エピローグ -3-
「悪かったわね」
「なんのマネだ?」
気味悪そうに真意を尋ねる。
「約束してたのを思い出したの。アンタに謝るって」
「約束? 誰と?」
「それをアンタに説明する必要があるとは思えないんだけど」
「別に聞きたいとは思わんが……」
「じゃあ、アタシはこれで」
「おい! 詩方!」
一方的にそう告げて去って行くリアルの小さな背中に、
「まったくなんなんだ。あいつは」
真樹は大きな溜息をこぼした。
※ ※ ※
「お帰り、リアル」
ドアを開けたリアルを笑顔で迎えたのは、もちろんミノリだった。
今日は部屋着の紺色ジャージである。
「ただいま。お土産にクレープとタコ焼きを買ってきたわよ」
「ありがと。今、お茶入れるね」
甲斐甲斐しく準備するミノリを見ながら、古風なちゃぶ台に腰を下ろした。
もちろん誰はばかる事なく足を組む。
「ダメだよ。女の子が足を組んで座るのは」
「はいはい。解ってますってば」
口先ではそう答えるが、座り直そうともしない。
「今年は凄い人が集まったんだってね」
「去年の約三倍って言ってたわね。まあ、野次馬根性丸出しって奴も随分いたみたいだけどね」
「でも、賑やかなのは楽しいよ」
「ふうん、そんなもんかね」
年寄りじみたコメントをしながら、大口を開けてクレープに齧りつく。
「もう、そんなはしたない食べ方しちゃダメだってば」
「いいのいいの。誰も見てないんだから」
「だから、見てる見てないじゃなくて」
「心構えでしょ、解ってるわよ」
そう言いながら、がぶりともう一口。
「あ、誰か来たみたいだよ」
「食べ始めたとこなのに。居留守しちゃおうかな」
「ダメだよ。ちゃんと出てあげないと」
そうこうしている間に、ドンドンとドアが叩かれた。
「リアル、ハチだよ! ねえ、いる?」
「あ、ハチちゃんだよ。ほらほら、友達少ないんだから、大切にしないと」
「はいはい。解ったわよ。まったく面倒ね」
言葉とは裏腹に、嬉しそうな様子でドアに向う。
「やっとクラスの出し物が終わったんだ。一緒に回ろうよ」
リアルの顔を見るや、屈託のない笑顔でそう告げた。
「模擬店が一杯出てるんだよ。凄いんだよ。お祭りみたいだよ」
「当たり前でしょ。お祭りなんだから」
「ね、リアル、早く行こうよ」
返事も待たずに手を取って駆け出そうとするが。
「痛っ!」
慌てて手を離した。
興奮して、ついリアルの怪我を忘れていた。
迂闊な行動に泣きそうになるハチに、リアルは子猫のような愛らしい表情を見せる。
「大丈夫よ。ちょっとびっくりしただけだから」
「ごめん。指、酷いの?」
来訪者となっていた時の記憶、つまり夜の記憶はハチから抜け落ちていた。
それならば内緒にしておこうというのは、居合わせた五人全員で決めた事だった。
「ちょっと不便だけど、概ね好調よ」
「リアルの怪我が治るまでは、私が指の代わりになるから。何でも言ってね」
「アタシの指って、そんなに不器用じゃないんだけど」
「その言い方は酷いよ」
「褒めてあげてるのに」
「全然褒めてないよ!」
いつものやり取りが心地良い。
「さ、行こうよ」
「折角来てもらって悪いんだけど、今は……」
とそこで言葉を止めて、室内を振り返った。
視線を追って中を覗こうとするハチの目を、リアルの手がそっと隠す。
「解ったわよ。こんなんで絶交されちゃたまらないもの」
「え、なに?」
「こっちの話よ。じゃあ、行こっか」
そう言って歩き出すリアルの横にハチが並ぶ。
右にリアル、左にハチ。定番のポジション。
「米川先輩のトークショーが凄いんだって。パンフレットもすっごく売れてるって」
「あの二人は相変わらずね。ある意味で尊敬しちゃうわ。で、どこに行くの?」
「とりあえず腹ごしらえだよ。朝からほとんど食べてないんだ」
「何か食べたい物でもあるの?」
その問いを予測していたのだろう。
えへへと得意気な顔になる。
「クレープとタコ焼きだよ。すっごく美味しいんだって。どうしたの? 変な顔しちゃって」
<Fin>
【さいごに】
園峰美乃里の死は、不幸な事故と言う外はないだろう。
あの日、寮の空調が故障してしまった事。
あの朝が、例年にない冷え込みを見せた事。
更に、美乃里自身が非常に病弱だった事。そして、
そんな彼女が本を読みながら、机で寝入ってしまった事。
余りに多くの要因が重なった不幸な事故だったのだ。
そして不幸な少女は自身が死んだ事に気付かず、寮の中を彷徨っているという。
~アカデミーの七不思議 『第六寮の幽霊』より~




