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第22話:父の紹介

 エスコートをする父に嬉しそうに微笑みながらライラは父と共に煌びやかな夜会会場へと足を踏み入れる。ギラギラと輝く豪華なシャンデリアに芸術とはこのことだと主張するかのような美しくも複雑な彫刻を施された柱の数々。床にも抜け目なくいくつもの素晴らしい模様と絵が描かれ、見る者を楽しませながらも圧倒させるまさに帝国一のダンスホールであった。


 そんな華やかで豪勢な会場に二人の親子が入場すると、その注目は一斉にその親子へと注がれた。


 堂々とした佇まいに美しい顔立ち。そして親子を象徴するかのようなキラキラと輝く真っ白な髪。姿勢を崩さず前を見据え、人が二人のために作った道をよどみなく歩いて行く。


 この帝国一の武勇を誇る父ケディックに連れ立って歩く一人の女性に皆が一様に驚き目を見張った。なぜならその美しき女性はドレスではなく、真っ白な美しくも勇ましい軍服を華麗に着こなしながらも優雅であることは見間違いようもなかったからである。


 親子は驚き惚ける者達を尻目に真っすぐとある人物へと足を運んだ。目的の人物は向かってくる旧友に気づくと嬉しそうに両手を広げる。その様にケディックも嬉しそうに両手を広げると久しぶりの再会を喜ぶため熱い抱擁を交わした。


「おぉ! ロンダル、元気か!?」


「やぁ、ケディック! おかげさまで!」


 存外にも大袈裟に挨拶を交わす父と友人であろう人物とのやりとりを邪魔しないようにしながらもそっと二人に近づくライラ。豪快に笑うロンダルと呼ばれた少しふくよかで景気の良さそうな男の傍らには息子であろう青年がライラを視界にいれると僅かに頬を染めていた。


「ロンダル、娘のライラだ。ライラ、彼はロンダル・エルレント伯爵だ。昔からの旧友でな、優秀な商家でもあるから物資などに困ったら頼むといい」


「ライラ・ロンチェスターと申します。お目にかかれて光栄です」


 握手を交わすとロンダルはまたも豪快に笑った。


「ライラ嬢! こちらこそお目にかかれて光栄だ。君の噂は聞いているよ。素晴らしい騎士団長だそうで! さすがはケディックの娘御だ!」


 この言葉に醜聞を好む貴族達は聞き耳を立てながらクスクスと嘲笑していた。確かに以前と違って随分と雰囲気が変わったライラだが、どうせ父の威光をかりて戦場で男を侍らせる術を学び、出来た娘を演じているのだろうと曲解し楽しんだ。


 どうやらここにきて未だ母マライアの蒔いた禍根が残っているようで、どうしてもライラを勇ましいケディックの実の娘とは認めたくない気持ちが根付いているようだった。だがそんなことを気にすることもなく親子達は和やかに話を進める。


「あの屈強な男達をまとめ上げるとは大したものだ! しかもこの短期間で! 功績も残しているしこれから先も大いに期待できる。がはは! 帝国も安泰だな!」


「まぁ、うふふ。お褒めの御言葉感謝いたします。わたくしの騎士達は優秀でわたくしの手足の様に動いてくれるので助かっています」


「あなたのような美しいレディーに微笑まれたら張り切って戦場でも活躍できましょう。騎士達が羨ましい」


 クスクスと可憐に笑うライラにアピールしようとロンダルの息子は饒舌に語り、自分もライラの虜の一人だと暗に主張する。ロンダルにはあまり似ていない細身の美丈夫に周りで聞いていた令嬢達は羨ましそうにしながらも少女の様に頬を染め会話の経緯(いきさつ)をこっそりと見守っていた。


 ライラは息子の言葉に面白味を感じて、また華が咲いたように笑った。その表情や仕草に息子は思わず心臓が大きく跳ねる。


「うふふ! 面白いことをおっしゃるのですね。女の微笑み一つで動くようなそんな愚か者がいたら、わたくしの騎士団では即刻処刑ですよ」


「え……? しょ……しょけ……?」


 楽しそうに口元に手をあて笑うライラに息子だけでなく、聞き耳を立てていた貴族達も一瞬聞き間違いか? と体を固めた。だがロンチェスターを良く知るロンダルだけは嬉しそうにケディックの背を強く何度か叩くとまた豪快に笑う。ケディックは体格も体幹も良いためびくともせず、ライラの言葉に自慢げに頷いていた。


「がっははは! さすがはロンチェスター! 本当にケディックによく似た勇ましくも頼もしい娘御だ! 良かったなぁ友よ!」


 父によく似ている。この発言にライラは嬉しさを隠しきれなかった。そしてつられるように愛する父への称賛を語りだす。


「お父様のお選びになった騎士達は本当に素直で優秀で。三人の見せしめだけでわたくしという存在を良く理解してくれました。うふふ、さすがはお父様。人を見定めるその目、わたくしも学ばなければと日々精進の毎日ですわ」


 楽しそうに語り合う四人もとい三人の近くで同じく夜会に参加していたフリオとエンディーはその会話を耳に入れてしまい思わず戦慄した。


「げーまじか、あれ団長達の計算だったんだ。えぐぅ。フリオに止められて話しかけに行かなくて良かったぜ」


「……」


 位の高い貴族だけがこの夜会に招待されたため、伯爵位のフリオと功績を認められた子爵位のエンディーも実は参加していた。ちなみに男爵位のエルトにはまだ声がかからず、侯爵位だが面倒くさがったダグラスは仮病をつかい参加していない。


 エンディーは会場のざわめきからすぐに美しき我らの団長を目にし、近づこうとしたがそれを真面目なフリオに止められ少し寂しさを感じていた。いくら同じ騎士団とはいえここは皇家主催の公式の場。身分の低い者には、高位の者から話しかけに行くのが普通である。もちろんライラとケディックのことだから気にするとは思ってもいなかったが、礼式を重んじるフリオにはどうしてもそれを許すことができなかったのだ。


 しかし結果的に助けられたとエンディーは身震いする。ライラはそんな二人を視界の端に入れつつも今は今後必要となる者達と知り合うことが先決であるとロンダル達との会話を楽しそうに続ける。


「ライラの采配も見事。父も鼻が高い! 安心して我が友ロンダルを紹介できるというものよ」


「がはは! 嬉しいことを言ってくれる。ライラ嬢の頼みとあらば多少の無理も喜んで受け入れよう!」


「まぁ、うふふ。ロンダル卿、感謝いたします。どうぞ今後ともよろしくお願いいたしますね」


 和やかに物騒な会話をするロンダル達に息子は冷や汗をかきつつも、何とか会話に入ろうと努める。


「は……はは、は! さすがは、御冗談も騎士流なのですね」


 苦笑いを浮かべる情けない息子にロンダルは呆れたように言葉を返した。


「何を言っている。冗談な訳ないだろう、戦場とは厳しいのだ! やはりお前もすぐにでもキャラバンに加えてその根性叩き上げねばならんな!」


 息子の背を力強く叩きながらまたも豪快に笑うロンダルに、息子も聞き耳を立てていた者達も徐々に顔を青くさせていく。決して冗談ではないという事実に……。


「ではロンダル、次は戦場で会おう」


「あぁ! まかせておけケディック」


 ロンチェスター親子はロンダルとの会話を終えると早々に次の者達に挨拶するために行ってしまった。その姿を息子は慌てたように父の服の袖を掴んだ。


「え!? ち、父上! ライラ嬢と私の仲を取り持ってはくれないのですか!?」


「何を馬鹿な事を! ただわしを見つけてケディックが挨拶してくれただけだ! ライラ嬢のような優秀な騎士にお前の様な軟弱者が相手として務まるわけもないだろう」


 父の容赦のない本音にがっくりとうなだれる。実はあの危険な雰囲気にもドキドキと胸が高鳴っていただけにショックが大きかった。息子のうなだれる姿を目撃してしまったフリオは心の中で合掌し、エンディーは機嫌良さそうに鼻を鳴らす。


 父ロンダルは呆れたように小さくため息を吐きながらも慰めるように息子の髪をくしゃくしゃにした。


「まぁ、お前だけじゃない。ケディックは愛する娘を誰にもやらんつもりだからしょうがない。それに、あの娘御はこれからこの帝国を背負って戦うのだ。きっと陛下もライラ嬢をお気に召すだろう」


 美しい輝きを惜しみなく放つ二人の親子を感慨深そうに見つめながらロンダルは息子の髪を撫で回し、楽しそうに笑った。


ー・・


 ライラ達は一通り挨拶を済ませるとようやくフリオとエンディーのもとへと赴く。父ケディックは近くで同じく参加していたグランツと酒を酌み交わし、和やかに夜会を楽しんでいた。


「うふふ、お父様のおかげで今日はとても良い縁をいくつか結ばせていただきました。これでまた戦場を心置きなく楽しめます」


 ワイングラスの中にあるシャンパンをクルクルと弄びながらライラは上機嫌にそう呟いた。


「お疲れ様です、団長」


「団長! 俺、団長のドレス姿楽しみにしてたのにー! 勇ましく美しいことに変わりはないですけどちょっと残念……」


 ぐすっと涙を拭う仕草をしながらおどけるエンディーにフリオは呆れた顔を向ける。


「まぁ、エンディー。わたくしは誇り高き騎士ですよ。そんな華美で動きにくいものを身に着けたりしません。いついかなる時もすぐに戦えなければ騎士の名折れです。何よりこの美しい軍服はお父様からの賜り物。素敵でしょう?」


「!? そ、それはもう! ドレスよりそそるっす!」


 変わらず上機嫌なライラだったが、鬼のケディックからの贈り物だと知ったエンディーは恐怖から余計なことまで口走っていた。そんなエンディーをフリオは更に冷たく白けた目を向ける。


「アウレリアス皇帝陛下並びにメリンダ皇妃陛下の御成りです」


 その声に会場中のすべての者が玉座へと視線を移す。そこには畏怖を振りまき尊厳を携え堂々とした姿を見せる賢帝と称されるアウレリアスと、その隣には可憐ながらもどこか威厳を感じさせる美しき皇妃メリンダがそっと寄り添いながら玉座へと腰を下ろす。


 その我らが皇帝夫妻に会場からは緊張の中にどこか惚けたような声が聞こえてくる。


「続いて第一皇子ラウル殿下並びご婚約者アメリア・ロンチェスター公爵令嬢の御成りです」


 年若く美しい金の髪にどこか人を見下したような青い瞳をした美しい青年の腕に自分の腕を絡ませながら妹アメリアが勝ち誇ったような顔を姉ライラに向け、クスっと小さく笑った。



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