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ななみけ  作者: るべの
12/22

第十一話:今井の恐怖

「てことで、俺を置いて話を進めないで、いいすか」


「おうよ」


「はい」


仁は二人を一瞥すると両手をパンっと叩いて言った。


「じゃ、取りあえず話を戻そう。式場はどこにするかだったっけ? 」


「違うよっ!! 何その急展開っ!? 」


「ひぅー、ひぁー」


「いや、そこ普通、ひゅー、ひゅーでしょっ!! もはや何がしたいか分かりませんよっ!! 」



「姉さんの口笛につっこむとは・・・家族皆が姉さんの口笛が吹けていないと気づきながらも姉さんがあまりにも嬉しそうに口笛を吹くもんだから、家族皆で気を使っていたというのに・・・それをつっこむとは...勇者だな」


「え、あ、すいません。知らなかったものだから」


霞はうろたえる今井に、“いや、いいんだ”と、一言告げてから仁を見る。


満面な笑顔だった。だけど、何故か凄く怖い。今井は霞の威圧感に脅える事しかできなかったと言う。


そして、これが目は笑っていないということなんだろうなとも思った。



仁は今更ながらに後悔した。今井をいじる事に夢中で霞の恐怖を忘れていたのだった。



「仁、お前ちょっとこっち来ようか」


「何、姉さん? 」


「ん、ご褒美だ」


「姉さん、その握り拳は、な、なんですか? 」


「だから、ご褒美だって」


「あ、そうですよね、マッサージとかしてくれるのかななんて、あはは」


「そうだな、お前には日頃面倒かけてるし、マッサージでもしようか...頭蓋骨の」


「え、何ですか姉さん? 最後が小さくてよく聞こえなかったですよ」


仁は涙目になりながらも最後の抵抗とばかりに必死に声を絞り出し、迫り来る霞から逃げる。



「仁、お前は言い子に育った。私何かには比べ物にならないぐらいにな・・・だからといって、人にはやっていいことと悪いことがあるんだ」


「姉さん、すいませんでしたっ!! 」


「許さんっ!! 」


そう言って、目をギラッと光らせて霞は仁に襲い掛かる。


仁も必死でその魔の手から逃げようとするのだが、遅い。



あっという間に霞に四の字固めにされてしまう。



横で見ていた今井も霞の姿を一瞬確認することができなかった。


それぐらい目にも留まらぬ速さで霞は仁の補足に成功した。



「言い残すことは」


「俺は悪くな、ぐわぁぁ」



どうなったのかは皆さんのご想像にお任せします。





「ただいまっ!! あれ、どうしたの仁? 」


雪は帰ってくるなり慌しい足音を鳴らしてリビングに入ってきて、声を上げる。


「雪...知ってるか...三途の川は思っている以上に...深いぞ...」


そう最期の力を振り絞って言った後、仁は床に仰向けに倒れこんだ。


「仁っ!! 」


雪はすぐさま仁のもとへ駆け込む。



「雪...後は、頼んだぞ・・・バタッ」


そう言って目を瞑る仁。


「じーーーーーーーんっ!!」


叫ぶ雪。



「大袈裟すぎるんだよ。なあ、今井君」


「あ...はい」


今井は隣で笑ってそう聞いてくる人のプレッシャーに押しつぶされ震えながらそう答える。


もう金輪際この人には逆らわないようにしよう、そう心に誓った今井であった。



「霞姉さん、仁が、仁がっ!! 」


「お前はいつまでやってんだ」


霞はそう言って雪に手刀をお見舞いする。


「え? 」


「大丈夫だよ。そんな強くやってないし」


「あ、そうなの? 」


雪は“なーんだ”と言って、机に座ろうとしたところで今井に目が合う。



「や、やあ」


今井は遠慮がちに手を上げる。



「霞姉さん、変質者入れたら駄目でしょうが。警察呼ばないと」


「あの、僕、今井です」


「霞姉さん、変質者が丁寧に挨拶してきたよ」


そう言って、雪は机の下に潜る。



そんな雪を見ながら霞は、


「もうそのボケさっきやったし、お前は私によく似たなぁ。それと、今井君ちょっと傷ついてるから」


と言って、溜息をつく。



「あ、ごめん、今井」


「いや、大丈夫だよ」


内心もの凄くほっとする今井。もし、雪が本気で言っていたのならもう彼は立ち直れなかっただろう。



「んでも、何で今井がここに? 」


「そういや、そうだな」


「あの僕は雪さんに、」



「...告白しにきたんじゃね」


雪に理由を説明しようとした今井だが、突如、地獄の底から蘇った男に口を挟まれる。



「君は口を挟むなっ!! おとなしく寝てなさい!! 」


「え? 何て何て? 」


「いや、何でもないよっ!! 」


興味深そうにする雪に今井は慌てて誤魔化す。


動揺からか声のボリュームがいつもよりも二割増しな気がした。



「ま、大体分かるけどな、雪の荷物を届けに来てくれたってとこだろ」


今まで黙って二人を見ていた霞がそう言う。


「あ、はい。そうです」


「あ、そういえば、持って帰るの忘れてた」


「はぁ、やっぱりな」



「ありがとう、今井」



「あ、あぁ」



雪はニッコリと笑顔を今井に送りお礼を言う。今井は顔を赤らめ、視線を泳いでいた。


この時の今井は天にも昇る勢いであったのだ。


この笑顔が見れて、本当に荷物を届けて良かったなと思った。



ありがと、うちの担任。名前忘れちゃったけど、ありがとう。顔すらうろ覚えだけど、ありがとう。




その頃一方、学校では



「田路先生、何読んでるんですか? 」


「うん、これか、これはな」



「“これを読めば印象&好感度10割増し、間違いなし”だっ!! 」



そんなこんなで田路先生以外、めでたし、めでたし。




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