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03.『感謝』

読む自己。

 相手をしたくなくてスマホを見てみると丁度そのタイミングで電話が掛かってきた。


「もしもし?」

「どこ行ってるんだよ!」

「お散歩中よ、それより花ちゃんは何時に来るの?」

「10時に迎えに行くつもりだけど」

「帰るのは?」

「多分、14~15時くらいだと思う」

「そう、それなら17時くらいに帰るわ、楽しみなさい」

「ちょ、だから別に――――」


 少なくとも晴の邪魔はしたくない。


「今泉さん、なにか時間を潰す方法はあるの?」

「特にないわね、お金も持ってきていないことだし」

「なのに今から17時までどうやって過ごすの?」

「……ねえ、そうやって痛いところチクチク突いて楽しいのなら構わないけれど、楽しくないならやめてくれないかしら」

「ははっ、痛いところなんじゃん! いいから家に来なよ! 最新ゲームだってあるよ?」

「昔からゲームとかやったことないのよ」


 確か晴は母に携帯ゲーム機を買ってもらっていた気がする。

 私はそもそも頼まないし、向こうは買う気がサラサラないので、これもまた嫉妬なんかしない。


「今泉さん、私とゲームで勝負して負けたらっ、姫ちゃんに謝って!」

「……そんなことしなくても謝るわよ、ごめんなさい姫さん」

「んー呼び捨てにしてくれたら許そうかなー」

「別に構わないけれど……姫」

「はははっ、それじゃあ僕も玲ちゃんって呼ぼうかなー! さ、どうぞ玲様っ」


 いや……それは私が言う役目ではないかしら。

 姫と雛ってどっちも可愛い名前でずるい。


「姫様、どうかお気になさらず」


 ――――結局、お昼ご飯もお菓子も貰って、ゲームも18時までじっくりとやってしまった。


「ご、ごめんなさい……」

「いいんだよ、寧ろ楽しかったよ!」

「そ、そう……それではまた月曜日に会いましょう」

「うん、じゃあね!」


 問題だったのはこの後だった。

 私が家の近くにやって来た時、丁度ふたりが出てくるところだったのだ。

 14~15時の間ではなかったの? と構えることしかできなかった。


「あ……ね、姉ちゃん……」

「ごめんなさい!」


 私は走って来た道を引き返していく。

 どうせバレたのなら家に入れば良かったのになにをやっているんだろうか。

 こっちに来たところでなにも意味はないのに……。


「あ、遠ざかりすぎてしまったわ」


 19時を超えてもうとっくに真っ暗になってしまっている。

 今度は家の方角に向かってとぼとぼ歩き始めた。


「ただいま……」

「あなた今何時だと思っているのっ?」


 家に帰ったら玄関に冷ややかな表情を浮かべている母親がそこに立っていた。


「ごめんなさい……」

「遅くまで遊んでくるような子にはご飯はいらないわよね」

「……お風呂入って寝るからいいわ」


 ……一応雛さんがお昼ご飯を作ってくれたし食べなくても問題はない。


「本当なら……家にすらいてほしくないけどね」


 堪えるわねぇ……こればかりは。

 どうせ明日もお休みだしお風呂に入ることもやめた。

 部屋に帰ってベットに寝転ぶ。

 姫が誘ってくれて本当に良かった。

 もしそうじゃなかったら踏んだり蹴ったり、悪いことだけが起きてしまった1日だったから。


「姉貴……なんで逃げたんだよ」

「あなたは余計なことを気にしなくていいのよ、あと私のところに来るのもやめなさい」

「なっ!? ど、どうして?」


 どうして、それは母に私が聞きたいことだ。


「私がこの家に必要のない存在だからよ」

「そ、そんなことないだろ!? 少なくとも俺にとっては……姉ちゃんいてくれないと嫌なんだよ」

「ふふ、ありがとう。ただ、あなたのその意見が真反対に変わってしまう前に、やめておいてくれないかしら」 

「そんなことは絶対にない!」 

 

 昔は母だって同じようなことを言ってくれていた。

 私が時折寂しくなって呟いた時「そんなことないわよ」「あなたは必要な存在よ」と言ってくれていたんだけれど、気づけばこうなっていた。

 なにをしたというわけではなく、なにができたわけではないから愛想尽かされたのだろうか。

 ……シングルマザーで疲れてしまったというのもあるのかもしれない。

 晴とは違って支えてあげることができなかったから当然の流れと言えばそうだと言えるけれど……。


「ご飯貰ってくる、どうせ食べてないんだろ?」

「いいわよ、お腹は減ってないわ」

「嘘つくなよっ」


 あーださい……あとこれだと晴を利用するんじゃないと怒られてしまう。

 お姉ちゃんのことを思って動いてくれればくれるほど、この家から私の居場所が失くなっていくのだ。

 お金を持って逃げようかし――――


「え、なんで引き出しっ……」


 確認してみると全部お金が失くなっていた。

 ……いくらむかつくからって邪魔だからってくれた物を取るなんて最低ではないだろうか。

 ただ、今回は明確に分かった。

 私はバックに着替えとか教科書とか全部詰めて部屋をあとにする。


「ね、姉ちゃん?」

「お金……全部取られたわ、だから出ていくのよ」


 スマホも意味ないから玄関に置いて外に出た。

 申し訳ないけれど頼れるのは姫達しかいない。


「あれ――――荷物持ってどうしたの?」

「ごめんなさい、お金はないけれど泊めてくれないかしら」

「分かった、入って」

「……ごめんなさいっ」


 あんな母に取られるくらいならこれからも友達でいてもらうかわりに80000円を彼女に渡した方がよっぽど良かった。

 玄関前で立ち止まっていたら姫が手を掴んで運んでくれて、再度早見家に足を踏み入れた。


「あれ、玲さんまた来たの?」

「雛」

「あ……ごめん……」


 いや、当然の反応だ。

 どこに夜遅く、大して仲の良くない子の家に行く不良娘がいるだろうか。


「ご飯やお風呂は?」

「どっちも……」

「もう21時過ぎだよ!?」

「……大丈夫よ」


 初めてというわけじゃないのだから。

 それに彼女が中にいれてくれた。

 これで野宿をしなくて済むというだけで御の字というものだ。


「あなた達こそご両親はいないの?」

「うん、転勤でね」

「それじゃあふたりきり……ね、ねえ、もし良ければ――――いや、やっぱりいいわ」


 両親がいなければ泊まりやすいな、そんな風に考えた自分に嫌気が差す。

 同級生が野宿しそうな勢いだったから、助けてくれただけだというのに。


「……お風呂入りなよ玲ちゃん」

「ありがとう、なにを使っていいのか教えてくれる?」

「うん、勿論だよ! 行こっかっ」


 汗もかいたしお風呂にだけは絶対に入りたかった。

 色々と教えてもらって洗面所で服を脱ぐ。


「玲ちゃん、僕も入るよ」

「え」

「同性なんだからいいでしょ? ふぅ、今日はちょっと暑かったよねぇ」


 一緒に入ることは問題ないんだ。

 問題だったのはその暴力性! パッドとかではない紛れもなく本物のお山!


「お、大きすぎない?」

「え? あ、あはは……いいことばかりではないよ」


 私くらいでも肩がこるくらいだ、彼女にとってはなおさらのことだろう。

 と、とりあえず浴室に入らせてもらって髪や体を洗わせてもらう。

 それで湯船に浸かったら――――


「玲ちゃん……」

「……80000万円もあったのにそれを……」


 凄く悲しくなって水滴が頰を流れていった。


「……そういえばさ、いつもお昼ご飯食べてないって及川さんから聞いたけど、なんで?」

「理由は特にないわよ……ひとつ挙げるとすれば気持ち悪くなってしまうからかしら」


 及川さん実は心配してくれていたのかしら。

 私は最恐とかしか言わなかったのに、またまた申し訳なくなる。


「ね、さっきの返事だけど、いいよ」

「駄目よ、朝とは違うのよ? もうお金がないの、甘えるわけにはいかないのよ」

「お友達が傷つくことの方が嫌だ、見て見ぬ振りするくらいなら死んだ方がいい」

「ちょ……大袈裟よ……あなたは必要とされているじゃない」


 死んた方がいいなんて私でも思わない。

 寧ろ絶対生き残ってやるからな! と闘志を燃やしているくらいだ。

 問題なのは人を頼らないとなにもできないことだけれど、自殺しようとする人間よりはまだマシだろう。


「僕にとって君はもう必要な存在なんだよ、だから素直に甘えたらどうなんだい?」

「またその喋り方……あなたに、雛さんに、メリットがないじゃない」

「メリットはあるよ、君といられることだ」


 またこの子はこんなに真っ直ぐ格好良く言うんだから……。


「雛さんが妬くわよ?」

「いいよ別に、それで大切な存在が守れるのなら」

「大切って……たかだが3日程度いたくらいじゃない」

「駄目なの?」

「だ、駄目とは言ってないけれど……」


 あの家で暮らすことよりかは幸せな時間を過ごせるだろう。

 気がかりなのは晴に会えないこと。でも、花ちゃんがいるんだし晴は大丈夫か。

 けれどせめて半額の40000円は最低でも取り返したい。

 それで1ヶ月くらい住む権利が買えないだろうか?


「姫、どうすればこの家に住める?」

「んー玲ちゃんが素直になることかな」

「え? お金とかは?」

「いらないよ、言ったでしょ? 僕は君がいてくれればそれでいいって」

「それなら明日、自宅に行くの付き合ってくれないかしら? ほら、きちんと言っておかないとあなたが悪いことになってしまうわ」

「分かった、いくらでも付き合うよ」


 お礼を言ってふたりで浴室を出た。

 そうと決まれば早く寝るのが1番だろう。

 着替えは持ってきているので自分のを着て。


「そういえばどこで寝ればいいのかしら……」

「僕の部屋で一緒に寝ればいいよ、雛ー」

「はーい?」

「おやすみー!」

「おやすみー!」


 彼女の部屋に入らせてもらうと、……可愛らしいと言う他なかった。

 ベットの横及び上にはイルカのぬいぐるみなどが置かれており、壁紙はお花柄、カーペットにはうさぎの絵という、格好良さとは真反対の空間だ。


「あはは、寝ようか」

「え、ええ……え、ベットで?」

「当たり前だよ、ほら、どうぞ」

「し、失礼するわね」


 緊張する……隣の彼女はどうだろうか?


「旅行みたいで楽しいね!」

「(た、楽しいって……)」


 どこまでも余裕がある子で羨ましい。

 本当に恐怖と戦っているのかしらこの子。

 あんな可愛らしい雛さんという妹がいて、その子とふたりきりの生活なんて、正に理想じゃない。

 おまけに雛さんは美味しいご飯が作れる。……対する私はなにも作ることができない、返せない。

 それなのに私といられるだけでいいなんて、素直に信じることができなかった。


「玲ちゃん?」

「やっぱり明日そのまま帰ろう――――」

「駄目だよ、絶対に君のお母さんを説得してこの家に連れ帰ってくるって決めたんだから」


 思わずビクリと固まりそうになるくらいの迫力。

 低い声音だから余計にそう感じるのかもしれない。 


「なんでよ、自分を守るんじゃなかったの?」

「それより大切なことなんだよこれは」

「分からないわね私には」

「分からなくていい、僕がしたいからしていることだから」


 私の手を握ったうえにこちらを真剣な顔で見る彼女。


「もう……甘えたくなるじゃない!」

「甘えてほしい、僕もそれで幸せになれるから」

「……寝るわ、電気を消して」

「うん、おやすみ」


 友達と言えるのかしら。

 一方的すぎて分からないわね……。




 翌朝、朝の10頃に自宅へと帰った。


「あなた出ていきたいの?」

「こ、この子の家に住みたくて……」

「そう、ならこのお金返すわ」


 返ってきたのはたった10000円だった。


「い、いいの?」

「私はなにも知らない、聞いてない、できないわ。その子のご両親になにかを言われても、悪いのはあなた、そうよね?」

「え、ええ……」

「スマホも解約するわ」

「……分かったわ」

「それではもう行きなさい、顔も見たくないのよ」


 動こうとした姫の腕を掴んで止めてリビングから出る。


「出ていくのかよ?」

「晴……ごめんなさい」

「……早見さん、姉ちゃんのことよろしくお願いします!」

「うん、大丈夫だよ晴君」

「……はい、失礼します」


 家をあとにして早見家へと向かっている途中、私はくしゃくしゃにされた10000円を彼女に手渡す。


「こ、これで……泊めて……ほしいの」

「それじゃあこのお札を使って今ここで君を抱きしめさせてくれない?」

「え? ……そんな価値ないわよ」

「いいから」

「……それじゃあ」


 って、つ、強いわねぇ……力がっ。

 泣いたりなんかしない。ああいうことを言われるのだって初めてではないのだから。


「寧ろ感謝したいくらいよ姫」

「……ぐすっ……ひっぐっ……」

「な、なんであなたが泣いているのよ!」

「だってぇ……玲ちゃんが無理してるんだもん……」

「してないわよ、早く帰りましょう」


 雛さんとまたゲームをすると約束していたのだから。

 大きいのに泣き虫な彼女を連れて家へと帰ろう。

6時と18時投稿にしよう。

早く終わらせてもあんまり意味ないし。

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