第104話 このメイドバトル、何かがおかしい!
「ダイムスさん、審判をお願いします!」
ギャラリーの一人(たぶん先輩)が中庭の隅に居た警備兵に声をかける。
「うむ、我はこの学院で警備を任せられている、今の時間は中庭が担当だ」
胸を張っている、三十代中盤くらいかな?
ちょっとお腹が出てるけど大丈夫かな、うーん……
「先輩、この人でないといけませんか?」
「彼は中立だ、そして学院でお世話になるんだ、無礼はいけないよ」
「あっはい、ええっと……」
アンヌさんを見ると頷いているや。
「どうしてもというなら、別の人を探しても」
「いえ良いですよ、ダイムスさん、新一年生のダルマシオ=ダクリュセックと申します!」
「おお、ダクリュセック家か!」「やはりご存じで」「家名はな!」
そりゃそうだ、本家だもの。
(僕は九男だけど!)
みんな武器が決まったみたいだ、
その間に対戦相手であるベフォート先輩の所へ、
教室から椅子が持ち出されてその上に土足で立った、あれはいいんだ。
(そして腕を組んで、こっちを見下ろしている)
余裕そうな表情、
うん、これは勝って見返したいな。
「では両者、メイドの自己紹介を……まずは後輩から」
審判のダイムスさんに促されて、
ウチからか、やはりここはアンヌさんが真っ先に出てきた、
木剣を構えて相手のメイドに向ける。
「では私から、パーラーメイドのアンヌだ、
御主人様のためならどのような、ど・の・よ・う・な、
接客であっても完璧にこなしてみせよう、そういうメイドだ」
まーた意味深な事を言って……。
「お姉さんメイドのサンドリーヌよ、実家が食堂なの、
料理も私も美味しくめ・し・あ・が・れっ!
セクシーな給仕もお任せあれよ、頑張っちゃうんだから!」
そう言いながら木の斧をくるくる回す、
まあ確かにドリーちゃんは美味しいよねっ!
「私は……タマラですっ!
まだ二十歳のナースメイドですが、
よ、よっ、よろしくお願い致します……っ!!」
最後に気合いでも入れたのかな?
木の長槍を持つ手に力がこもったみたいだ、
やっぱりみんな、そこに目が行くよねえって感じの視線が。
(続いて先輩側のメイドだ)
「ティールームメイドのラヴィエラと申します、紅茶特化です、よろしくお願い致します」
武器というか防具は丸い木の盾だ、
自分が盾になって仲間に攻撃させるのだろうか、
タンクをやりたいなら大きいのもあるんだけれども。。
「ランドリーメイドのミンターと申します、十七代前の母がエルフです」
弓矢だ弓矢だ、そして血筋がうさんくさい。
「オールワークメイドのモティと申します、練習試合ということで、お手柔らかに」
背が高いうえに剣を二本か、
しかも長い、あれ木剣とはいえ自前だよね?
まあルール違反とかでは無いのだろう、ただ、どう動いてくるか……?!
「では双方、距離を取って構えたまえ」
静かになる中庭、
ダイムスさんが右手を高々と掲げ……!!
「はじめっ!!」
手を下ろした瞬間、
相手のメイド三人が一斉にタマラさんを襲う!!
(そうか、1人やられたら終わりか!)
しかしそのタマラさんの前に出たのは……!!
「ふんっ!!」
「「「きゃあああああっっっ?!?!?!」
一声で、
木剣の一振りで、
メイド三人まとめて弾き飛ばしたアンヌさん!!
(す、すげえ、何が起こっているんだ……!!)
これには椅子の上に立つベフォート先輩も唖然、
まあ正直、僕もぽかーんとしてしまっている感じだ、
そして尻もちをついたラヴィエラさんの喉元に剣先を。
「そこまでっ、勝者アンヌ!!」
……強い、強すぎる!
慌てて拍手する僕……だったが。
(あれ、この空気感、何かがおかしい?!)
「ダルマシオ君、だったね」
「はい、ベフォート先輩」
「……これ、花試合なの、わかっているよね?」
えええええ?!?!
「つまり、どういう事でしょうか」
「そこまで本気を出しちゃ、いけないよ」
「う、嘘?!」「まあ新入生だからね、仕方ないね」
いやいやいや!!
あの相手のメイド達、
完全に本気の飛び掛かり方だったんですけど!!
「じゃあ、では、どうすればいいんですか」
「次は2vs2で、決着のついたふたりは外れて」
「はあ」「御主人様、勝負は終わったのでは」
アンヌさんの言っている事はもっともだけれど、
周囲のギャラリーが許してはくれないみたいだな。
(そんなに新入生がイビられるのが見たいのか)
正確には『新入生のメイド』がだけれども。
「サンドリーヌさん、タマラさん」
「お姉さんは構わないわ」
「私は、ダルマシオさまがお望みであれば」
その言葉にギャラリーが盛り上がる。
(あっ、これはひょっとして)
うん、戦えば揺れるからねっ!!
「先輩、ひとつだけ確認が」
「何かな?」
「これ、次も僕らが勝って、マナーどうこうとか空気読めとか言われたりは」「それは無い」
……だといいけど。
「だそうだ、ふたりとも本気を出して良いぞ」
「いやアンヌさん……」
「まあ好きにすると良いさ、審判」
先輩が二戦目をダイムスさんに促した、
うん、これでもう本当に終わりにしよう。
「それではお互いふたりずつ、構えて!」
さあ、アンヌさんという絶対的エース抜きでの再戦だ。
「……はじめっ!!」
果たして、結果やいかに?!