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6-04 子羊を連れて


 隣に寝ていたミーナさんに起こされてしまった。

 いつもは早起きなんだけど、昨夜遅くまで起きていたせいかな?


「今日はどうするにゃ?」

「食料を買おうよ。できれば小さな荷馬車も欲しいけど、手に入るかな?」

「雑貨屋で聞けばいいにゃ。それと、家畜を運んであげたいにゃ」


 まさか牛とは言わないだろうから、羊かヤギということなんだろう。果たして買えるんだろうか? 冬に生まれた家畜は秋には出荷すると聞いたことはあるんだが。


 2人で着替えを終えたところで、部屋を出る。

 顔を洗って、朝食を頂いたところで、おばさんに部屋のカギを返した。


「また、来てくださいね」

「山を巡ってるからねぇ。仲間達にも教えておくよ」


 軽く手を振って、宿を出る。

 朝食を運んでくれた娘さんに、雑貨屋の場所は教えて貰ったんだが、家畜の売買については首を傾げていたんだよね。雑貨屋で再度聞いてみるか。


「雑穀を5袋ですか! 少し待ってくださいね」

 

 雑貨屋のお姉さんは、そう言って奥に行ってしまった。

 奥で誰かと話をしているようだ。そんなに珍しい話なのかな? それとも量が多かったんだろうか。

 

 やがて戻ってきたお姉さんが俺達に笑みを見せてくれる。営業用だと分かっていても、嬉しくなってしまう。


「主人に運ばせますから、少し待ってください。その他に必要な物は?」

「カボチャと豆の種が欲しいな。ジャガイモの種イモがあればそれも欲しいんだけど、量はカゴ1つぐらいでいいよ。俺達の焼き畑はそんなに大きくないからね」

「ついでに、鍬も欲しいにゃ。柄は作れるから先だけ3つにゃ」

「種と、ジャガイモ、それに鍬の先ですね。ちょっと待ってください」


 店内の棚を回りながら、頼んだ品をテーブルに並べてくれる。種は小さな革袋で売ってるんだな。両手に乗るぐらいの分量があるようだ。


「運んできたぞ。まさか担いでいくわけじゃないよな?」

「魔法の袋がありますから、だいじょうぶですよ。……そうだ! この町で羊かヤギを手に入れられませんかね。子供達に世話を頼めば将来嫁さん達に内職をさせることができるんですが」

「それなら、通りを真っ直ぐに南に行った先にある農家に頼んでみたらどうだ。秋には何匹か売りに出すと言ってたから少し早めに買えば安く手に入るかもしれないぞ」


 ミーナさんが広げた魔法の袋に雑穀の袋を入れていた、若い男が手を休めて教えてくれた。

 思わずミーナさんと目を合わせて頷いてしまう。

 次に向かう先が決まった感じだな。

 テーブルの上の品物は、俺の魔法の袋に入れたところで代金を支払う。


「ここには酒は置いてませんよね?」

「酒は、もう1軒の雑貨屋にあるよ。通りを同じように南に向かって2つ目の四つ角にある。向こうも似たような品揃えなんだが、俺の実家なんだよね」


 この雑貨屋に婿養子に入ったってことかな?

 それなら、2つの雑貨屋で暗黙の取り決めもあるのだろう。一部の商品を専業化するんなら共倒れはしないはずだ。


 雑貨屋を出て、次の店へと向かう。

 教えて貰った通りに、同じような看板を下げた店があったから、再び買い物が始まった。


「こっちの店に雑穀は無かったにゃ」

「でも、ライムギと酒に調味料があったのはありがたいね。少しでも食料を用意しないと大変だから」

 

 買い物を済ませてさらに通りを南へと歩いていく。

 昼だから、人通りもある。すれ違うたびに軽く頭を下げると、向こうも同じような挨拶を返してくれる。

 町の住人ではないけれど、このぐらいの挨拶が出来ないと、後ろ指を差されそうだ。


「あれかな?」

「そうかもしれないにゃ。少し離れているのは仕方がないにゃ」


 周囲からの苦情を避けるためなんだろう。隣の家とは3軒分ぐらい離れている。その南の家は近くに立っているから、農家と町の住人を分けているのかもしれないな。

 

 さて、この時間だと家にいるんだろうか?

 とりあえず、通りに面した戸口を叩いてみた。

 2度繰り返すと、家の奥から「ハ~イ!」と返事が返ってきた。声の感じではまだ若い奥さんに思えるな。


「あら? 私達の家になんのごようでしょう」

「実は……」


 北の雑貨屋で家畜を売ってくれるかもしれないと聞いてやってきたことを話すと、すぐに俺達を家の中に招いてくれた。

 入ると土間が奥まで続いている。土間の真ん中より少し暖炉よりに置いてあるテーブルセットは手作りしたんだろう。暖炉は大きなカマドにも見える代物だ。

 俺達にお茶を入れてくれたところで、「主人を呼んできます!」と言って奥の扉から出て行った。


「売ってくれるのかにゃ?」

「さあ、条件次第だと思うんだけどね」


 農家が家畜を始末するのは晩秋になってかららしい。まだ初秋だからね。安くしてくれるか、それとも相場を言ってくるかな。

 お茶を飲み終えたころに、奥の扉から夫婦がやって来た。旦那の方は40歳には届かないようだ。子供の声が扉の奥で聞こえたから子供達も何か手伝っているに違いない。

 旦那が近づいたところで、俺達も席を立って互いに軽く頭を下げる。

 俺達に席に着くように手で示してくれたところで、再び席に着くと嫁さんがお茶を換えてくれた。

 嫁さんが自分のカップを持って椅子に座ったところで、旦那が口を開いた。


「家畜をお求めだと聞きました。私共がお売りできるのは羊になりますが?」

「子供達に世話をさせれば嫁さん連中の内職が出来そうだ。何匹か売ってくれるとありがたい。それで、値段だが……」

「子羊は秋に銀貨1枚というところでしょう。それで買ってくださると助かります」

「5匹は無理かな?」


 俺の問いに夫婦が顔を見合わせる。

 少し数が多すぎたかな?


「この時期に買ってくださるなら願っても無いことです。ですが、連れて行くのは面倒ですよ。餌も必要でしょう」

「出来れば、雑穀も少し欲しいのですが、1袋50バイトで5袋を何とかできますか?」

「さらに3袋を付けましょう。私共の雑穀の売値は35バイトなんです」

 

 根が正直な農家なんだな。そんなことを言わないでそのまま受け取ってもいいところなんだけどね。

 バッグから財布代わりの革袋を取って、銀貨を8枚並べる。


「これでお願いします。釣りはいりませんから、子羊にロープを付けてください」

「よろしいのですか! ですが……、そうだ。リデル、ジャガイモがあったな。あれを1袋追加だ」

 

 ここで待つように俺達に言うと、すぐにテーブルから離れて奥の扉から出て行った。

 

「それでは、ありがたく頂戴いたします。ところで、魔法の袋はお持ちですよね」

「ちゃんと持って来てるよ。それが無いと運べないからね」


 アビスから借りた魔法の袋が役に立った。

 俺達の魔法の袋には、すでにたっぷりと穀物が入ってる。まだ入るとは思うんだけど、底が抜けたりしたら大変だ。


 土間に次々と運び込まれた雑穀の袋を魔法の袋に詰め込み、最後のジャガイモの入った袋を受け取ったところで、魔法の袋をバッグにしまい込む。

 

「次は羊ですね。子羊ですから、親と違ってまだ言うことを聞きますが、どこまで行かれるんですか?」

「ここから15日というところですかねぇ。東の尾根に俺達の住み家があるんですよ。北の山麓沿いに広く俺達は狩りをしてるんですが」


 ちょっと驚いているな。実際には今夜中に着くんだけど、歩いたら15日はたっぷりかかるだろう。


「用意が出来たらお知らせします」

 

 少し太めのロープを使ってくれるんじゃないかな。

 これで、俺達の買い物が終わりそうだ。少し温くなったお茶を飲んで待っていると、通りの扉から、旦那さんが顔を出した。

 準備が出来たらしい。

 嫁さんに、お茶のお礼を言って席を立つ。


 通りに出ると、5匹の子羊が並んでいる。太いロープを軸にして、途中から枝を伸ばしたように子羊が繋がれていた。


「これで引いて行けるでしょう。夜は物騒だと聞いてます、お気を付けて」

「ありがとう。それじゃあ、長い道だけど帰るとします」


 戸口で手を振る夫婦に見送られて、町の通りを北に向かって歩き出す。

 意外と、暴れたりしないものだな。

 ミーナさんが子羊達を繋いだロープを持ち、俺は最後尾で様子を見ながらの行軍だ。

 町の出口の門番に軽く手を振ると、向こうも俺達の様子を眺めて笑い顔になりながらも手を振ってくれた。

 後はまっすぐに街道を東に進めばいい。

 もっとも、暗くなれば転移できるから、のんびりした歩みになってしまう。


「ところでミーナさん」

「なんにゃ?」

「この子達の性別は?」


 間に5匹の子羊がいるから大声の会話なんだけど、俺の問いにミーナさんの足が止まった。


「ちょっと待つにゃ!」


 ロープを握ったまま俺の方に歩き出すと、子羊の顔を1匹ずつジッと眺めだした。

 あれで分かるんだろうか?

 俺にはまるで理解できないんだけどねぇ。


「オスが2匹でメスが3匹にゃ! きっとたくさん子を産むに違いないにゃ」

「そうなの? でもそれって、何年後になるんだろう?」

「待っていれば数が増えるにゃ」


 かなりあいまいな答えだけど、増えるんなら問題ないんだろうな。

 明日から、干し草作りを始めないといけなくなるかもしれないが、ゴブリンの少年達が頑張ってくれるに違いない。

 毒草が混じらないかちょっと心配になるけど、子羊は可愛いからねぇ。きっと厳選して集めて来るんじゃないかな。


 道草を何度か食いながらも、夕刻に近づくころには町からだいぶ離れることが出来た。

 すでに周囲の見通しもだいぶ怪しくなっている。

 この辺りで良いかな。

 街道から離れると、林に向かった。

 だいぶ暗くなってきたけど、ミーナさんの目ならまだ十分に周囲を見通すことができる。


「それじゃあ、転移するよ」

「子羊は纏めたからだいじょうぶにゃ」


 バングルに埋め込まれた宝石に手を振れると、俺達の周りに【転移】魔方陣が現れる。

 周囲に光のカーテンが踊りだして一際輝くと、俺達は管理室の隣の倉庫に姿を現した。


「このまま、婆さん達のところに行ってくるにゃ。クリス達に説明しといて欲しいにゃ」

「了解。後は頼んだよ」


 倉庫の扉を開けようとしたら、後ろからの光で扉に俺の影が映る。

 ミーナさんは出掛けたようだな。俺も待ちわびてる2人に報告をしておこう。


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