7-06 この世界のベルトコンベア
冒険者達のダンジョン2日目は、大広間から東に舞台が移る。
今回は、ゴブリンの誘導が上手くいっていないように見えるのは、俺達の作戦を見切ったということになるのだろう。
昼近くに、小部屋の奥に置いた宝箱を見付けたところで、パーティが2つに分かれたようだ。
分配でもめた様子も見えないから、上級者が先を目指して初心者達は早々に立ち去るということなんだろう。
「このままなら、こっちのパーティはもう1つ宝箱を見付けるにゃ。こっちのパーティはかなり慎重にゃ。夕方には地下に下りる階段を見付けるにゃ」
「地下1階の初めての客になるね。スケルトンだけだと思ったら、全滅しかねないぞ」
「軽く手合わせをするようにグレンに伝えてあるにゃ」
とは言ってもなぁ……。少年達の弓の腕と、ホブゴブリン弓兵では練度がまるで違う。3矢も射込んだら全滅しそうだ。
「あまりイジメないようにもう一度伝えて欲しいな。怪我はしょうがないけどね」
怪我を負っての生還の方が、マナがたくさん手に入るんだよね。
お婆さん達が、ゴブリンの少年達に落とし穴を復活させたのも、俺の意を汲んでくれたんだと思うな。
初心者冒険者の方は、お婆さん達の思い通りに進んでいるみたいだ。
ちょっとした怪我とそれなりの武具を手にして村に帰るんじゃないかな?
その日の昼過ぎに、初心者達はダンジョンを後にして帰って行った。3人だからねぇ。次は仲間を増やしてくるんだろうな。
「問題はこっちなんだよね」
「もう直ぐ、階段のある部屋に着くにゃ。宝箱を1個見付けてるから、絶対に地下に向かうにゃ」
欲には勝てないだろうし、地下への階段を見付けたとなれば冒険者仲間から英雄扱いされるんじゃないか?
だけど、地下で待っている魔族は地上階とは強さが段違いなんだけどねぇ。その辺りを不安に感じることは無いんだろうか?
ふと、過去の自分を当てはめてみる。
やはり、階段を下りるだろうな。無謀と勇気は違うものなんだけど、それを俺が理解した時には自分の命の残り火を確認した時だった。
たぶん、俺が特殊ということは無かったはずだ。それが冒険者魂だと思っていたぐらいだからね。
「ところで、今回はたくさんマナが入るでござろう? 地下2階の工事に特殊な魔族を雇うことを考えないのでござるか?」
「ん? 特殊な魔族ってどんな魔族」
「たぶん、クローラーにゃ。巨大な芋虫みたいな魔物だけど……。使えるかもしれないにゃ」
ミーナさんの言葉に、クリスがキューブから魔物の情報をあさり始めた。
しばらくして、大きな仮想スクリーンに画像が出てきたんだけど、こんな奴がいるんだったら、西の戦に何で投入しないのかと考えてしまう魔物だった。
確かに巨大な芋虫だ。一緒に映し出されたドワーフ族と比べてみると、胴体の直径は3mを越えてるんじゃないか?
芋虫と少し異なるのは、体長がやたらと長いのだ。蛇に近い姿をしてるんだよな。
そうか……。この魔ものは芋虫というより巨大なミミズと考えた方が納得できるぞ。
「こっちの口から土を食べてお尻から出すみたい。お尻を転移魔方陣の中に置いておけば、どんどん土砂を運べるのね」
「それで、この魔物の召喚に必要なマナはどれぐらいになるんだい?」
「2期で1000マナにゃ。できれば1年以上工事に参加してほしいけど、外にもマナが必要にゃ」
ホブゴブリンの兵士達にもマナが必要だからねぇ。夏までにやって来る冒険者で何とかなるなら使ってみるか。
俺達が、ダンジョンの拡張方法を話し合っている間に、冒険者達は地下に向かう階段を見付けたようだ。
【光球】を前に出して、ゆっくりと階段を下りている。
「どこまで達するかだな。あまり深入りするようならグレンさん達が本格的に攻撃を始めるはずだ」
「途中までは、釣りだすのかにゃ?」
「ダンジョンの大まかな作りを冒険者に教えるのが目的かな? 地下1階に入る最初の冒険者になるんだから、深入りはしないと思うんだけどね」
俺達のパーティだって、たとえ地図があったとしても新たなダンジョンを一度に攻略しようなんてことは考えもしなかった。
状況を見て、地図にそれを書き込み、次に入るための情報を少しずつ濃くしていくのだ。
誰もが入ったことがないダンジョンならば、あまり深入りするなど考えもしないだろう。冒険者は普段は臆病なくらいが丁度良い。無謀は勇気ではないとしっかり胸に刻み込むぐらいの思慮が欲しいのだが……、現実にはそうもいかないんだよね。
それを知った時が、命を終える時だってあるんだから。
「悩んでるにゃ。やはり慣れてるってことかにゃ?」
「そうだろうね。となると、回廊を真っすぐ進むんじゃないかな」
ダンジョンの攻略にはいくつかの方法がある。1つは壁の1方に手を付き、壁を伝っていく方法だ。簡単だけど、確実にダンジョンを抜けられる。万が一振り出しに戻ってきたら、再び同じ方法を最初の分岐路から試せば良いのだ。
これを繰り返すことで、外壁から分離した最終目的地に到達することもできるんだが、時間が掛かるのと、全く到達することがない回廊も出てくるのが問題になってくる。
この方法を使って地図を描けば、未到達の回廊を知ることができるから、最後は全ての回廊を巡ることができるだろう。
「クロード君の言う通りにゃ。真っ直ぐ歩いていくにゃ」
「後は、グレンさん達の妨害が楽しみだね。どの辺りで断念するかが楽しみだ」
これで、少しはマナが増える。階層が変わればそれだけマナが高くなるからね。地下1階で一泊して欲しいくらいだ。
「話を戻して悪いんだけど、地下2階の進捗は?」
「まだ天井部分なの。こんな感じで、長い回廊と天井付近が私の身長の3倍ほどだよ」
仮想スクリーンに、出来上がりの3D画像と、現在の進捗部分に色が付けられて表示された。
なるほど、数パーセントにも満たないな。
それでクローラーを使って一気に工事の速度を上げようということになるんだろう。
冬になれば、ゴブリンの里からも食料と引き換えに人員を派遣して貰えそうだが、元々非力な連中だからねぇ……。
重機でもあれば良いのだろうが、ファンタジーな世界では望むべきもない。
やはりクローラーの召喚は、前向きに考えた方が良さそうだな。
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上級者に見えた冒険者だったが、ホブゴブリンの弓兵にかなりの深手を負ったようで、翌日にはダンジョンを去って行った。
それでも、地下1階で2つの宝箱を見付けているから、銀貨数枚と武具をいくつか手に入れている。
収入は1人当たり銀貨3枚近くにはなったんじゃないかな。再びダンジョンにやって来るかどうかは、今回の収入を彼らがどのように評価するかで決まるだろう。
俺としては、やって来るんじゃないかと思う。獲物が得られるかどうかがかなり不確定な狩よりはダンジョンで得られた収入が多いはずだ。
それに地下1階への階段を見付けているから、次にやって来る時にはより多くの収入が得られる地下1階に真っ直ぐ向かうに違いない。
「それで収入は?」
「初心者3人組の方は、3日目で帰ったから、基本が5M×3日で15Mになるにゃ。スライムの罠に2回落ちて、矢を2人が受けたから無傷は無しにゃ10M×3人で30Mになるにゃ。ゴブリンの少年達と6回戦っているから60M×6で360M。合計は、405Mになるにゃ」
上級者らしい4人パーティの方は、同じ計算で630Mになるらしい。合わせて990Mだから、クローラーを呼んで一気に地下2階を作ることになった。
「それにしても、地下1階は1日で20Mになるんだな」
「地下2階なら30Mにゃ。やはり早めに地下深く掘り進むべきにゃ」
クリスも頷いているから、直ぐに呼ぶんじゃないかな。となると、次の階層の構造も早めに考えておく必要があるぞ。
「地下3階なんだけど……」
「まだ決めてませんが、前に砂漠の話をしてましたね。基本は地下2階と同じ何でしょうけど、大空間を2つも重ねてしまってだいじょうぶなんでしょうか?」
う~む……。確かに問題だけど、魔法で何とかならないんだろうか?
クリスに聞いてみると、あることにはあるらしい。
「柱に魔方陣を刻んで魔石を埋め込むんです。かなりの投資になってしまいますよ」
「となると、地下1階の迷路を作っても良さそうだね」
小部屋と回廊の迷路だからね。壁が多いから構造的な問題は無いだろう。
ついでに中央に少し大きな広間を作ってみてもおもしろそうだ。洞窟サボテンを植えておけばそれも障壁として機能するだろう。
「クリスも少し考えてくれないかな。地下3階の制約条件は地下2階の太い柱の下には同じ大きさの石壁を作っておくことぐらいかな」
「考えてみる。お婆ちゃん達にも相談して、冒険者が困るような迷路にするね」
冒険者を殺すのではなく困らせるというのは賛成だ。またマナが増えそうだな。
10日程過ぎると、地下2階の工事が今までの数倍の速さで進捗しだした。穴掘りに特化した魔物の働きは凄いの一言だ。
転移魔方陣に出てきた廃土は、東のゴブリンの里に出されている。小さな谷を埋めたり、段々畑作りに重宝していると、ホブゴブリンのお婆さんが教えてくれた。
「また、冒険者がやって来るにゃ。今年はだいぶやって来る冒険者が多いにゃ」
「実入りが大きいからだと思うよ。錆びた武器だけど、売れば銀貨に変わるからね。宝箱に入れてる、銅貨もそれなりに気に入ってるんじゃないかな」
冒険者は欲深いからね。勇者ほどではないにしろ、ダンジョンに入れば銀貨2、3枚稼げるのなら、村や町の近くで危険を冒して獣を狩るよりこっちを選ぶだろう。
「貰った武器はまだあるんだろう?」
「まだまだたくさんあるにゃ。少し上等なものは別にしてあるから、地下1階で使えるにゃ」
高そうな武器程、地下深くということなんだろう。
ますます下に下りていくんじゃないかな。




