真夜中のフットボール その5
俺達はびっくりドンキーで腹一杯になった後、司の提案で、腹ごなしにちょっとハチスタまで散歩をすることにした。
ああ、そうだった、この頃はまだ、八王子総合グラウンドな。途中、司の家に寄ると、司はボールを持ってきた。
ハチスタに着くと、メインのピッチでは八王子SCの選手たちがまだ練習をしていた。
確かこの頃は、関東リーグの1部と2部を行ったり来たりしていた頃だ。
選手も全員アマチュアで構成されていて、みな、仕事が終わって少ない時間をやりくりしてサッカーに打ち込んでいたはずだ。
俺達はお邪魔にならないように、隣のピッチで軽くボールを蹴り始める。
すると、司がリフティングをやり始めた。
前の世界では、誰よりも、リフティングなんて意味がないと言っていた司。でも実はチームで誰よりもリフティングが上手だった。
そのテクニックは未だに健在だ。おもわずその足さばきに見とれてしまう。
「おまえ、リフティングはサッカーに関係ないって言いながらも、暇さえあればやってたよな、前の世界で」
「アレ、そうだっけ?」そう言いながら、リフティングのトリック技の一つ、アラウンドザワールドを左右の足でこなす。
「まあ、さ、サッカーには関係ないけれど、これくらい、フットボーラーとしてのたしなみじゃん」そう言うと、ニヤッと笑う。
お前のそういうところが嫌味だっていうんだよ。
司は左右の足を器用に使い、一度もボールを落とさないまま俺にパスを渡す。
俺も負けじと、胸トラップから、左のモモ、そして、落ち際をインステップで司に渡す。
「おお、やるじゃん」と司。
伊達にお前の相棒を名乗らせてもらってるわけじゃない。
お互いの今もてるだけのテクニックを駆使して、意地でもボールを落とさずにパスを交換し続ける。
司は正確に左右の足でトラップをし、バックスピンをかけたこれ以上ないきれいなパスを出してくる。
俺だって、頭、胸、両足、体中のあらゆる部分を使って、司のパスをトラップすると、しっかりと、足の甲でボールをインパクト。元Jリーガーを舐めるな!!
しかし、悔しいかな、15回目に俺がトラップをミスしてしまい、ボールを地面に落としてしまった。とほほー。
「イエーイ、俺の勝ちー」そう言ってVサインをする司。
「くっそー」と腰に手を当て悔しさのあまり天を仰ぐと、すると背後からパチパチパチと拍手が聞こえた。
振り返ると、八王子SCの選手の人達が俺達のプレーを見ていたのだ。
俺はペコリと頭を下げる。
「鳴瀬君に、北里君だっけ?相変わらずうまいな。今、ビクトリーズに行ってるんだっけ」と俺たちのプレーを見ていたうちのひとりが言った。
「「はい」」俺達はそう言って、ペコリと頭を下げる。
「俺たちの中でも、有名だぞ、八王子SC出身で初のJリーガー候補だって」そういうと、そのお兄さんはニッコリと笑った。
「ありがとうございます。」俺も司も頭を下げた。
「じゃあ、がんばれよなー」そう言って、そのお兄さんは、練習に戻っていった。
「俺たち有名人なんだってさ」そう言ってグリグリと肘を当ててじゃれ合ってくる司。
「一人は引きこもりで、もう一人は普通の中学のサッカー部だぜ」思わず自嘲気味にそう言う。
すると、司がニヤッと笑って、「そうだな……でも引きこもりはもう終わりだ」と言った。
「ん?それってどういう意味だよ」
「昨日例の整形外科に行ったら、膝の状態がだいぶ良くなったんで、ついにサッカー解禁になったんだ。部活やビクトリーズの人達にもちゃんと挨拶しに行かないとな。迷惑かけたって」司は照れくさそうに言う。
「あっ、……そ、そうか」司からの思いもかけない言葉に俺は呆けたように返事をする。
「なんだよ、もう少し、喜べよ、神児!!」とちょっとムッとしたように司。
俺は上司のリクエストに応えるべく、天を仰いでから、ゆっくりと深呼吸。
そして司に言ったんだ。
「おかえり、司、待ってたぞ」と……
その日、久しぶりにボールを蹴りあうことが出来た俺たちは、時間が経つのも忘れ、時計の針が12時を過ぎてからも、やめることは無かったんだ。
作者の相沢です。「フットボールのギフト」読んで下さりありがとうございます。
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