初代剣聖vs現剣聖
剣聖の称号を持つ女、セリア・マーガレットを戦いに引っ張り出すことに成功した。セリアの佇まいを見るに、自分に対する絶対なる自信が見て取れる。どれほどの実力なのか見ものだが、目的はあくまで別にある。戦いに熱くなって冷静さを欠くような真似は避けなければならない。
さて、成熟しきっていないこの体でどこまで粘れるのやら。
アテナに聞くところ、魔力という力は魂に起因するらしい。輪廻転生の末、魂の深さが深ければ魔力容量が大きい傾向があるとの事。そんな中記憶を持ったまま十回の人生を歩んだ魂が貴族の息子に張り付いたのだ。俺の魔力は現在測り知れない程大きくなっている。
しかし体力や身体能力は別だ。魂ではなく己の肉体に起因するのだから、いくら転生を重ねたところで自然に強くなっていくことはない。生まれたころから魔力で筋肉を振動させていたのでそこそこ動けるようにはなっているが、やはり当時の身体能力に比べれば大分劣っている。
目の前にいるセリアの方が身体能力では上だろうし、そこで自己強化の魔法を使うのだから並の人間では相手にならない。
まぁ、そこは初代剣聖の力を見せてあげることにしよう。
「もう一度確認するが……本当に良いんだな?私は手加減が苦手だ」
「構いませんよ。では、始めましょうか」
戦いとはダンスと同じだ。相手の攻撃に合わせて最適解を常に出し続ける。足の運び、剣先の揺れから相手の行動を予測し、相手が楽しめるようこちらが動く。たまにリードする側が変わるのもまた一興というやつだ。
だからこそ弱者の戦いというのは見てられないものであり、逆に強者の戦いというのは目を見張るものなのだ。それが剣術を極めたもの同士の戦いであればなおさら、このダンスに目を奪われる事だろう。
「す、すげぇ……」
「……美しい」
究極の剣術を見た生徒は余計な口出しをせず、ただただこの戦いの行く末を見守っていた。受験生たちから見た俺への評価は恐怖というマイナスな感情ではなく、美しいというプラスな感情に置き換わっている。
セリアとの戦いの印象が強く残り、俺が騎士団員を一瞬で蹴飛ばしたことなど誰も覚えていない。今あるのは剣術の美しさのみで、目の前の剣聖以外は誰も俺のおかしさに気づいていない。
「貴様……!さては身体強化を使って——」
「しー、ですよ剣聖様。今はこのダンスを楽しみましょう?」
この世界の住民は、大抵の者が魔法を扱える。魔法といっても種類は多数あり、多くの者が使っている魔法が無属性魔法といって身体能力を強化するものだ。グレンハルトはそれだけは秀でており、素の身体能力の三倍は引き出せていた。
普通はほんのちょっと身体能力が上がるのみだが、高ランク冒険者や王国騎士団の人間は二倍まで引き出すことが出来る。だが、目の前にいる剣聖は魔力量を考えるに三倍まで引き出せるようだ。それに魔力運用に秀でているようでインパクトの瞬間のみに集中させて五倍にまで引き上げている。
対して俺はさっきから身体能力強化の魔法を使っていない。ともなれば俺の身体に徐々に傷がついていくのも仕方ない事だ。寧ろ剣術の技術と戦闘経験だけで良くやっている方だ。経験が濃すぎるという話もあるんだけど。
俺が身体能力強化の魔法を使えばいくら剣聖といっても一瞬で片を付けることが出来る。だがそれをしてしまえば美しさを微塵も感じさせることは出来ず、最強の一角と呼ばれた剣聖を一瞬で蹴散らしたとして恐怖が前面に出てしまう事だろう。
大賢者だった俺の身体能力強化の魔法は五十倍にまで引き上げることができ、インパクトの瞬間のみであれば百倍にまで引き上げられる。これが俺のインチキであり、そこに剣聖としての剣術の熟練度も相まって人類の頂点に立った。
それに剣術だけで現剣聖と良い戦いができているのであれば、そこらの人間にも剣術で負けることはないだろう。
「なぜだ……先ほど見たが、貴様の魔法の素質は突出している。貴様が身体強化の魔法を使えばこんな戦いも一瞬で終わらせることが……!」
「ははっ……俺にとってこの戦いはあくまで剣術の試験ですので。それに……まだまだ踊ってくださいますよね?」
「ッ……臨むところだ!」
繰り出される剣技を全て簡単に受け流す。相手の足の運びを見て、何が最も相手を満足させられる動きか考えながらダンスを作り上げる。
途中で回復魔法をかければ傷を全て癒し更に粘ることは出来るが、そこまでしては面白みがない。全回復してしまえば最早それは別人であり、俺は俺としてダンスを完遂させたいのだ。
「はぁぁ!」
「……っと」
握っていた木剣を木剣で弾かれ、首元に木剣をあてがわれる。ここまでか、と呟いて両手を大人しく上げて投降の意を見せた。
その瞬間、受験生たちはわっと盛り上がり拍手喝采が巻き起こる。ここで剣聖の凄さを目の当たりにして、俺はその剣聖に迫る凄い生徒と認識されたことだろう。
剣聖がいれば安全という安心感を持たせつつ、俺が成り上がるために必要な土台作りは完了した。この先は入学してから成り上がっていくことになるが、王女であるアリアと関わることが最優先だな……。
「いずれ、私が引き出してやる……貴様の本気を」
「ほどほどにお願いしますよ。さっきだって、魔法を使わなかっただけで本気っちゃ本気だったんですから」
「ふんっ、貴様の実力は魔法込みで真価を発揮するんだろう。だから、その日を待っているぞ。——アレク・グレンハルト」
そのまま立ち去っていくセリアの背中を見ながら、彼女が更に強くなる未来がはっきり分かる。強者は強者から多くを学ぶ。俺の剣技を少しでも吸収できれば彼女はもっと強くなれる。身体能力強化の魔法に頼らなければ早く強くなれるのだけど。
ともかく試験は終わったわけだし、ひとまずセレナたちが待つ屋敷に戻ることにしよう。俺の教えた料理を頑張って作ったらしいので採点することになっているのだ。
「——彼が、アテナ様の言っていた少年なのですね」
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