6.決闘
「む、ボウ殿らも既に登っていたのか。同タイミングだな」
「まさかそっちも俺たちと同じ結論に至ってたとは思わなかったがな……」
ボウ達は山頂付近でラインハルト率いるチームと合流した。
「コチラにはセレシア殿が居るのでな。かなり助かったさ」
ラインハルトが目を向けた先には急に名前を呼ばれてびっくりしているセレシア。
「ちょっとラインハルトさん〜! 私をそんな過大評価しないでください〜!!」
「真っ当な評価だろう」
「にしてもさみーなぁ……」
レオンが腕をさすりながら言う。確かに、ここは標高三千数百メートルはあるのだから寒いと感じるのは妥当だ。事実、ボウも寒い。レオンは半袖だから尚更だろう。
「寒いのかしら? じゃあこっちに来てちょうだい」
アルトがレオンに手招きをする。レオンはそれに疑問符を浮かべながらもアルトの下へ行く。ついでにオルフェウスとケイン、ボウもアルトの方に近付いていた。
「ず、随分多いのね……」
若干困惑の表情をアルトは浮かべながらも、アルトは魔法陣を展開する。
「調温」
アルトが告げると、たちまち術範囲内の人間に緑色のオーラがまとい始め、それは数秒間浮遊した後に消滅した。
「これで、もう寒さは感じないはずよ」
「何言って……って寒くねぇ!?」
「驚きすぎよ」
「本当だ……こりゃすげぇ」
先程までクソほど寒かったのに今では何も感じない。冷たかった土を触っても何も感じない。変温動物てきな何かにでもなったのだろうか。
「っ……」
その時、クロノが手帳を落とした。
「? クロノ、大丈夫か?」
「あ、あぁ……もちろん……別に平気……」
そう言ったクロノの体が力なく傾いた。
「クロノ殿!」
ラインハルトが咄嗟に駆け寄り支える。
「む……かなり顔色が悪いぞ」
「毒とかじゃねぇの?」
アルトがクロノの状態を診るために近寄る。
「いや……毒や呪いの類ではないわね……標高が上がってから急に悪化しているように見えたけど……そんな魔法聞いたこともないわ」
その場の全員が、原因不明の体調不良に苦悩していた。
「私の回復魔法でも試してみる……?」
「いいや、これから大きな戦闘が起きることを推測すれば、魔法を試すのは悪手だ」
ラインハルトがクロノを抱える。
「高度が上がってこうなったのならば、下がればいいはずだ。俺はクロノと共に下山する」
その決断は、チームの主戦力一人が消える最悪なモノだった。ただ、誰も止めることが出来なかった。
「ボウ殿、セレシア殿、レオン殿。任せたぞ」
「あ、あぁ……」
「すまない……ラインハルト」
「謝る必要は無い。クロノ殿は必要な人材だ」
他の人の言葉を聞くまでもなく、ラインハルトは下山を開始してしまった。
「……行きましょうか」
「ですよね……ここまで来て帰るとかないし……」
ケイン、アルト、レオン、セレシア、ボウ、オルフェウスの六人は、あと少しで着く頂上まで少し重たくなった足を進めた。
◇◇◇
「ここが……山頂か」
そして、着いた。話し声と環境音以外に、何も聞こえない。雪が積もりに積もっていて、動きづらい。
「……ん? おい、あっちになんかあるぞ?」
レオンが指さした所には、椅子のようなモノが鎮座していた。
「あれは……椅子……でしょうか」
「近付いてみましょう」
全員が石細工の何かに近付こうとしたその時だった。
「やっと来てくれたぁ……」
「何だ!?」
後ろから声がした。全員が咄嗟に振り向く。気付くことすらできず、背後を取られていた。
そこに居たのは、人間ではなさそうな少女だった。
淀んだ紅の瞳に雪よりも真っ白な髪、肌。靴なんてものは履いておらず、首には赤いペンダントがかかっていた。とても小柄で、いまにも死んでしまいそうな、それでいていまにも殺してきそうな体つきだった。
「誰、答えなさい」
アルトがそう言うと、彼女は恍惚とした笑みを浮かべた。
「魔王直属十二団の十二番目の、スペルヴァって言うんだぁ……」
「何ですって!?」
全員の顔色が変わった。十二団。その言葉を聞いた事のない人物は、ここに居ない。
(十二団だと……? こんな序盤から……?)
序盤に一人強いのが来るのはテンプレートか? と思いつつも、ボウは戦う準備をする。
「それで? 魔術師のお姉さんは名前、なんていうの?」
「……アルト・ユーリス」
「そっか」
「俺の名前は──」
「お前のは聞いてない」
急に声を低くし、レオンに威圧をかけるスペルヴァ。
「この中で一番強いの、アルトお姉さんでしょ? じゃあ、他いらないから死んで?」
そう言った刹那、紅の槍がアルト以外の全員に襲いかかった。
「難攻不落の護衛術!」
ただ、ケインはそれを許さず。ケインは一気に前に飛び出し、巨大な盾を地面に突き立てた。さすれば、盾の周りに魔力で作られてそうなシールドが展開され、全ての槍を弾き飛ばした。
だが、ケインは数十センチ程後ずさりし、そのシールドにはヒビが入っていた。
「ケ、ケイン……」
「安心してくれよ……お前らは死なない……俺が生きてる間……はね」
相変わらずな喋り方だったが、それも気にならないほどの安心感があった。
「へぇ〜お兄さん凄いね〜……でも、アルトお姉さんと私だけのタイマンには要らないんだよね。だからさ、やっぱり──」
「やるわ。その代わり、この子達にこれ以上危害を加えないことを誓いなさい」
アルトは、スペルヴァとのタイマンを飲み込んだ。
「ちょっ、アルトさん!?」
ボウはアルトに近寄ろうとしたが、アルトがこちらも向かずに手で静止してきた。
「……へぇ? 随分と変な条件だねぇ。ま、いいよ」
スペルヴァはそう言うと、右手に深紅の槍を作り出す。
「あなた達は、ラインハルトたちと合流して下山しなさい」
スペルヴァから目を離さず、まるで実子を守るかのような声色で言った。
「アルト姉さん……それは──」
「年長者の言うことは絶対。でしょ?」
ケインは言葉を詰まらせた。そして
「……下山だ。邪魔をしちまったらダメだからな……」
ボウたちに有無を言わさず、歩いていった。
ボウも、セレシアも、普段は人の事なんて気にもとめてないレオンも、アルトが心配で仕方がなかったが、ケインと共に下山した。
◇◇◇
アルトは、雪よりも白い少女、スペルヴァと対峙した。
「これで二人きりだね」
「そうね……」
アルトは、スペルヴァをよく観察した。
(私の動体視力じゃ……あれを避け切るのは限界……ならば……!)
「四大竜!」
アルトが力強く宣言すると、四つの魔法陣が展開される。一つは地面。三つは上空に。
「……えぇ……そんなこと出来るんだぁ……」
魔法陣から出てきたは、四大属性の火、水、風、土をモチーフとした竜だった。
この山頂を灼熱に変えんばかりの燃え盛りっぷりを見える火の竜。
蛇のような姿を畝らせ、全てを飲み込まんとする水の竜。
この山すらも吹き飛ばしそうな風の竜。
そして、緑の勾玉を光らせ、その気になれば世界を分断してしまいそうな土の竜。
四大竜は、全員で咆哮をした。耳が張り裂けそうなくらいにうるさく、降り積っていた雪は所々吹き飛ばされていた。
「やりましょう。私に喧嘩を売るってことは、相当な実力者なのよね?」
「うん、もちろん」
そうして、闘いの火蓋は切って落とされた




