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4.尖塔の都

俺はラヴァンと別れた後、街に戻って宿屋を探した。さすがに、文化の都と言われるだけあって、通りを行き交う人々の衣装はどれも洗練され上品だった。

「さて、宿は・・・」

尖塔の都と言われる街で、馬小屋がある宿を見つけるのはなかなか大変そうだった。

俺は安宿の多そうな下町を探した。

そんなとき、愛想のいい商人が俺に声をかけてきた。

「お客人、宿をお探しで? どちらから来られたんですかな?」

「俺か? 北方王国からだ」

「ほう、北方から。ということは冒険者様でございましたかな?」

「まあ、そんなところだ」

「やっぱり! 見ればすぐに分かりました。眼光鋭いその風貌、魔物なんてひと振りで倒してしまわれるんでしょうなぁ」

「いや、・・・まあ、それほどでもないが」

お世辞と分かっていても、そこまで言われると少し照れる。

「貴方様のような立派な冒険者様にお会い出来るとは光栄です。ぜひ、とっておきの宿をご紹介させてください。さあさあ、どうぞこちらへ」

その時、肩の上のケトが俺の耳を引っ張った。

「痛っ・・・なんだよ、ケト」

ケトは毛を逆立て、商人にシャーと牙をむいた。

「ケト?」


俺はふと、先日ケトに言われた言葉を思い出した。

『ええか、ここは生き馬の目ぇ抜く国やで。ちょっとでも気ぃ抜いたら、財布も荷物も全部持ってかれんで』


ふと商人が案内しようとした路地をのぞくと、人影もまばらで、商人の笑みもどこか芝居じみていた。


「・・・悪いが。別の宿を探すよ」

俺がそう言うと、商人の笑みがすっと消え、すぐに肩をすくめて別の客を探しに行ってしまった。

「助かったよ。お前がいなかったら、あのままついて行っちまうところだった」

「ふん。これやから北方の田舎もんは」

「・・・」

「なんや、言いたいことあんねやったら、言うてみい」

「・・・それ・・・すごく傷ついた」

「笑かしよんなぁ、兄ちゃん。冗談やって、元気出しや~」

じつのところ、俺は騙されかけて少し落ち込んでいた。ケトは励ますつもりで言ってくれたらしい。

「ワイが謝ったら元気出すんか?」

「出す」

「ほな、なんぼでも謝ったるわ。ごめんねごめんね~。どや、元気出たか?」

「出た」


そんなやり取りをしながら歩いていたら、その先の通りに「馬の上で眠る猫の絵」が描かれた看板を見つけた。

「旅籠・三毛猫亭だってさ」

「決まりやな」

「馬小屋もありそうだ」

俺はそちらへ手綱を引きながら馬の首元を優しく撫でた。




早朝、王都の喧騒はまだ遠く、門の内は静かだった。

俺が東門で待っていると、馬のいななきとともに、茶色の馬に跨ったラヴァンが姿を現した。

その後ろには、黒い立派な馬を引いた従者がついて来ていた。


「待たせたな」

ラヴァンは馬を止め、軽く顎をしゃくった。

「こいつはノワール。お前に貸そう。よく走るぞ」

「え、いいのか? こんな立派な馬を」

一筋の乱れもなく垂れる黒馬のたてがみが、黒真珠の様に輝いていた。

「借りたらええやん。ラヴァンの馬は優秀やで」

「でも・・・」

「お前の馬は相当疲れているぞ。毛並みが悪い。かなり無理をさせたんじゃないのか?」

俺は言葉を失った。

確かに思い返せば、こいつには、ここまでずっと無理をさせていた。

俺はラヴァンに叱られたような気分になった。


自分の馬の手綱を従者に預け、従者から、黒馬の手綱を受け取った。そして深々と頭を下げた。

「お前の馬はうちで預かる。元気にして返してやるから安心しろ」

「ありがとう・・・ございます」

「さあ、出発だ。ケトは俺の方に乗るんだろ?」

「そんなんあるわけあらへんやろ」

そう言うとケトは俺の肩に飛び乗った。

「ケト、降りてくれよ。馬の荷の付け替えをするんだから」

「嫌や。ここはワイの安全地帯なんや」

仕方なく俺はラヴァンの従者に手伝ってもらって、やっと馬の鞍替えを終えた。



馬で走っていると、王都の東門があっという間に遠ざかった。

「山脈のふもとまでは九日だ。山脈を越えるのにだいたい三日。王都から離れれば宿場はないからな。その先は野営だ。覚悟しておいてくれ」

ラヴァンの口調はなんだか頼りになる指揮官って感じでかっこよかった。

「わかった。案内よろしく頼むよ」

俺は頷き、手綱を握り直した。


ここまでお付き合いありがとうございました。

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