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【第27話/58日目】 遥香と祠で手を合わせた日

「ここ、やっぱり落ち着くね」


遥香の声は、風に溶けるように静かだった。


6月も終わりに近づいたある日。

夕暮れが差し込む神社の境内に、ふたり並んで立っていた。

あの祠。あの日、すべてが始まった場所。


けれど今日の空気は、不思議なほど穏やかで。

誰かを責めるでもなく、過去を突きつけるでもなく、ただ“今のふたり”を受け止めてくれているようだった。


「私ね、前はずっと“約束”に縛られてたの」


遥香はそう言って、そっと祠の前にしゃがみこむ。


「でもね、今は違う。“陽翔くんに、そばにいてほしい”って、ただそう思ってるだけ」


「理由なんてなくていい。約束を果たすとか、愛してほしいとかじゃなくて……」


「あなたが、あなたのままでいてくれたら、それでいいって、思えるようになったの」


俺は、言葉をなくしてただ立ち尽くしていた。

遥香の横顔は、やさしくて、少しさみしげで。

それでも、凛としていて綺麗だった。


気づけば、俺も膝を折って隣に座っていた。


手を合わせる。

何かを祈るというよりは、ただ静かに、目を閉じて。


風が、ふと吹いた。


その風に乗って、遥香がぽつりと呟いた。


「……大丈夫、もう一人じゃないよ」


その言葉が、胸の奥をやわらかく叩いた。

涙が出そうになるほど、あたたかかった。


責めない優しさ。

答えを求めない好意。


それは、今の俺がいちばん欲しかったもので――

だけど、誰かに与えることができるほど、まだ強くなれないと知っているものだった。


「ありがと」


それだけしか言えなかったけれど、

遥香は「うん」と笑って、俺の手を軽く握った。


その手のひらの温度が、

今まで感じたどんな“女としての感覚”よりもリアルだった。


──58日目。“約束”じゃなく、“今”を信じてくれる人が、そこにいた。

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