8-01 開拓民がやってきた
ダンジョンを作り始めて5回目の冬が訪れた。
どうにか、地下1階までを作ったから、ダンジョンのレベルは7にまで上がっている。地下2階は来年で終われば上出来という感じかもしれないが、完成した暁にはレベル15ほどに上がるんじゃないかな?
階を下るごとにレベルが5ずつ上がるからね。後は広さでレベルの数字を増すことになる。
「今年の冬も、東のゴブリン村は厳しい冬になりそうにゃ」
「王国軍の兵站を襲うのも問題だな。幸いなことに今年は豊作だったようだから、あちこちの村を巡って食料を確保するしかなさそうだ」
「鹿肉とイノシシ肉があるにゃ。あれを売りに行くにゃ」
その他にも、戦場で拾った武器と一緒に出てきた革袋に一杯の硬貨も使えるだろう。金貨は無理でも銀貨なら俺達が使っても怪しまれないんじゃないかな。
クリス達に留守番を頼んで、ミーナさんと一緒に食料を買いに村へと向かう。
村では久方の豊作だったらしいけど、東のゴブリンの里はまだまだ開墾が進んでいない。少しは収獲できたんだろうが、冬越しをするにはかなり無理がありそうだ。
「他の里から援助の食料が届いていると聞いたにゃ」
「今年の収穫と援助の食料、それでも足りないだろうからね。少し遠くの町や村にも足を延ばしてみようよ」
俺達が着込んでいる革の上下も良い具合いに風格が出てきている。
槍を持った俺と、弓を担いだミーナさんがダンジョン作りをしているとは誰も想像すらできないだろうな。
最初の村で雑穀と野菜の種を買うと、直ぐに指揮所の隣に作った倉庫に荷物を下ろして次の村に向かう。
1日で村を3つ巡って、雑穀を20袋とお茶のカップ一杯分ほどの野菜の種を12種類手に入れた。革袋に入れて野菜の名を書いてあるから、そのまま渡せば使ってくれるだろう。
明日は王都近くの町に向かってみよう。
そんなある日のこと、町の入り口で門番に止められた。
「確か、猟師の2人組だったな。良い獲物を持ち込んでくれたか?」
とりあえずホッとして、ミーナさんと顔を見合わせる。
「残念ながら手ぶらです。若い猟師を鍛えてるんですが、まだまだ獲物を狩るには……」
「ハハハ、残念だったな。だが来春にはそれなりに狩れるんじゃないか? 手放すことなく鍛えてやるんだな」
良い肉が手に入ると思ったのかな?
俺達を励ましてくれるぐらいだから、根は良い人なんだろう。
それよりも顔を覚えていたとはなぁ。少し容姿を変えた方が良いのかもしれない。何時も通る門とは異なる方角から町に入るということでも良さそうだ。
「次は少し間を開けるにゃ。他にも村や町があるにゃ」
「そうは言ってもねぇ……。俺達の転移がどれぐらい遠くまで使えるか分からないんだよなぁ」
荷車を買い込んで、積めるだけの雑穀を買いこんだ。
調味料も少し買い込んで、タバコの袋とワインも買い込んでおく。
俺が荷車を引き、ミーナさんが押してくれるんだけど、このまま町外れまで進むには時間が掛かりそうだな。
何度か休憩して、森の近くに来たところで転移魔法で倉庫に向かった。
疲れた表情で指揮所のソファーに座り込んだ俺達に、アビスがお茶を入れてくれる。
中々良くできた副官だな。クネリさんもアビスが傍にいないから少しは苦労しているに違いない。
「ワインとタバコを買ってきたよ。お婆さんのところに行くときにもっていってくれないかな?」
「了解でござる。ところで、冒険者がやってきたでござるよ」
思わずアビスさんに顔を向けた。秋口だから冒険者も冬越しの資金を得るために活発に動いているに違いない。
「近くにいるのかな?」
「明日には入って来るに違いないでござる。今までの冒険者は西からやってきたでござるが、今度のパーティは南からでござる」
どういうことだ?
南には開拓民すらいないはずなんだが……。
「これにゃ。確かに南から来るにゃ。それより、この南西部の集団は……、いつからにゃ?」
「気が付いた時には集団がいたでござる」
入植者ということなんだろうか? それなら村から離れない場所に拠点を構えるはずだ。
待てよ。これだけの人数で、しかも村から離れた場所に集まったということは……。
「どうやら離村した連中だな。今年は豊作らしいから食料を手に入れて新たな村を作るつもりなんだろう。開墾村は5年間無税だし、その後20年は税が三分の一だからな。
村が大きくなったらこのダンジョンを訪れる冒険者も増えると思うよ」
「それなら歓迎したいところでござるが……」
「草刈り場が減ってしまうにゃ。来年の場所を考えないといけないにゃ」
ホムンクルスやスライム達の食料も考えないといけないな。だけど、上手い方法もあるんじゃないか?
「村から購入もできそうだ。それに谷沿いの開墾地は俺達の畑だと知らせる必要もあるだろうな。まあ、南の森から北に様子を見るようなことが起こってからでも良いと思うけどね」
出来れば、ダンジョンの近くに村を作ってほしいところだが、それはもう少し後の方が都合が良い。
東のゴブリン村の食料生産に余裕ができれば良いのだが、まだしばらくは掛かるに違いない。
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南に数km離れた森は東西に延びている。
森の更に南は海まで続くなだらかな丘陵地帯だ。水場があれば良い農地ができるに違いない。
奥行き2kmほどの森から木を伐り出して、開拓民の村作りが始まったようだ。さすがにログハウスはできないようで、三角屋根だけの家並みが20軒近く並んでいる。
管理室で様子を見ていた俺の隣に、ミーナさんが現れた。
今日はゴブリンの少年達と狩りに行かないのかな?
「今の内に土砂を何とかしときたいにゃ」
「地下2階の大空間? 確かにある程度平らな場所にしときたいけど、穴掘りは順調なのかな?」
「半分以上進んだにゃ。クローラーは工事が早いにゃ」
まるでベルトコンベアみたいな魔物だからねぇ。
それでも、まだ半分というところが地下2階の大きさが半端じゃないことを教えてくれるんだよなぁ。
このままでは来春には間に合わないかもしれない。
入り口から少し離れた荒れ地はだいぶ平らになってきたから、新たな土砂の捨て場所を探す必要もありそうだ。
「それで地下3階は砂漠ということで良いのかにゃ?」
「砂漠の砂に隠れる魔獣は種類がありそうですからね。基本はスコーピオで良いと思ってるんですが」
「あいつは強いにゃ。レベル15は欲しいところにゃ」
さんざん俺達も相手にした時があるんだよなぁ。経験値が高いから、一気にレベルを上げる時には都合が良いんだが、この辺りでは見当たらない魔物であることも確かだ。
砂に半ば埋もれた古い神殿は、どこにあったんだろう? 確かかなり南だった気もするんだけどねぇ。
「クリスに伝えておくにゃ。でも、数は少ないと思うにゃ」
ミーナさんが、慌ただしく管理室を出て行った。
お婆さん達と新たに呼ぶ魔族の相談をしているのかな?
俺の意見も聞きたかったとは思えないんだが、お婆さん達にそれとなく話を聞いてくるように仕向けられたのかもしれない。
皆で作るということを、クリス達以上に理解しているんじゃないかな。
地下3階もかなりの土砂を捨てなければならない。いっその事、谷を埋めることも視野に入れた方が良いのかもしれないな。
この近くとなれば、東の尾根の向こう側が一番だが、ゴブリンの連中が村作りに励んでいる場所でもある。
平らな土地は必要だろうが……、良い場所はあるんだろうか?
仮想スクリーンの画像を東に移動すると、だんだん畑がいくつも作られているのが見えた。
山肌を堀抜いて岩窟住居にしているようだから、その土砂で畑を作っているのかもしれない。
少し倍率を下げて、上空からの画像に切替える。
いくつか小さな谷があるが、彼等にだって水場は必要だろう。深い谷筋を探して画像を南北に移動させる。
「これか! 村から離れてもいないし、放牧をするならこの谷筋を埋めても良さそうだ」
村から北に2kmほどの場所に深い谷筋を見付けた。
谷筋というよりも、海が山に向かって入り込んでいるような谷筋だ。
海側に大量の岩石を落とし込めば土砂の流出も防げるだろうし、谷の幅は数十mもある。深さは20mはあるだろう。そんな谷筋が海から1km以上入り込んでいる。
平地にして畑に出来なければ、牧草を植えれば十分に利用することができるだろう。
夕食時にでも教えてやろう。
パイプを手にダンジョンの入り口に向かう。
入り口の石段に腰を下ろして、一服を味わうのが俺のささやかな贅沢だ。
今まではここで一服するのが楽しみだったけど、南に開拓村が出来たら少しは控えることになりそうだ。
冒険者だと思われるなら問題は無いが、何時もいるという噂が立つのはよろしくないからね。
あまり高くない石垣を積んで、土砂を埋め立てていた場所もだいぶ広くなっているな。
この場所を見付けたなら、開拓民がやって来るだろうか?
開拓は大変な重労働だ。平らな土地を上手く使えば楽に畑を作ることもできるだろうけど、土地が痩せているからなぁ……。しばらくは雑草を生やすことになりそうだ。
一服を終えると、広場に向かう。
だいぶサボテンが育っている気がするな。俺の背丈を越えるものが10本以上に増えている。
噴水の付いた池の水も綺麗になったようで、手の平サイズの魚が泳いでいる。ゴブリンの少年達が世話をしているようだから、ある意味養魚場とも言えそうだ。地下2階の大きな池には何を入れるんだろう? この魚を増やして入れようなんて考えているのかもしれない。
女神像はだいぶ苔が付いて雰囲気が出ているけど、賽銭箱を振っても音がしない。
この間の冒険者は、この賽銭箱を壊そうとしていたんだが、やはりこの世界には俺の宗教観が適用できないのかもしれないな。
とは言っても、せっかく作ったんだから、もうしばらく様子を見てみよう。




