7-02 地下2階を考えよう
町からダンジョンに戻ったところで、ミーナさんはお婆さん達のところに向かった。ワインとライムギ等を届けるんだろう。
バンパイアのグレイさんも、お婆さんとワインを飲みながら昔話に花を咲かせているらしい。
死亡させるには特殊な条件が必要になるって聞いたことがあるから、グレイさんの通年の姿と実年齢はあっていないはずだ。
戦場でお婆さん達と一緒に肩を並べたこともあるんじゃないかな。
「おかえりなさい。外は寒かったんでしょう?」
管理室に入った俺を、クリス達が笑顔で迎えてくれた。暖炉で体を温める俺に、アビスがお茶を入れてくれた。クリスはたまに渋いのを出してくるんだが、アビスはクネリさんの副官だからいつも美味しいお茶を出してくれる。
「ありがとう。そうだね、今日もかなり寒かったぞ。クリスも外に行くのは晴れた日にするんだよ」
「雪ダルマが埋もれちゃったから、また作ろうと思ったんだけど……。天気の良い日なら良いんだよね」
笑みを浮かべてたずねてきたから、笑みを浮かべて頷いた。
ゴブリン達もダンジョン内で鬼ごっこをして遊んでいるようだ。広間の洞窟サボテンに気を付ければ、それが一番の楽しみなんだろう。
「そうだ! この間頼んだ階段は作っているのかな?」
「西の階段なら、出来てるよ。でも、あの位置で良いのかな? 東の端にも作るんだよね」
「いくつかの道筋を作っておけば、勝手に使ってくれるはずだ。その階段を使うとしても、最短で地下2階に向かえるわけではないからね。それで地下2階のダンジョンはどんな形にするのかな?」
「作るのは簡単なんだけど……」
クリスが仮想スクリーンを作ってダンジョンの概念図を見せてくれた。
これって、ダンジョンなのかな?
『己』という漢字を横にしただけに思えるんだが……。
「大きな池を作るの。その池に浮かぶ島を橋で結んでこんな形にするんだけど、アビスが使える魔族はたくさんいるっていうから」
池ねぇ……。アイデアは買いたいな。問題はこの空間だ。
広間の20倍はあるんじゃないか。
天井の高さと、天井が落ちない工夫が必要だろうな。それに、魚だって真っ暗闇では攻撃どころか生活が出来ないだろう。
広間のような光源が必要になってくるな。それに東西にある2つの島は、南北200、東西20mはあるようだ。洞窟サボテンを植えても育つかもしれないな。
「最大の問題は、この空間の天井を支えられるかだけど、キューブで確認したのかな?」
「ダメだって……。どこがダメなのかは教えてくれなかったの」
やはり、構造的な問題があるんだろう。この世界はある程度なら魔道具や永続的な魔方陣を組み込むことで、物理的に不可能と思われるような代物を作り出すことができるけど、その限界を超えているに違いない。
ならば、クリス達が考えたダンジョンを少し補強することで何とかなるんじゃないかな。だいたい、巨大な内部空間を作るならアーチ状にするべきなんだけど、クリス達は正方形の空間を考えているみたいだ。
それに、1階の大広間のように天井を支える柱を作れば、天井の崩落を防げるだろう。
「空間を半球に変更してもう一度聞いてみてくれ。それでダメなら、中心から三分の一の位置に直径20m……、ロープの印2つ分ぐらいの柱を4つ設ければ何とかなるんじゃないかな? 場合によっては、可能な構造とするには? と問いかけても良いかもしれない」
簡単な絵を描いてクリス達に説明したら、だんだんと尊敬の目で俺を見てくれていた。
頼りになるお兄さん的な存在に思えてくれたなら幸いだ。
「ありがとう。やってみるね」
直ぐにアビスを連れてキューブのところに向かい、仮想スクリーンを開いている。
早速始めてみたいだな。どんな答えが返って来るのか楽しみだ。
だけど、半球構造だけではダメだとなると、砂漠のダンジョンは難しくなるな。直径500mを300mほどに変更するか、それとも楕円状に作るか……。中々ダンジョン作りは奥が深い。
ん? 今、大きな問題に気が付いてしまった。
あの大きさの空間を地下に作るとなると、その土砂の始末がとんでもない量になってしまうんじゃないか?
今までは、谷に捨てたりダンジョン前の荒野に捨てていたんだけど、本格的に対策を考えないと問題になりそうだぞ。
仮想スクリーンを展開して地図を見る。この辺りで大量に土砂を捨てるとなると……。
しばらく考えてみたが、思い当たらない。
思い切って尾根の東も考えてみたが、この雪の中を頑張って洞窟を掘り進めているのを見ると、あまり邪魔をしたくないな。
仮想スクリーンをもう1枚広げてゴブリン達の様子を見てみると、どうやら住居となる洞窟の周りに石塀を作ってその中に土砂を投げ入れているようだ。
将来的には、ダンジョンの前に平らな広場が出来そうだ。あの広さなら、子供達が遊ぶだけではなく、作業小屋も作れそうだな。
待てよ……。同じことをこのダンジョンでもできるんじゃないか?
さすがに、ダンジョンの入り口前の広場は無理でも、少し下に平らな土地を造成するぐらいは出来そうに思えるな。
それほど広くなくとも、平らな土地さえできれば、俺達で小屋を作ることもできそうだ。猟師小屋と思わせられるだろうし、使った跡さえ残しておけば冒険者達も利用するかもしれない。荒野で焚き火をしながら夜を明かすよりも、はるかに安心を提供できるだろう。
地図を見ながら適した場所を探すと、案外場所が限られていることに気が付いた。あまりダンジョンから離れては利用することも難しくなるだろうし、近くては造成作業を不審に思う冒険者が出てくる可能性もある。
となれば、ダンジョンからの距離は2km程度になるだろうし、全体を平らにすることも難しくはある。
2mほどの石垣を積んで、階段状に造成するか……。
1つの段がそれぐらいだとすれば、3つほど石垣を作ることになりそうだな。
ダンジョン内なら、土砂や土壁を石壁に変えることもできるのだが、これだけ離れるとキューブの働きに期待することもできない。
地下1階が出来たところで、ホムンクルスを使って石垣作りを始めるか。
「やったー!」
大きなクリスの声がしたので、キューブの方に顔を向けた。
キューブの上に展開された大きな仮想スクリーンにはドーム型のダンジョンの構造図が描かれている。
キューブができると判断してくれたのだろう。詳細な条件がリスト化されているみたいだから、少女2人がそれを目で追っているのが頭の動きで分かるな。
条件があったとしても、その後のがっかりした姿が見えないところをみると、それほどの難問は無いということになるのだろう。
俺の方も土砂の始末方法に目途が付いたから、地下2階を作る上での根本的な問題はなくなりそうだ。
強いて言えば人手不足だけど、ホムンクルスの数を増やすにはダンジョンを訪れる冒険者の延べ人数を増やす外に手がないからねぇ。
餌で釣ろうと思っているんだけど、中々冒険者の数が増えないんだよな。やはり近くの村からの距離が離れすぎているのが一番の問題なんだろう。
「地下に湖を作るって事にゃ?」
「そうよ。クロード兄さんが何とかしてくれたの。キューブもできると言ってくれたし、図面も描いてくれたのよ」
夕食後のお茶の時間は、俺達の状況報告の時間でもある。
地下2階の大きさは直径600mほどの半球状だから、完成すればダンジョンのレベルが2つほど上がるはずだ。
1階のダンジョンでレベル3。地下1階を完成させればレベル6になる。地下2階でレベル8だから、何とか地下1階の回廊を広げることで、地下2階の完成を持ってレベル10に持って行きたいところだ。
「地下2階に誰を召喚するか考えないといけないにゃ」
「水棲の魔族も多いんだろう? あまり強い魔族は考えないで欲しいな」
「ダンジョンレベルに合わせるにゃ。でもギルメンは絶対にゃ」
ギルメンは半魚人ってことだからかなり防御性能が高いと聞いている。レベルを調べると15もあるぞ! それって過大防衛にならないかな?
冒険者を地下2階で全滅させても困ってしまうんだけどね。
「かなり難度を上げられるにゃ。ギルメンは5体もいれば十分にゃ。残りは……、これから考えるにゃ」
「カニさんも使えるんじゃないかな。これって、魚なんですか?」
クリスが仮想スクリーンに出したものは、クラゲだった。ジェリーフィッシュなんて呼ばれるから魚と思ったんだろうが、全く別の生物なんだけどね。
クラゲの注意書きを読んでいたら、思わず目を見張ってしまった。
何と、このクラゲは水中だけではなく空中も浮遊できるらしい。レベルは5と低いのだが、麻痺毒を持っている。
少し強力な空飛ぶスライムというところだろう。群れで欲しいところだ。
「かなり使えるぞ。海水でなくとも水が近くにあれば良いらしい。そうだ! この湖の浄化も考えて欲しいな。水が汚れてはギルメンだって嫌がるだろうからね」
「浄化石が2つあれば十分らしいです。一応、3つを考えてますけど」
浄化石は魔道具ということだ。キューブから5つ提供されるということだが、6つ目はマナで手に入れる必要があるとのことだ。
他のダンジョンではどんな使い方をしてるんだろう? 俺が攻略していたダンジョンにはこんな大きな湖は無かったんだけどねぇ。




