【第28話/60日目】 悠真が見た“わたし”
「……キレイになったな」
その言葉が落ちてきたのは、放課後、いつもの坂道をふたりで歩いていたときだった。
日が傾き、街灯がぽつぽつと灯り始める時間。
コンビニ袋を片手に、会話もなく歩いていた静寂のなかで、
悠真は突然そう言った。
一瞬、意味がわからなかった。
「……は?」
「いや、なんつーか……顔、丸くなったっていうか、肌も明るくなったし。……“女の子っぽい”って意味で」
「……それ、今言う必要あった?」
必死に笑ってみせた。
けれど、その言葉の奥に含まれていた何かを、心が勝手に受け取ってしまっていた。
“キレイになった”。
それは、嬉しくなんかない。
恥ずかしい。
怖い。
自分じゃない誰かになっていくようで。
……なのに。
どうして、涙が出そうになる?
「冗談ならやめろよ、そういうの」
「冗談で“キレイ”なんて言わねぇよ。俺、そんな器用なことできねーし」
悠真は、まっすぐだった。
何のてらいもなく、ただ事実として言っただけ。
だからこそ、苦しかった。
鏡に映る自分を、自分自身が見慣れてきた頃。
周囲の視線にも、だんだん慣れてきたと思っていた。
でも、“好きな人”から、
“本気でそう思ってるかもしれない”目で見られることの重さは、
比べものにならなかった。
「……なんで今さらそんなこと言うんだよ」
声が震えた。
「ごめん。でも……そう思っただけで」
それ以上は、言わなかった。
それ以上は、聞かなかった。
ただ歩いた。
沈黙のまま並んで、肩が触れそうで触れない距離を保ちながら。
けれど、その言葉は確かに残っていた。
“キレイになった”。
どんなに否定しても、
それは心のどこかで――嬉しいと思ってしまった自分の存在を、浮かび上がらせていた。
──60日目。誰かの言葉ひとつで、心はここまで揺れる。
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