表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/10

02.『時間』

読む自己。


会話ばっかりだから注意。いつもどおりだけど。

「今泉さん、おはよう」

「あ、お、おはようございます」


 運が悪く上履きに履き替え教室へと行こうとした時に遭遇してしまった。

 相変わらず背が高くて胸も大きくて格好いい存在ではあるけれど、 


「うん? どうしたんだい?」

「あ……し、失礼します!」


 このまま関わっていたら恐らく精神的に殺されてしまうので、こうするしかない。

 物を隠されるとか悪口を言われるとかそういうの。

 全然興味を抱かれなくて今までは1度としてそういうのはなかったけれど、いつまでもされないというわけではない。


「待ってよ、僕がなにかしてしまったかい?」

「早見さんは悪くないですよ、悪いのは調子に乗っていた私の方です」

「ん、もしかして及川さんのこと気にしているのかい? 安心してくれていいよ、あの子は誰に対してもああいう態度を貫く女の子だし、仮になにかしてきそうになったら僕が守ってあげるから」


 なんでそういうことをさらっと言えるんだろう。

 同性だって射抜くそんな必殺のパワーが込められていた。

 でもだめだ、怖いからできない。

 守るって言ったって違うクラスだ。

 彼女が見ていない場所でされたら話にもならないのだから。


「ごめんなさい、私のことは忘れてくれると助かります、それでは」


 昨日調子に乗らなければ良かった。

 なにより「抱きしめていいかしら?」と聞かれて自然と受け入れる彼女も彼女だ。

 早見さんは及川さんことをああ言ったけれど、自分だってどうせ誰にでもそうしているに違いない。

 やっぱり理想は本が好きそうな女の子。


「あなた!」

「ひゃ、ひゃいぃ!?」


 丁度違う教室から本を持って出てきた女の子に詰め寄った。


「敬語はやめてください」

「あの……そちらこそやめてください……」

「私の名前は今泉玲と言います、よろしくお願いします」

「私の名前は早見雛と言います……」

「早見? あ……」


 目の色が逆で、髪色も逆なだけ。

 胸や身長はないけれどあの子とよく似ている……。


「雛、今泉さんを押さえててくれないかい?」

「わ、分かったよっ、姫ちゃん!」


 あら、名前は可愛らしい……じゃないのよ!


「や、やめてください早見さん……紛らわしいわね……姫さん」

「ふふ、嬉しいな、君が名前で呼んでくれるのは」

「姫ちゃん、今泉さんとどういう関係なの?」

「そうだね、もうハグした関係だね」

「ど、どっちからしたの!?」

「ふふ、僕だよ、この綺麗な子を見たら抑えられなくなってしまってね」

「きゃー! 姫ちゃん大胆!」


 なにこの姉妹……疲れるわ。

 なんかこの子といる方が及川さんに絡まれない気がする。

 昨日だってすぐに引いていたくらいだし、逆らえない子ってのもいるみたいだから。


「今泉さん、避けるのはやめてほしい」

「すみませんでした」

「敬語もやめてくれないのかい?」

「……姫さん、今度家に来ない?」

「いいのかい? それなら今日行かせてもらおうかな」


 ふふふっ、これで気になっていたことを試すことができるわ!

 まず帰ってきた晴を驚かす。そして驚いているところを姫さんに抱きしめてもらってドキドキするか確かめるのよ!

 ――――そして放課後。

 私は彼女を家へと連れていってリビングに居座ることにした。

 晴は野球部に入っているのですぐには帰ってこない。

 仕方のないことだ、しかも時間がかかればかかるほどより楽しさが増すというもの、悲観することではない。

 数時間して「ただいま……」とやる気のない声が聞こえてきた。

 やるぞ、やるぞ私っ!


「こらぁ!!」

「うわっ!? ど、どうしたんだよ姉貴……」


 早見さん今よっ、私は目だけでそれを伝える。

 でも、早見さんは晴を抱きしめてくれはしなかった。


「今泉さん、それはできないよ」

「あ……そう、よね……ごめんなさい」


 ま、初対面の男の子に抱きしめるなんて嫌に決まってる。

 やっぱり考えなし、すぐに失敗してしまうようだ私は。


「ごめんね晴君」

「は、はぁ……それより姉貴の友達ですか?」

「そうだね、昨日ならせてもらったんだ。早見姫、よろしくね、晴君」

「よろしくお願いします。あの! 姉貴のこと、本当にお願いします!」


 それどころか晴は真っ直ぐ私のことを思ってこう言ってくれる始末。

 ……私だけが悪者じゃない……。姉として最低なことをしようとしたのが申し訳ない。


「晴……ごめんなさい」

「……いいよ別に。それに姉貴に友達ができたなら嬉しいし」

「晴!」

「うわっ!? だから抱きつくなよっ、最後なんじゃなかったのかよ!」

「あ……やってしまったわ……姫さん……かわりに抱きしめさせてくれないかしら」

「僕は構わないよ」


 あー申し訳ない、姫さんにも晴にも。

 と思いつつ抱きしめてるんだから末期っていうものよね。


「なっ……だ、抱きつければ誰でもいいのかよっ」

「でも晴は嫌がるから……」

「もう知らねー! 馬鹿姉貴っ」

「あ……」


 女の子に抱きついているだけなのにどうして晴が不機嫌になるんだろう。

 ……なるほど、つまり自分が抱きつきたかったけど、できなかったから不満が溜まっていたのかもしれない。

 それに気づいてあげられなかった。

 姫さんはいいお姉さんでいられそうで羨ましい。


「ごめんなさい、迷惑をかけてばかりで」

「ん、なるほど」

「あ、気づいたのなら抱きしめてあげてくれないかしら? 多分、廊下に逃げただけだろうから」

「え? ……き、気づいていないのかい?」

「え? だからあなたに抱きしめられたかったのよね晴は。私じゃあ満足させてあげられないもの……残念だけれど」


 包容力があるわけじゃない。

 私が抱きしめても悪く言われて終わるだけだ。

 晴に馬鹿とか言われるのは堪えるし、そっとするしか私にはできなかった。


「今泉さん、僕はもう帰らせてもらうよ」

「ごめんなさい」

「いや、きちんと晴君と話をしてあげてほしい、それではまた」

「気をつけて」

「うん、ありがとう」


 彼女が見えなくなってから振り返ると、階段の側面に背中を預けて晴は座っていた。

 私はなにも言わずに横へと座って、それから晴の頭を撫でる。


「ごめんなさい、許してくれる?」


 自分からしておいてあれだけど、晴とだけは仲良くしていたいのだ。

 学校で友達ができなくてもこの際どうでもいい。

 家に帰って晴も帰ってきて、たまに口は悪くても話してくれる晴が大好きだった。


「……誰にでも抱きつくなって言っただろ」

「ええ、あなたの言うとおりだわ」

「どうしようもなく困った時だけ……俺に抱きついておけばいいんだよ」

「いいの?」

「別に俺は駄目だって言ってないだろ!」


 駄目だ……こんなこと言われたら甘えてしまう。

 晴の姉が私ではなく姫さんだったらどれだけ良かっただろうか。


「花ちゃんは?」

「明日休みだから明日連れてくる」

「それじゃあその時は出かけてくるわね」

「な、なんでだよ? 別に家にいてくれればいいだろ?」

「邪魔したくないもの、私を見て愛想尽かしてしまうかもしれないわ。それだけは嫌なのよ、少しでも晴のためにしたいの」


 私のためを思って晴は言ってくれたのに、私がしたのはマイナスなことだけ。

 姫さんにも窘められ、もしかしたら今度こそ関わりがなくなったかもしれない。

 それは最悪私だけの問題だからどうでもいいけれど、晴のそれにまで影響を与えてしまうのは避けたいのだ。


「お風呂にでも行ってきなさい」

「明日いてくれよなっ」

「悪いけれど、それは無理ね」

「……風呂行ってくる!」


 それに私がいたところで頑張らなければいけないのは晴だ。

 ただ休日に散歩にでも行こうとしているだけでしかない。

 休日にも遊べる誰か友達がいればいいのだけれど、残念ながらそんな人はいなかった。

 連絡先を交換したわけではない。家だって知ってわけではない。だから誘うことはできない。

 ひとり静かに地元の道を歩いておけば……花ちゃんは何時に帰るのかしら……。


「ただいま……」

「……おかえりなさい」

「……ご飯作るわ」

「……ええ」


 私が晴に甘えてしまうのはこれのせいでもある。

 どうして実の母親が実の娘を見て小さく溜め息をつくんだろう。

 やっぱり晴の姉に相応しくないということなのかもしれない。

 だったら晴には言わないまま甘えるのはもうやめよう。

 これから恋をするという時に弊害になる。

 弟の方からしても私は必要のない存在だから。

 

 


 土曜日。

 朝、自分で作った紅茶を飲んでから家をあとにした。

 目的地もゴールも特にない。

 もしかしたら連れて来る時間がお昼からだったりして無駄なことをしているのかもしれないとしても、どうでも良かった。


「おはようございます」

「おはよー! あれ、晴君とはいないのー?」

「ええ、そろそろ姉離れをしたいということですね」

「そうかな? ま、どこかに行くなら気をつけてねー」

「ありがとうございます」


 今、話していたのは近所のお姉さん。

 特別親しいというわけではないけれど、昔からずっと晴と行動していたため分かられているんだろう。

 歩いていく。

 その他にも色々な人とすれ違って挨拶をしてを繰り返して、……少しだけ問題な子に出会ってしまった。


「あ、今泉さん! おはようございます!」

「え、ええ、おはよう雛さん」

「姫ちゃん呼びましょうか!?」

「い、いいわ……今日は約束していたわけではないもの」


 まさかこんな近くに彼女達の家があるとは思わなかった。

 雛ちゃんはお花に水をあげている途中で私に気づいて、話しかけてきてくれたようだ。


「あ、おはよう、今泉さん」

「……さようなら」


 会いたくない相手だ。

 これではまるで休日にも会いに来たみたいに思われてしまう。


「待って、だからどうしてすぐに君は逃げるんだい?」

「今日は予定があるのよ、ここで時間を使っている場合ではないから」

「予定って、まだ7時を超えたくらいだけど?」

「いいじゃない別に、やましいことをしているわけではないわ」


 あの子と母親のためになるべく家にいないようにしてあげてるだけだ。

 

「なにか困ったことがあったんじゃないのかい?」

「そうよ、もし万が一あの家にいられなくなったら泊めてくれないかしら、お金は貯めてあるし払うこともできるわ」


 月3000円のお小遣いをずっと貯めてきた。

 多いように見えて昼食代も含めてのそれなので、実は全然余裕はないわけだ。

 それを使わずずっと貯めてきた、今は多分80000円くらいはあるだろうか。


「泊めることは構わないよ、ただ、今みたいにすぐ逃げるような仲のままではしたくないね」

「ちょっ、姫ちゃん!?」

「雛は分からないだろうけどこれは辛いんだよ? 泊めてもまたすぐに逃げてしまうかもしれないという恐怖と戦えというのかい? 僕は強い人間なんかじゃない、だから自分も守りつつ行動をするしかできないんだよ」


 私よりよっぽど彼女は強い。

 けれどそれはそういう風に見せているだけって言いたいの? 装っているだけなの?

 ……どちらにしてもその自然に装うことすらできない私の前で、そんなことは言ってほしくなかった。


「ま、無理ならいいわよ、別に自分の気持ちを抑えて生活することなんて余裕だわ」


 今に始まったことではない。

 明らかに晴の方が贔屓されているのだと知ったところで、嫉妬だってしない。

 弁えて生きているつもりだ。

 抱きしめてしまうのは愛情を受け入れられない弊害といったところだろうか。

 だから晴に甘えて、姫さんに甘えて、その後の結果はいつも同じ――――


「さようなら、また月曜日に会いましょう」


 お金は置いてきてしまったけれど、これからどうしようか。

 彼女が言ったようにまだ8時にすらなっていない。

 退屈を紛らわせられるような手段を知らない。

 大人しく家に帰るのは……流石にできない。

 だってそれでは唯一できるはずだったことすら守れなく終わってしまうから。


「待ってよ、今泉さん」

「あら、どうしたの?」

「家に寄っていかないのかい?」

「自分を守らないと怖いのでしょう? 無理をするべきではないわ、どうせ動くのなら雛さんを守ってあげなさい。それと私が言うのもなんだけれど、喋り方少し変えたらどうかしら?」

「似合わないかな? 高校に入る際に少し変えたんだよね、長身だし男っぽいから変えてみたんだけど……」

「普通が1番よ、そんなことをしなくても十分魅力的だし、長身とかそういうのは関係ないわ。自信を持てばいいのよ、私に比べたら遥かにマシなんだから」


 母親にすら冷たく対応されている私に比べたらマシだ。


「今泉さんこそやめなよそういう考え方、僕は十分、今泉さんだって魅力的だと思ってるよ?」

「ふふ、ありがとう。あなたに言われると自信を持つどころか馬鹿にされているようにしか感じないけれど」

「今泉さん! 姫ちゃんを悪く言わないでよ!」

「ふんっ、だったらあなたのお姉さんを止めてくれないかしら?」

10000文字を1日に二分割にして投稿することにしたい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ