部出さなきゃとり出せないのが欠点だ。なので時間がある今整理してるわけだ。


 斉藤の隣に座って片づけていく。何も話さなくても、斉藤が隣にいるだけでなんとなくほっとする。ほんとに斉藤が、大好きなんだなぁと思う。


「ねぇ、高雄君」

「なんだ?」

「今更だけどさ、高雄君は、後悔しない? 私と一緒にいて」

「馬鹿だな。しないって。何回も言っただろ。俺はお前とずっと一緒にいるって」

「高雄君は優しいから、そう言ってくれる。二人もそうだよ。でも、私といると三人とも人間でなくなってしまう。三人とも大好きだから、いいなかなって、思ってしまうよ」


 斉藤の魔力をどんなにわからなくしても、どんなに封じても、完全に消してるわけではない。近くにいればどうしても影響を受ける。

 斉藤の魔王としての魔力は生命を活発にさせる。斉藤自身はもちろん、そばにいるだけで最も最高の状態で老いがとまる。不老不死は言い過ぎだが、かすり傷くらいならなにもしなくても一瞬で直るくらいには影響を受けているし、体の変化ももうとまっているだろう。


「不老は人類の夢だぞ、斉藤。それにな、それってつまり、殆ど永遠の時間一緒にいられるってことだ。これって最高にラッキーだろ?」

「高雄君…」

「今は不安でもいいさ。10年、100年、1000年たてば、いくら斉藤が心配性でもわかるだろ。俺がお前のことどれだけ好きかってさ」

「……ほんと、高雄君は馬鹿だよね」

「失礼だな。あいつらみたいこと言うなよ」

「だってそうだよ」


斉藤は泣きそうに声を震わせる。泣き虫なやつ。そこが可愛いんだけど。俺はなんでもないみたいに、いつも通りに、ちょっとだけ肩をよせて頭を撫でる。


「私と、約束とも言えない約束のために、こんなとこまできて、なにもかも、人間であることまでやめちゃってさ」

「なに言ってんだ。俺は何もやめてねぇよ。俺は俺のままだ。お前とくだらない話をするのが好きで、お前とたわいない話をするのが好きで、もしもなんて益体のない話をするお前が、好きなままだよ。かわらねぇよ」

「もう、ほんと、馬鹿」

「おいおい、馬鹿馬鹿言いすぎだろ」


 斉藤はこぼれそうな涙を拭い、笑う。悪戯好きそうな、俺の好きな、あの頃とかわらない笑顔だ。


「ふん、ふふっ、馬鹿って言われたくなかったら、いい加減、名前で呼んでよね」


 私はもう、斉藤じゃないんだから。

どきりとする。長いこと斉藤斉藤と呼んでいて、結婚も準備しきれないままやって、俺は未だに斉藤呼びだ。恋人の時から言われてたけど、いい加減腹をきめなければ。


「わ、わかってるよ………真美」

「うん、高雄君。大好き」


 斉藤真美から高槻真美になったさい、いや、真美。世界一強い魔王様で、世界一寂しがりやの、俺の奥さんだ。これからもずっと、こいつと一緒にいるんだ。嫌って言っても聞いてなんかやるもんか。


「ねぇ、高雄君」

「なんだよ?」

「もしも、もしもだよ?」

「またもしも?」

「またもしも。ねぇ、もしも、私がまた異世界にいったら、ねぇ、また迎えにきてくれる?」

「当たり前のこと聞くなよ」


 もしもまた異世界にいっても、また迎えに行くよ。今度は三人で、どこまでも、いつまでも。ずっと一緒だ。











完結です。

見てくださってありがとうございました。

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