第109話 闇属性のメイド発見! ってあれ?!
店の入口に待ち構えていたのは、
黒ずくめとまでは言えないものの怪しい黒系の服、
一応は店の主人という姿に見えなくも、ない。
「一応、こちらの手紙を」
「はい確認致しました、一回限りのお客様ですね」
「じゃあ、この地図は」「回収致します」
……なんだか雰囲気が不気味なうえ、
なんかこう、変な感覚がするな、空気感が張りつめているというか、
こんな地下の怪しい店なんだ、異質な感じがするのは当然だろうが……
(奥へ連れて行かれると、色んな魔道具があるな)
闇魔法関連もあって、
ナンスィーちゃんが食い入るように見ている。
「こっ、これはあああああ!!!」
「今では貴重な、昔のアイテムバッグですね」
「あとこの杖は!!」「伝説の魔法使い、大魔導師ギリオス様のという噂が」
噂かぁ、
値段がえげつないが怪しいからやめておこう、
ってここへはそんなのが目的で来た訳ではないのだが。
(やはりここは、僕が聞かないと)
「実はここへは、人探しに」
「奴隷ですね、獣人でしょうか」
「いえ、闇属性のメイドです」「丁度、入荷がありますね」
えっ、これはもしや、いきなり?!
「それはどちらに」
「こちらです、少し入り組んだ所へ、こちらをくぐって下さい」
「あっはい、みんなも気を付けて」
狭い場所を入って行く、
これ途中で詰まって出られなくなったりしないよな?
などと入っていくと……あった檻だ、四角い籠タイプのやつ。
(メイド服の黒髪女性が横たわっている)
よく見ると……知らない女性だ、
僕が知らない間に奪われた婚約者メイド、
ワンディちゃんとは似ても似つかない細身の若いメイド。
「ええっと、彼女は」
「はい、名をロレッタと申しまして、
とある今はもう滅びた闇の村、その最後の子孫と言われています」
闇の村……
そう聞くとウチの地方が真っ先に思い浮かぶが、
今の闇の村って、いくつかのがひとつにまとまった村だって聞いたからだ。
(でもなんだろ、ウチの魔女とは毛色が違う気がする)
それはもう気配と言うか、
育ちによる空気が違って感じるとしか、
このあたりは元住民のみんなに聞いた方が。
「みんな、彼女を見てピンと来た人は挙手で」
……誰も手を挙げない、
ほぼ全員連れて来てコレだから、
きっとウチとは関係の無い出自なのだろう。
(居ないカタリヌさんの知り合いだったら、間が悪かったって事で!)
「彼女と話しても良いですか?」
「ええもちろん、ただ購入するまではあまり個人的な事は」
「……彼女のですか」「ええ、買っていただけたら自由に聞いて構いません」
じゃあ出身地とか聞けないな。
「ロレッタさん、年齢は、ってこれはいいのかな」
売人を見ると……
「十八歳ですよ」「あっ、それはいいんですね」
「説明不足ですね、身元的な事でなければ構いませんよ」
「あっ、個人的ってそういう」「それに気をつけていただければ」
改めて聞こう、
まだ彼女の声も聞いてないし。
「ロレッタさん、奴隷、なのかな」「……売られました」
「戦闘能力は」「それ程では」「……ワンディちゃんって知ってる?」
「……」「知っているのかな?」「……知らないのかな」「ごめんなさい」
何か隠しているんだろうか?
本当に知らなくてごめんなさいなのか、
言えなくてごめんなさいなのか……気になる。
「えっとじゃあ、メイドのみんなも聞きたい事があれば」
「おっとそれはいけません、購入する方、ご本人しか尋ねられません」
「じゃあ、ちょっと相談を」「そろそろお決めになられて下さい」
せかすなあ。
「闇属性のメイドは彼女だけ?」
「後は獣人しか御座いませんが」
「他のお店があるとか」「さあ」
……うーーーん、
これは彼女に賭けてみるかな?
「ひとつだけ身内で最終確認を」
「手短にお願い致します、客人」
「んーっとアンナさん」「はい」
小声で聞いてみる。
「……彼女、魔力的には」
「闇魔法を鍛えればモノにはなるかと」
「どのくらい?」「メイドバトルの手駒になるくらいには」
一応、売人に聞いてみよう。
「彼女、使い道に制限は」
「ありませんが、あまりに人道的に酷い扱いは」
「客を取らせるとか?」「そうですね、もちろんメイドと主人の自由恋愛は構いませんが」
とか言われてもねえ。
「他の獣人も見られるかな?」
「構いませんが、その場合は彼女を買う事はもう出来ません」
「選べないんだ」「今、選んでいただいている事となりますね」
よし、こういう時は……
「ナンスィーちゃん」「はいいぃぃいいぃぃいぃ~~」
「交渉して、金額が許容範囲内だったら買っちゃって」
「よろしいのでしょうかぁ~」「まあ、常識の範囲内で」
投げちゃった、
まあ財務担当みたいなもんだから良いよね?
本当に困ったら僕に改めて相談してくれるだろう。
(さすがに例の、宝箱のお金を全部使うとかは無いだろうし)
「わかりまぁしぃ~~」「眼鏡かけて」「はいぃぃ~~……お任せあれっ!!」
眼鏡ナンスィーちゃんが商人、売人と交渉を始めた、
その間に檻の中のロレッタさんを改めてまじまじと確認、
こちらを見て、なんだか訴えかけるような表情をしているな。
(助けて欲しい、って表情だ)
おっと大事な質問を。
「怪我とか病気とか、呪いとかない?」
「はい、闇属性が呪いのようなものとも言えますが」
「そのあたりの差別はね、でもまあ僕は一応、大魔導師の直系だから」
父が直系だから直系といえば直系なのです! 僕は長男じゃないけど。
「で、では、ダクリュセック派の」
「ウチで護ってあげるよ、買えたらだけれど」
「嬉しい……こんなことって、あるんですね」
しばらくして……
「ダルマシオ様っ!」
「あっはい、終わった?」
「予想よりもリーズナブルでしたっ!」
話がまとまったらしい、
商人が書類を持ってやってきた。
「では、こちらにサインを」
「ええっと、ここですね、すらすらと……」
渡して貰ったペンで書きながら、
金額を確認すると……うん、人身売買としてはまあ、
母上の書類でたまに見たメイドの売値と比べると、そこまで高くは無い。
(おそらく『闇メイド』というマイナスイメージで安くなっているな)
僕としては、
育て甲斐があるな、若いし、
本当に困ったら母上の所へっていう手もある。
「……はい、ご購入ありがとうございました、では皆さんこちらへ」
「ええっと、実は僕、ワンディっていうメイドを探していまして、情報があれば」
「ご購入は一度だけですよ、それが商品であっても、情報であっても」「あっ、そういうのも」
情報も買えたのか!!
「このまま真っ直ぐです、どうぞお通り下さい」
「ええっと、この先は」「お疲れ様でした、立ち止まると詰まりますよ」
あっ、これおそらく帰り道だ!
と気付いた時にはもう遅い、狭くて戻れないなこれ、
一番後ろも、もう閉じられちゃったみたいだ、男の気配も消えている。
「って、買ったメイドは?!」
「一緒に来ていますぅ~~っ!」
「あ、ナンスィーちゃんと一緒か」
こうして壁に挟まれた細道を抜けると水流の音が!!
「……ふう、やっと出られたよ、
ってここは地下下水道のかなり深い所か」
「ライト魔法を……」「ありがとうアンナさん」
みんなの姿が見えた所で、
誰も欠けていないか確認する。
「大丈夫だよねみんな?」
「あ~~~!!」「どうしたのナンスィーちゃん」
「今、出てきた道がもう消えていますっ!!」「すごいなそれ」
徹底しているものの、
ウチの屋敷の地下なんだよなぁ……
そのあたりも問い詰めてやろうと思ったが、今はまあいいか。
「じゃ、戻ろう、って道はどうなってるのコレ」
「御主人様、こういうのは各所に矢印があるはず」
「えっと……本当だ、これに従って歩いて行こう」
こうして僕らは、
なんとかして地上に戻ったのだった、
最後にナンスィーちゃんと一緒に上がって来たロレッタさんが夜空を見上げている。
(うん、疲れたな)
みんなメイド服が汚れてら、
って僕の身体もか、思わずため息が出る。
「……ふう、みんな急いで、お風呂に入ろう」
そして落ち着いたら、
ロレッタさんに色々と聞かなきゃ。




