第8章:能力の終焉
それは、“世界がまだ静かだった頃”から続いていた。
――**能力**は、ある日突然、人類に“与えられた”。
多くの者はそれを「進化」だと信じた。だが、真実は違った。
能力は選ばれた人類が自分で手にした力ではない。
人類に与えられた、“制御”のための首輪だった。
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学園地下・コード管理機構本部
「……ゼロコードが反応を示した?」
重厚な円卓を囲む男たちが、資料に目を落とす。
全員がこの世界の“秩序”を影で動かす者たち――コード管理機構の幹部たちだった。
「“ユウト=カミシロ”……無能力者のはずの少年が、ついにゼロコードの核心に到達した」
「まさか、“純粋無能力体”がここまで来るとは……ゼロの本質に気づいたのか?」
「……始末するか?」
会議室が一瞬静まりかえる。
やがて一人の女性幹部が口を開いた。
「……否。“力”を持つ者が、“力を否定する者”にどう敗れるのか――それを見届ける価値はある」
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学園・訓練棟屋上
ユウトは、エリスと並んで夜空を見上げていた。
「君はもう、“普通の生徒”じゃなくなったね」
エリスは、淡く笑った。
「……それでも俺は、変わらないよ。力を持っても、やることは一つ。
“与えられた能力じゃなく、自分で選んだ意志で戦う”って、それだけだ」
ふと、ユウトの手のひらに、かすかな光が走る。
それは、能力のようでいて、能力ではない。
“存在の書き換え”――現実定義。
それは能力すらも再構成できる、ゼロコード最終段階の兆候だった。
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翌日・学園アナウンス
「全校生徒に告ぐ。3日後、臨時昇格試験が実施される」
「参加は自由。だが、合格者はコード管理機構への特別推薦が決まる」
生徒たちは騒然とした。
(コード管理機構――それは、“この世界の神々”に最も近い存在)
だが、これは試験ではない。
“ユウト”という異常値を、表舞台に引き出し、力を見極め、必要とあらば――排除するための“儀式”だった。
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深夜・教授の部屋
ユウトは、あの黒のロングコートを纏った男――教授に呼び出されていた。
「君はすでに、“力”の本質に辿り着いたようだね」
教授は煙草をくゆらせながら、モニターに映る管理機構の資料を示す。
「コードというのは、元々は兵器だった。“秩序を操作する技術”の応用に過ぎない」
「……知ってたんですか?」
「もちろん。だが私は、それを止めようとは思わなかった。“選ばれた者”が生き残る。
それがこの世界の原理だと思っていたからな」
「じゃあ……俺は?」
「君が“ゼロ”として、選ばれなかった側から世界を壊すのなら……私はそれを見届けたい」
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教授の目が光る。
「管理機構の試験には、裏がある。“参加者全員、能力暴走の対象”として処理される計画だ」
「……殺す気か?」
「ああ。君も、君の仲間も例外じゃない」
ユウトは、深く息を吐いた。
「……ならやるしかない。俺がこの世界を――“書き換える”」
その瞳には、もう迷いはなかった。