第34話:蒼龍くんと「是れなり」の再臨
圧倒的な力に屈し、一度は絶望の淵に立たされた蒼龍くん。 彼は逃げ込んだ深海の底で、伝説の宝を手に入れるのではなく、「自分自身が既に宝であった」という真実に目覚めました。
私たちは「何者かにならなければならない」と自分を追い込みがちですが、本当の強さは、格好悪い自分も、弱い自分も、すべてを「これが自分だ」と認められた時に宿ります。
再び魔王の前に立った蒼龍くん。 武器も持たず、構えもしない彼が放つ「全肯定」の光が、黒龍の闇を溶かしていきます。
海面を激しく割り、黄金色の光を纏った姿で地上へと舞い戻った蒼龍くん。 一度は魔王の力の前に完敗し、死の恐怖に震え、洞窟の隅で蹲っていた小龍の姿はそこにはありません。海底での「大安心」の修行を経て、その瞳には、深海の底のような深く静かな覚悟が宿っていました。
蒼龍くんは迷うことなく、再び黒龍城の玉座の間へと降り立ちました。 城内を覆う闇の冷気は相変わらず鋭く、肌を刺すようですが、今の彼はもう、その寒さに震えることはありませんでした。むしろ、その冷気さえも自分を迎え入れる心地よい風のように感じていたのです。
玉座に鎮座する黒龍は、忌々しげに目を細めました。 「また来たか、死に損ないの小龍よ。何度来ても同じことだ。我が闇に呑まれ、泥のように消えるがいい」
黒龍が片手を掲げた瞬間、前回、蒼龍くんの誇りを粉々に砕いた「絶望の奔流」が放たれました。それは触れるものすべてを腐食させ、精神を崩壊させる漆黒の渦です。 しかし、蒼龍くんは逃げることも、力んで身構えることもしませんでした。 彼はただ、そこに自然体で「在る」だけでした。
「……『是れなり』。……これが、ありのままの僕なんだ」
蒼龍くんは、自分自身の胸を指し、力強い笑みを浮かべました。
「強い僕も、弱い僕も、怖がりで泣き虫な僕も。お師匠さまに叱られたあの日も、三鱗龍と戦ったあの日も。全部ひっくるめて、これが僕なんだ。一つも欠けてはいけない、僕の大切な物語なんだよ。黒龍、君が放つその闇さえも、今の僕にとっては否定すべき敵じゃない。僕を受け止めてくれる、大切な自分の一部なんだ」
黒龍の放った闇の奔流が蒼龍くんの体に触れた瞬間、世にも不思議なことが起きました。 それは激しい衝撃となって彼を吹き飛ばすのではなく、まるで冷たい雪が春の陽だまりに触れたかのように、柔らかな光へと溶けていったのです。
自分を偽らず、飾らず、ありのままの自分を百パーセント肯定する「是れなり」の境地。それは、攻撃を弾き返す盾ではなく、あらゆる攻撃の意味を無効化し、浄化してしまう「無敵の鎧」でした。
「な、何だと……!? なぜ我が闇が通じぬ! なぜ、恐怖に顔を歪めぬのだ!」
初めて黒龍の顔に、明確な動揺と困惑の色が走りました。 圧倒的な「力」で世界を否定し、否定されることで自らを保ってきた黒龍にとって、すべてを包み込み、肯定する蒼龍くんの存在は、これまでのどの勇者よりも理解不能で、恐ろしい強敵となったのです。
「黒龍、もう戦う必要はないんだ。君が背負ってきたその痛みも、裏切られた悲しみも、すべては君が君であるための証なんだよ。君も、ありのままの自分を許していいんだ」
蒼龍くんはゆっくりと、けれど一歩も退かずに、黒龍へと近づいていきました。その足音は、凍てついた城の床を溶かしていくかのように、温かく響いていました。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
「是なり」とは、理屈抜きに「これが自分だ」と全肯定する強い響きを持っています。
格好悪い自分も、弱い自分も認められた時、それはどんな攻撃も寄せ付けない最強の鎧となります。しかし、黒龍が抱える絶望の深さは、蒼龍くん一人の光では包みきれないほどに深く、冷たいものでした。
次回、いよいよ第三章のクライマックス。
一人で背負うのではなく、心を一つにした光。
師弟の絆が、黒龍の凍てついた孤独に届くとき、果たして何が起きるのか。
完結まで残り2話!
合掌




