アレク・グレンハルト・クラリス
二人に事情を説明した後、俺は神域を訪れアテナと会話をしていた。
「んで……残虐神ディザイアってやつのこと知ってるか?」
「もちろん知ってるわ。かつて争った神々の四大勢力のうちの一つだもの」
「四大勢力……ってことはディザイアみたいなのがあと三体いるってことか?」
「正確にはあと四体ね。四大勢力のうち一つは、同じくらいの化け物がいたのよ。まぁそれも、仲違いして勝手に消滅していっちゃったんだけど」
あっけらかんと語るアテナは当時の事をあまり思い出したくないのか、目を伏せながら素早くこたえた。
まだ完全ではなかった段階であの強さだったのだ……当時の神々とはどれほど強かったのか。
「ってか、そんな奴ら相手にお前らはよく勝てたもんだな」
「完全に漁夫の利になっちゃったけどね。それでもギリギリだったのよ?今でこそ女神は信仰の対象になってるけど、当時は見向きもされてなかったから力もたまらなかったし」
「たしかイシュタルとアリシアだっけ?それぞれ公国と共和国で信仰されてる女神だよな?」
俺の問いに、アテナはこくりと頷く。共に戦ったであろう仲間として、当時から仲が良かったらしい。今となっては交流はないようだが、神にとっては数万年など一瞬の出来事らしい。
「それにしても……まさかディザイアにあんな簡単に勝つなんて。やっぱあんた人間やめてない?」
「おいおい、俺の改造に加担してるのはお前だからな?」
「私は別に転生させてるわけじゃないし。もうあんたに祝福と称して力を与えるのやめとけばよかったかしら」
「祝福がなくても普通に勝てたけどな」
「それこそ化け物よ」
だが、今世でもらった力はこれからが本番だ。もともとあれは戦闘用の力でもないし……。
相手が国王ともなると、かなり大変かもしれない。いや、本当に大変なのは国王ではなく宰相や周りの貴族たちか。
そこで役に立つのがアテナからもらった交渉術の力なのだが……いかんせん難しいのが貴族とのコネが何もないことだ。
まぁ、後々考えればいいだろう。
「それじゃ、俺はそろそろ戻ることにするよ。またちょっとしたときに顔出すからよろしく」
「……そんな高頻度で神域に入られても困るんだけど。いっそ神にでもなったら?歓迎するわよ」
「うぅ~ん……不老不死もありかもしれんな、ずっとお前と話してりゃ楽しいし」
「っ……またそういう事を言う」
ぷいっとそっぽを向いてしまったアテナを疑問に思いつつ、神域から出て王城に向かう。
大遠征での一件で実力が評価され、褒章をもらえることになった。その時はアテナの説得があって爵位をもらえることになったが、その時の他貴族の目と言ったらまぁ怖い。
ただ今回大遠征に参加した騎士団に祝福されていたのはいい兆候だろう。そのまま貴族たちにもその様子が伝播してくれないものか。
まだ学生という身であるため、領地は与えられず貴族といえど税収は勘弁してくれるという、まさにお飾りの貴族。しかし爵位があるとないだけで大分状況は変わるというものだ。
謁見の間にて、国王陛下の前で片膝をついて跪く。ひそひそと他貴族が噂していたが、それらは聞かないことにした。奴らの機嫌を毎回取っていては敵わない。
「アレク・グレンハルト、ただいまはせ参じました」
「面を上げよ」
「はっ」
国王の言葉に反応し、顔を上げて国王を視界に入れる。ふむ、将来あの玉座に腰を据えるつもりなのか……なかなか大変そうだな。
のほほんと自分が課した目標の難易度の高さにそんな感想を抱いていると、国王の口が開く。
「此度の働き、誠に大儀であった。わが娘、アリアの命……そして王国を一度ならず二度までも救ってくれた。その働きに応じて、アレク・グレンハルトに子爵位を命ずる。これより貴殿はアレク・グレンハルト・クラリスと名乗れ。また、貴殿はまだ学生だ、将来収める領地であるクラリス領は他に任せ、卒業したら領地運営をするがいい」
「ありがたき幸せ」
てっきり男爵だと思っていたが……いきなり子爵か。婿入りして王位継承権を得るためには、あと少しだけ頑張らないとな。
「下がっていい、と言いたいところだが。王国を救った英雄への褒美が子爵位というのも味気ない。どれ、何か申してみよ」
まるで近所の孫に接するおじいさんみたいにラフに接してくる国王。
そんな様子にポカンとしていると、隣で王妃と宰相がため息をついている。この様子だと、今までで何回かこういうことがあったんだろうな。
だがこんな国王に意見できる機会は滅多にない。ここで言いたいことをはっきりといった方がかえって動きやすくなる。
「では……近い将来、私は再び武勲を上げ叙爵したいと思っております。その時は、アリア王女殿下に婿入りさせてはいただけないでしょうか?」
「へっ……⁉」
国王の横にいるアリアが奇怪な声を上げる。今までそんな素振りは見せなかったし、お友達だと思っていたものがこんなことを口にすればそんな反応になるのも当然だ。
願望を口にすると、謁見の間にいる貴族たちはざわざわと騒ぎ始める。
「王女殿下に婿入りだと?成り上がり風情が調子に乗りすぎではないか?」
「そもそもそんな時まで王女殿下に婚約者を作らせない気か。王族との婚約となれば、伯爵でないと厳しいぞ」
「そんな簡単に武勲が上げられるか……今回もまぐれだったのだろう」
中々に罵倒してくれるが、見逃してやろう。今は小さな目標がかなって気分が良いからな。
とにかく、今ここで願いを聞き入れてくれなくとも構わない。どうせ武勲を上げて婿入りする予定だ、婿入りできなくとも養子に入れられ王位継承権が得られればなんだっていい。
俺の願いを聞き届けた国王はガハハと笑い、アリアを見つめた。
「クラリス子爵はこう言っているが、お前はどうなのだ?」
「わ、私は……その、アレクさんが武勲を上げずとも、このまま」
「ほう……?クラリス子爵、貴殿はアリアに好かれているようだ」
「お、お父様ッ!そういうことは言わないでください!」
ポカンとしている俺の耳に、国王の確かな声が届く。
「よかろう、貴殿が次に武勲を上げた際には叙爵しアリアに婿入りすることを約束しよう!」
「……感謝いたします」
「ではクラリス子爵よ、改めて此度の働きは大儀であった。下がってよい」
国王の合図で立ち上がり、謁見の間から去る。扉を出て少し歩けば、すっと腕を上げて拳を握る。
「さて、世界平和の道のりはここからだ」
次はどんなことをしようか。ワクワクした面持ちで屋敷までスキップして帰っていった。
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