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ななみけ  作者: るべの
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第十話:今井の動揺

「はぁ、はぁ、はぁ」


「どうしたんだ。そんなに息を切らして? 」


「君のせいだろう・・・」


今井は息を切らしながらリビングの椅子に腰を下ろしていた。


それに対して仁は涼しい顔をしながらコーヒーを啜っている。まるで、何事もなかったかのように。


「俺が何かしたっけ」


「君は一回、記憶障害を疑った方がいいね」


「ご忠告ありがとうございます」


「えぇ、どうも」


そう吐き捨てて、今井は仁に淹れて貰ったコーヒーを口にする。


濃厚な香りが口の中に広がり、咽喉下を通る適度な温かさ、味も言う事なし。


素直に美味しいコーヒーだと思った。だが、


「ふっ、まぁまぁだね」


今井は目の前の男を素直に褒めることをしたくないのと自分のペースを乱されないようにするために落ち着いてそう言った。



「今、流行のツンデレか? 」


「違うわっ!! 」


だが、その試みも一瞬で崩される。


「男にそんなことされてもなぁ」


「だから、違うっ!! 」


「照れなさんな」


「照れてないよっ!! 」


と、そんな言い争いをしていると不意にリビングの扉が開けられ、



「ふわぁと、仁~うるさいぞぉ。何だ、客か? 」


そんな暢気な声とともに一人の女性が入ってきた。


今井の第一印象は美人だなぁであった。


腰まで長く垂らした艶のある黒髪に整った顔立ち、抜群のスタイル。


だが、今井が美人だったと思った最大の理由は他でもない。


その顔立ちがどことなく雪に似ていたからであった。



だが、今井は分からなかった。


彼女が着ている胸元に“生命”と書かれたTシャツが。


ふと、何かの視線を感じ、仁の方を見てみると凄い剣幕でこちらを睨んできたのでこのことには触れないほうがいいのだろうなと雰囲気で察する。



「仁、何黙ってるんだぁ。私を紹介しろぉ」


「あぁ霞姉さん。えっと、こちらが俺の姉の霞です」


「霞です。よろしくねぇ」


「あ、はい、よろしくお願いします」


「で、こちらが変質者の、じゃなかった雪のクラスメイトの今井君だ」


「ついに全部言っちゃったねっ!! 包み隠さず言っちゃったね!! 」


「変質者ぁ~」


先程まで寝てたらしく霞は寝ぼけた目で今井を睨んできた。


「仁、変質者入れたら駄目でしょうが。警察呼ばないと」


「ほんとだっ!! 」


「じゃないでしょうがっ!! 本当真面目にお願いしますよ」


今井は深く溜息をついて霞に向き直る。


「えっと、雪さんのクラスメイトの今井です、よろしくお願いします」


「仁、変質者が丁寧に挨拶してきたよ」


霞は素早くリビングの机の下に潜る。


「・・・これ、わざとやってるんですよね」


「いや、素だろ」


「・・・もうどうでもいい」





「ごめん、ごめん、取り乱しちゃって。いやぁ雪のクラスメイトかぁ」


「はい、霞姉さん、コーヒー」


「ありがとう。流石我が弟、気がきくな」


そう言った霞はニッコリと仁に笑顔を振りまいた。


一瞬仁は恥ずかしそうに視線をずらしたのだが、今井は別段気には留めなかった。


「どういたしまして」


仁は霞の顔を直面せずにそれだけ言うと霞の横の席に腰を下ろした。今井とは真正面の席である。



「で、どうなんだよ」


「何がでしょうか? 」


唐突に霞に掛けられた言葉に今井は反射的に聞き返す。


「もう、告ったの? 」


「・・・は? 」


予想外の発言に今井は目をキョトンとさせ困惑の表情を浮かべる。だが、その表情の中には動揺も多かれ少なかれ含めれていたことだろう。


だから、その刹那目の前の仁が少しムッとした表情になったのにも気がつかなかった。


「とぼけんなって。お前、雪のこと好きなんだろ」


「な、なななななななななな」


この時点で今井の表情は動揺が100%を占めていたことだろう。


またこの時、仁の表情も更にムッとしたものになっていたのだが今井は当然気づくはずはなかった。


「どどどどどどどど、どうして、そんななななあ、話ににににに」


「もうこれで決定だな」


霞は呂律が上手く回らない今井をニヤッとして見ながらそう言う。



「いやぁ流石、我が妹、私に変わらずモテるねぇ」


「姉さん、私に変わらずは余計かと」


「ん、何か言ったか? 」


「いえ、なにも」


ギラっと目を光らせて仁を睨む霞、慌てて目を逸らす仁。


今井には目の前で行われたこのやり取りすら耳には入っていなかった。



「あ、あの雪さんには・・・」


「分かってるよ」


「霞さん・・・」


霞は美しい笑顔を惜しげもなく見せる。今井はその姿を見て天使を想像する。




「帰ったらすぐ報告しよう」



「目の前に悪魔がいます」


天使だと思ったら悪魔でした。


今井が思っていることを口にすると、霞はニシッシと綺麗な歯を覗かせながら笑って、



「冗談だよ」


「霞さん・・・」


悪魔だと思ってたけどやはり天使であった。天使が舞い降りたぞと、近隣の方々すぐさま言い回りたい。


そう思いながら、今井は尊びの眼差しを彼女に向けていた。



「自分で言おうな」



「目の前に閻魔がいます」


天使だと思ったら悪魔を通り越して閻魔でした。


今井が思っていることを口にすると、霞はニシッシと綺麗な歯を覗かせながら笑って、



「嘘だよ」


「霞さん・・・」


閻魔だと思ったけど天使を通り越して神で「しつこいわっ!! 」



不意に頭に来た衝撃に今井は何事かとうろたえる。


その時、スリッパを持った仁と目が合う。



「お前ら、わざとやってるだろ」



彼はそれはそれは怒っていました。


自分が置いてけぼりにされたのがよほど気に食わなかったのでしょうか。



えぇ、これを鬼の形相だと言うんでしょうね。




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