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第3話 それはもう『部』じゃない

 黒髪の女生徒――制服に入った赤色のラインから二年生……つまり先輩だと分かった――に連れて来られたのは校舎の南側にある恐らくは使われていないであろう一室の前。そこで俺と弥生は首を斜め45度上に向けて固まっていた。そんな様子を先輩は何も言わずにただじっと見つめている。……頼むから何か言ってくれ……。

 俺たちの視線の先――ドアの上には馬鹿でかい紙が貼ってあり、さらにその紙には馬鹿でかくお世辞にも上手いとは言い難い字で『隠密活動部』と書かれていた。『部』の右斜め下に小さく『隊』と書かれているのは気のせいということにしておこう。あれがあるともうここは『部』じゃない。

「どう?」

 ようやく口を開いた先輩。どう?と言われても何がどう?なのかサッパリ分からない。何と答えようか考えていたら先輩が続けた。

「あなたたちに入ってもらおうと思っているのだけど……」

「入るって……まさか……」

 先輩が腰に手を当てて仁王立ちになり真っ直ぐに俺を見据えた。

「そう、そのまさかよ」

 右手を腰から離して俺を――俺たちを指差す。

「あなたたちには……」

 俺は、ゴクリと生唾を飲み込む。

「この、隠密活動部――」

 弥生も、ゴクリと生唾を飲み込む。

「隊に入ってもらうわ!」

 声高々に先輩が宣言した。そして『部』の右下の小さい『隊』は気のせいじゃなかった……。

「あのー、この学校は部隊を認めてるんですか?」

 恐る恐る先輩に聞いてみた。結構、勇気がいる。

「もちろん……不認可よ」

 ダメじゃん!てか「もちろん」って……認可されないこと分かって作ったのかよ!スゲーなこの人!

「だってどうしても作りたかったんだもん!」

 いきなり口調変えやがった。くそっ!元々美人なのにそんな喋り方したら……めっちゃ可愛い。

 俺が心中で悶絶していると今まで黙っていた弥生が口を開いた。

「どうしてもこの名前じゃなきゃいけないんですか?」

 そうだよな、せめて『隊』の一文字をとれば……いやだめだ『隠密活動部』でも十分怪しい。

「そんなことないわよ。ただ活動内容とかから考えただけだし」

「活動内容とは?」

 俺が問うと先輩は

「えーっと、尾行とか?」

「ストーカー……ですか?」

「違うわよっ!」

 ズドムッ!となんだか不気味な音がして先輩の拳が俺の腹にめり込んだ。絶対何か武道やってるだろこの人。てか痛ぇ……。

 うずくまる俺。

「何で……尾行……を?」

 腹が痛くて単語ごとにしか話せない。

「そりゃ、浮気調査のためでしょ」

 だれのだよ……。

「誰のですか?」

 おぉ!弥生サンキュ!

「誰のって……依頼人?」

「ということは依頼を受けるんですね?」

「まぁ、そういうことになるわね」

 そこで弥生は俺を見た。どうやら俺が新しい名前を考えなければいけないらしい。

 依頼を受けて浮気調査……この活動内容にしっくりくるといえばアレしかない。

 俺は痛む腹を押さえつつ立ち上がった。

「探偵部……なんてどうでしょう?」

「なにが?」

 先輩容赦ねぇ……。

「名前ですよ。隠密活動部隊の新しい名前です」

 すると先輩は人差し指を唇に当てて何か考え始めた。探偵部に決めるか迷っているのだろうか?

 しばらくして先輩は言った。

「……探偵事務所じゃ……ダメ?」

「……この学校、事務所は認めてるんですか?」

「もちろん……不認可よ」

 やっぱり!そうだと思ったよ!

「じゃあダメでしょう」

「そう……で、あなたたちは入るのね?」

「えっ……いや、まだ入ると決めた訳では――」

「じゃあ決定ね。あなたたちは今日から探偵事務所員よ!」

 会話しようぜ。って部員じゃなくて事務所員って……やっぱり部にするつもりは無いのか……。



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