奈緒 15
私の心の中にあった「すぐにでもこの気持ちをぶつけたい」という思いは、あっという間に抑え難い衝動へと膨らんでいった。
「例えば来生さんは、私と付き合いたいなんて思わない?」
「歳が違いすぎる」
「たった二十歳でしょう。そんなカップルいくらだっているよ」
「それじゃあ、君と僕が付き合ったとしよう。君には君の世界がある。友達は若いやつばかりだ。君はその友達と飲みに行くこともあるだろう。旅行に行くこともあるかもしれない。しかし僕は、君の世界に入り込むことは出来ない。君を知れば知るほど、僕は君の中にある、僕の立ち入ることの出来ないきらびやかな世界を発見し、孤独にさいなまれる。そして君が近くにいればいるほど僕は君との距離を無限に感じて当惑する」
「それはお互い様じゃない?来生さんにだって自分の世界があるはずでしょう」
「いや、僕にはもう輝くような世界なんてない。だからこそ君の持つきらびやかな世界に嫉妬するんだ」
「私にだってそんなきらびやかな世界なんてない。もしあったとしたらそんなのなくなってもいい」
私は、自分で自分の言っていることがわからくなってきていた。
「それに、前にも言ったが、僕には人を幸せにするということができない。せいぜい友情が精一杯だ。それ以上の人間関係を築くことなど僕にはできない」
「男と女の友情なんてあり得ないよ」
「そんなことはない。お互いに相手が好きで、しかし、どうしても一緒になれないとき、男女の友情は存在し得る」
「それじゃあ、来生さんに誰か好きな人ができたら、私はそれを遠くから見ているの?それで来生さんがその人と別れたら人知れず喜んで、『気を落とさないでね』なんて言うの?そんなの絶対いやだ」
私はもう、それが愛の告白だとわかっていながら、止めることができなかった。そして、そんな私の目を見て、彼は本当に当惑しているようだった。
「事情がある」
「事情って?」
「今は説明できない」
「いやだ。教えて」
「すまない」
「いつになったら教えてくれるの?」
「クリスマスに」
「わかった。じゃあそれまで待ってる」
私は急に穏やかな気持ちになった。そして彼の肩に顔を寄せた。
「これくらいはいいでしょう」
ひとり言のように呟きながら私は思った。
(なぜこんな気持ちになるのだろう)
(なぜこんなに優しく穏やかな気持ちになるのだろう)
(このまま時間が止まってしまえばいいいのに)
透き通るように澄んだ空気の夜空の中、クスノキのてっぺんには、子どもの頃にプラネタリウムで見たような、たくさんの星が瞬いていた。
私はその中に吸い込まれていった。




