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7-01 効果的な罠とは


 窓の外は一面の銀世界だ。

 ここにやってきて4回目の冬を迎える。現状の俺達は歳を取ることが無いけれど、この世界での暮らしが長いんだよなぁ。体は少年でも心は中年になっているんじゃないか? なるべく少年の心を維持しようと思ってはいるんだけどねぇ。


「これで冒険者はやってこないにゃ。全員を地下1階に移動させるにゃ」

「お婆さんとゴブリンの少年達10人程は残しておかないと、スライム達の餌を俺達が運ぶことになるよ」

「子羊さん達の世話は、私達が出来ますよ」


 そんな話で朝食後のお茶に時間が賑やかになる。

 ダンジョン拡張は大事なことだけど、それ以上に現状のダンジョンの維持管理も大事なことだ。

 さらにこんな雪の中を、このダンジョンにやって来る冒険者がいないとも限らない。

 仮想スクリーンの地図で1日2回は監視する必要があるだろう。

 やってきたら、それなりに歓迎の準備をしなければなるまい。


「クロード君は、ここで監視していて欲しいにゃ。私達は出掛けて来るにゃ」


 ミーナさんの言葉に、クリス達も頷いているのは子羊のところに向かうってことなんだろう。


「何も無いとは思うから、倉庫で工作でもしているよ」


 少なくとも、ダンジョンから15km以内には誰もいない。野ウサギも巣穴の奥でじっとしてるんだろうな。

 3人が出掛けたところで、倉庫に向かい賽銭箱を作り始める。

 最初の賽銭箱は途中から宝箱になってしまったから、今作っている賽銭箱が最初の品になる。

 ちゃんと募金箱とこの世界の文字を彫ってあるから壊すような冒険者はいないと思うんだけどねぇ。

 たくさん貯まるようなら、村の教会に寄付してあげようかな。


 3人が帰ってきたのは、夕暮れ近くになってからだった。

 俺は1人で昼食を取ったんだけど、クリス達はお婆ちゃん手作りのスープをごちそうになったらしい。薄いパンを一緒に食べたと言っていたから、中近東で作られていたパンに近い物なんだろう。


「小麦が手に入ったから、と言ってたよ。雑穀も良いけど、これぐらいの食事がしたいとも言ってた」

「なら、次はライムギと雑穀を5袋ずつ買ってくるよ。ホムンクルス達には雑穀で良いんじゃないかな」


「地下1階は半分出来てるにゃ。明日はクリスと出掛けて、回廊の壁を仕上げて来るにゃ」

「そうなると、こことここをローリングストーンで塞げば地下を使えそうだな……」


 ミーナさんの話しでは、地下1階の迷路の西半分の工事は仕上げを残すだけらしい。回廊の壁の仕上げはキューブの力を借りることになるから、クリスがどうしても必要になってしまう。これで今年やって来た冒険者達から得たマナが、ほとんどなくなってしまいそうだ。

 そうなると、また宝箱を作ることになるんだろうな。とりあえず5個も作っておくか。


「そうにゃ! 武具をしまった部屋を調べてたら、この革袋があったにゃ。銀貨が一杯だから、餌に出来るにゃ」


 兵士の持っていた硬貨ということになるんだろうな。

 ミーナさんがテーブルに革袋の中身をバラ撒くと、銀貨だけでなく銅貨もかなりの数だ。銀貨だけで100枚近くあるし、銅貨はその2倍はあるんじゃないか。

 これだけあれば、来年やって来る冒険者達に少しずつ使えるだろう。ありがたく頂いておくことにした。


「婆さんが食料の輸送部隊から、これをクロード君に渡すようにと頼まれてたにゃ。預かって来たにゃ」


 ミーナさんが腰のバッグから取り出したのは、細長い包だった。綺麗な布に包まれているけど、御礼のナイフかな?

 スイっとテーブルの上を滑らせて、俺の前に置いてくれた包を開いてみた。


「これって!」

「魔族に従ったドワーフ族の作にゃ。そしてこっちがおまけにゃ」


 ニコリと笑みを浮かべて小さな革袋を渡してくれた。

 包から出てきたのは立派な銀のパイプだ。ミーナさんが放ってくれた小さな革袋が膨らんでいるところをみると、タバコ入れということなんだろう。


「貰っても良いのかな? 昔は使っていたけど、クリスもいるからねぇ」

「ダンジョンの出口辺りで楽しめばいいにゃ。大広間も構わないにゃ」


 ダンジョンの外は一面の銀世界だ。冷え込むに違いないから大広間で楽しむことにしよう。

 冒険者時代には愛煙家だったからねぇ。ここでは諦めかけていたんだけど、俺にとっては一番嬉しい贈り物だ。

 とはいえ……。


「これって高そうだよ。どう見ても金貨が必要な代物に見えるんだけど」

「彫刻が凝ってるにゃ。でもその彫刻はいつまでもその姿を保っているし、傷も付かないにゃ」

「【保護】の魔方陣でも彫ってあるのかい?」

「【保護】と【身体機能向上】にゃ。ずっと持ってるといいにゃ」


 【身体機能向上】と言っても魔法の力よりは劣るらしい。ほんのちょっとらしいけど、それがあるのと無いのでは戦闘がまるで違うからな。押し頂いて、ベルトに挟んでおくことにした。


「ミーナさん達には何もないの?」

「お礼はクロード君の考えた作戦に対してにゃ。私も感謝してるにゃ。クリスだってゴブリン達の仲間が飢えに苦しむことが無いのを喜んでるにゃ」


 ミーナさんがクリスに顔を向けながら話をしたから、2人が頷いている。

 俺だけってことが引っ掛かるから、女性用の何かをクネリさんが来たときにでも強請ってみようかな。

                 ・

                 ・

                 ・

 新年を迎えてしばらくしたところで、ミーナさんと町に向かう。

 町の近くに転移したから、直ぐに町に入ることができた。とはいっても、ダンジョンからかなり南だし、山麓からも離れているのだが雪がかなり積もっているな。


「雪靴を履いてきてよかったにゃ。それで、ギルドが最初にゃ?」

「俺達の存在を怪しまれても困るからね。山奥で狩りをする猟師であれば納得してくれるさ」

「イノシシも2頭運んできたにゃ。鹿より高く売れればいいにゃ」


 それ以外に野ウサギの毛皮も持ち込んでいるようだけど、猪は肉屋だし毛皮は雑貨屋になる。あちこち回らなければならないな。

 それなら、手早く回ろうか……。先ずは、ギルドだ。


 ギルドの扉を開けると、ホールで暇を持て余している冒険者達が一斉に俺達に視線を向ける。

 あまり気持ちの良いものではないけれど、ギルドなんてどこも一緒だから慣れるしかないんだよなぁ。

 いつものようにカウンターに向かって歩くと、愛想の良い受付のお姉さんの前に立つ。


「スライムの核なんだが、買い取ってほしい」

「この季節にスライム狩りですか!」


「去年の秋にダンジョンで手に入れたものさ。いつの間にかあちこちに落とし穴で出来てたんだけど、その中に入ってたんだ」

「そんなことがあるんですねぇ。全部で21個です。種類によって値段が少し変わりますから……。全部で59バイトになりますね」


 木枠に丸い玉を通したソロバンのような計算機を使って計算を終えると、カウンターの上に銅貨を並べてくれた。

 ありがとうと礼を言って、ギルドを出る前にちらりとホールの中の連中を眺める。

 興味深々の表情で俺達を見ているから、今年の春には来てくれるかもしれないな。


「ずっと私達を見てたにゃ」

「近場で狩りをするぐらいだろうからね。雪国の冒険者の冬はキツイのかもしれないな」


 町から離れて狩をするようなら、凍死する可能性だってあるだろう。かと言って何もしないのでは食事だってままならないはずだ。

 春から秋にかけてたっぷりと稼いでいれば良いのだろうが、そんな冒険者は少ないだろうな。


「ほう、立派なイノシシだ。毛皮込みで220バイトが相場だが、2匹で260バイトで買い取るぞ!」

「それでいいにゃ」


 ミーネさんが嬉しそうに硬貨を受け取っている。

 冬場の新鮮な肉は肉屋も嬉しいに違いない。たまに冒険者が罠猟で獲物を持ち込んでは来るらしいが、町の人口は5千人を超えているからねぇ。直ぐに売り切れてしまうだろう。


「次は雑貨屋にゃ!」

 

 嬉しそうな表情で先を歩いていたミーネさんが俺に振り返った。

 足元は半分凍ってるんだから、余所見をしてると転んでしまいそうだけど、さすがケットシーだけあって、バランス感覚が半端じゃないな。

 

 雑貨屋では、ミーナさんがリスト片手にいろいろと注文を始めた。奥の暖炉削傍に合った椅子に腰を下ろしてパイプを楽しむ。

 管理室では禁煙だけど、ここなら文句を言われないだろう。


「確か、山の猟師だったな?」


 そう言いながら、俺の前に椅子を引き寄せてパイプを取り出したのはもう直ぐ青年を卒業しそうな男と、俺より少し年上に見える男だった。冒険者なんだろう。先輩に教えを受けているのかな?


「ええ、そうです。今年は西の仲間が一緒ですから、食料の確保が大変ですよ」

「あれを見る限り、20人というところだろう。罠というわけでは無さそうだ」

「落とし穴ですから、罠と言ってもいいでしょう。かなり仕掛けてありますが、近くの幹に赤い布を巻いています。それが見えたら近づかないようにお願いします」


「俺達は森までだ。森を過ぎたガレ場から上には行かんが、森には何も仕掛けていないということで良いんだな?」

「冒険者と争っても良いことはありません。森では弓を使うだけですよ」


 若い男がお茶を運んできた。どうやら俺から情報が欲しいということに違いない。ミーナさんの方に顔を向けると、俺の視線に気が付いたようで小さく頷いてくれた。そのまま続けろということなんだろうな。


「先ほどギルドに核を持ち込んでいたな? 受付嬢は落とし穴の底にあったと聞いたようだが?」

「不思議なことに、そうなんですよ。東のダンジョンの入り口を真っ直ぐに進むと大きな広間があるんですが、そこにたくさん落とし穴があったんです。

連れは引っ掛かりませんでしたが、俺は2度ほど落ちましたよ。落とし穴は膝ほどの深さもありませんでしたが、1つ問題が……。底にスライムが入ってたんです」


「そういうことか……。となると、誰かがスライムを踏みつぶしてそのまま気付かなかったということなんだろう。おもしろい罠もあったものだ。だが、ダンジョンの奥では効果的かもしれんな」

「スライムなら俺でも簡単に倒せますよ?」

「タダのスライムならな。だが、スライムの中には毒を持っている奴も多いんだ。あの核の値段が高かったのはそういうことだ」


 目からウロコの話だ。なるほど、必死の思いでダンジョンを深く潜ったところにそんな罠が待っていたなら、かなり困った事態になるだろう。

 毒や麻痺は魔法で回復するか、薬草を使うことになる。その在庫が問題になるだろう。

 ダンジョンの奥底には強い魔族と相場が決まっているけど、案外安易な方法でも冒険者を追い出すことはできるということになる。

 これは使ってみるべきだろう。


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