第一章 【追放】「魔法が使えないゴミ」と捨てられた現場監督、ポポロ村で『地球の産廃』を召喚する
【追放】「魔法が使えないゴミ」と捨てられた現場監督、ポポロ村で『地球の産廃』を召喚する
「赤城鷹人。お前、今日でクビな。明日から現場に来なくていいから」
ルナミス帝国公認の『勇者』であり、ゴッドチューブで絶賛売り出し中のインフルエンサー、ゼロス・ディバインは、エンジェルすまーとふぉんの画面から目を離さずにそう言い放った。
「理由は?」
「言わなきゃ分かんない? お前、ウチのチャンネルで一番『配信映え』しないんだよ」
ゼロスは不自然なほど白い歯を見せて鼻で笑う。
「俺が派手な魔法で魔物を吹っ飛ばして視聴率(PV)を稼いでる後ろで、お前はチマチマと罠を張ったり、荷物を運んだりしてるだけ。しかも魔法も闘気も使えないただの無能だろ。コメント欄でも『あの地味なおっさん誰?』って叩かれてんだわ。これ以上、俺のブランド価値を下げないでくれる?」
魔法至上主義のこのアナスタシア世界において、魔力も闘気も持たない鷹人は完全に「ゴミ」扱いだった。
だが、鷹人は作業用カーゴパンツのポケットに両手を突っ込んだまま、特に表情を変えなかった。
「……そっか。まあ、残業代もロクに出ねぇブラック現場だったしな。ちょうど辞めようと思ってたところだわ」
「はっ、強がんなよ。せいぜい野垂れ死なないように、日雇いのドカタでも探すんだな!」
嘲笑するゼロスに背を向け、鷹人はあっさりと勇者パーティーの拠点を後にした。
悔しさなど微塵もない。むしろ、肩の荷が下りた気分だった。
(魔法が使えない、ね……。まあ、確かに手から火を出したりはできねぇけどよ)
鷹人はタフジャケットの襟を立て、前職――陸上自衛隊の特殊工作部隊で支給されていた安全靴の踵を鳴らして歩き出した。
彼には、魔法よりも遥かに手に馴染む『力』があった。
三大国が睨み合う緩衝地帯、『ポポロ村』。
のどかな農村と、不釣り合いなほど強固な防壁が混在するその村の入り口で、一人の老人が途方に暮れていた。
「ああっ、荷車の車軸が折れてしもうた……これじゃあ収穫した太陽芋が運べん」
通りかかった鷹人は、老人の横にしゃがみ込むと、腰の工具差しからレンチと予備のボルトを取り出した。
「じいさん、ちょっと退いてな」
鷹人が手慣れた手つきで車軸を噛み合わせ、ボルトを締め直す。
かつて期間工として車の組み立てラインで死に物狂いで働き、紛争地の泥沼で重機を直してきた彼にとって、木製の荷車など子供の玩具にも等しい。
わずか数十秒で、荷車は元通りに動くようになった。
「おおっ! 魔法も使わずに直してしもうた! あんた、ただ者じゃないな!?」
「ただの現場作業員だよ。気をつけて行きな」
驚く老人を見送りながら、鷹人は立ち上がって首を鳴らす。
その瞬間、鷹人の脳内に無機質なシステム音声が響いた。
『善行(インフラ修復)を確認。スクラップPtが【500】加算されました。現在の保有ポイント:510』
これこそが、鷹人の持つユニークスキル【リサイクルマスター】。
私利私欲ではなく、人助けや現場の安全を守る『善行』を行うことでポイントが貯まり、地球上のあらゆる『ゴミ(産業廃棄物)』を原価ゼロで召喚できるという、狂った能力だった。
「さて、とりあえず飯でも食える場所を……」
鷹人が村の中へ足を踏み入れようとした、その時だった。
――ジリリリリリリリリッ!!
突如、村中にけたたましい警報が鳴り響く。
「魔物だ! 森からオークの群れが来たぞ!!」
「自警団はどこだ! 早く門を閉じろ!」
村人たちが悲鳴を上げて逃げ惑う中、巨大な斧を持った豚頭の魔物――オークの群れが、村の防壁を破壊して雪崩れ込んできた。
その凶悪な刃が、逃げ遅れた子供に振り下ろされる。
「危ないっ!!」
鋭い声と共に、一人の少女が飛び出してきた。
現代風のパーカーにショートパンツ姿。その頭にはピンと立った兎の耳。
ポポロ村の村長、キャルル・ムーンハートだった。
彼女は両手に構えたトンファーでオークの巨大な斧を受け止める。
凄まじい衝撃音が響き、キャルルの足が地面に沈み込んだ。
「くっ……! 子供たち、早く逃げて!」
(力強い……でも、数が多すぎる!)
キャルルは武闘派の月兎族だが、相手はオーク10体以上。
子供を庇いながらの防衛戦では、自慢の脚力も活かせない。
別の方角から迫ったオークの一撃が、キャルルの脇腹を浅く切り裂いた。
「きゃあっ……!」
血を流し、膝をつくキャルル。
オークたちが醜悪な笑みを浮かべ、一斉に得物を振り上げる。
キャルルが死を覚悟し、目を閉じた――その瞬間だった。
「おいおい。ヘルメットも被らずに現場で暴れるとか、完全に『安全基準違反』だぞ」
低い、どこか呆れたような男の声が響いた。
次の瞬間、キャルルに迫っていたオークの巨体が、宙を舞って後方へ吹き飛んだ。
「……え?」
目を開けたキャルルが見たものは、カーゴパンツにタフジャケットを着た見慣れぬ青年――鷹人の背中だった。
彼は金属製の腕時計をハメた右拳を握り込み、柔道の背負い投げの要領で、体重200キロを超えるオークを軽々と投げ飛ばしたのだ。
「おっさん、ガキを連れて下がってろ。ここは俺が引き継ぐ」
鷹人は腰の工具差しに手を伸ばしながら、脳内で念じた。
(スクラップPtを10消費。召喚対象――『工事現場の単管パイプ』)
鷹人の手に、サビだらけの無骨な鉄パイプが握られる。
「ブゴォォォォッ!!」
怒り狂ったオークたちが、魔法の障壁を展開しながら一斉に襲いかかってきた。
「魔法のバリアねぇ。そんなモン……」
鷹人は一切の躊躇なく、鉄パイプをフルスイングした。
ガギィィィンッ!!という金属音と共に、オークの魔法障壁がガラスのように粉砕され、そのまま頭蓋骨が陥没する。
闘気も魔法も乗っていない、純粋な『暴力と遠心力』の結晶。
「数が多いな。手作業じゃ日が暮れるわ」
鷹人は素早くバックステップを踏み、再び脳内でシステムにアクセスした。
(スクラップPtを500消費。召喚対象――『紛争地の遺棄兵器』)
空間が歪み、鷹人の手に、黒光りする無骨な鉄の塊が握られた。
かつて地球の砂漠地帯で持ち主を失い、ゴミとして放棄されていたアサルトライフル――『AK-47』。
「な、なんだあの奇妙な杖は……!?」
驚くキャルルを背に、鷹人はライフルのボルトをガシャッと引き、安全装置を解除した。
「悪いな。詠唱してる暇はねぇんだわ」
銃口が火を噴いた。
ダダダダダダダダダダダダッ!!!
空気を切り裂く轟音がポポロ村に響き渡る。
放たれた7.62ミリ弾は、オークたちが展開した強固な魔法障壁を「濡れた紙」のようにあっさりと貫通し、次々とその肉体を肉片に変えていった。
「ブギィィィィィッ!?」
「ガ、アァァ……ッ!」
わずか数秒。
圧倒的な弾幕の前に、10体以上いたオークの群れは一歩も踏み出すことなく、無数の風穴を開けられて全滅した。
硝煙の匂いが立ち込める中、鷹人は熱を持った銃身を肩に担ぎ、短く息を吐く。
「……嘘。魔法陣の展開もなしに、あんな威力の攻撃を……?」
キャルルは地面に座り込んだまま、目の前の光景が信じられずに呆然と呟いた。
一方その頃。
ポポロ村の上空数百メートルの位置で、一つの影が震えていた。
天使の輪と羽を持ち、無駄に派手な聖騎士の鎧を着込んだ下級天使、キュララ・アルセルラである。
彼女の手には、超高画質の魔導ドローンカメラが握られていた。
「な、ななななな何アレェェェェッ!? 魔法じゃない!? 闘気でもない!? なのにオークが秒殺されたんですけど!?」
彼女が展開しているゴッドチューブの生配信画面は、異常な速度で滝のようにコメントが流れ、同時接続数がうなぎ登りに跳ね上がっていた。
『は? 今の何!?』
『詠唱なしで連続爆発!?』
『あの鉄の杖ヤバすぎだろwwww』
『あの現場のおっさん誰!? 神回キタコレ!!!』
「や、ヤバいヤバいヤバい! これ絶対バズる! ゼロスとかいうエセ勇者の配信なんか目じゃないくらい数字取れるわよ!!」
キュララは興奮で顔を紅潮させながら、カメラのズームを鷹人に合わせた。
「ん?」
地上でAK-47を下ろした鷹人は、地響きと共に森の奥から現れた巨大な影を見上げた。
オークたちの血の匂いに釣られて現れたのは、体高5メートルを超えるS級魔獣――『アーマード・ベア』だった。
全身がミスリル並みの硬度を持つ岩の鎧で覆われた、歩く災害。
「逃げて……! あれは、普通の攻撃じゃ絶対に傷一つつけられない……!」
脇腹を押さえながら、キャルルが悲痛な声を上げる。
だが、鷹人は焦る様子もなく、作業着のポケットから100円ライターを取り出した。
カチッ、と火をつけ、咥えたゴールデンバットにゆっくりと火を灯す。
紫煙を天に向かって細く吐き出し、鷹人はニヤリと笑った。
「普通の攻撃じゃ無理か。なら丁度いい」
鷹人は吸いかけのタバコを指で挟み、重低音の足音を立てて迫るS級魔獣を見据えた。
「大仕事になりそうだな。――『重機』の出番だ」
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
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