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6-05 魔族の食料援助方法


「子羊が5匹ですか! 今ならお婆ちゃんのところにいるんですね?」

 

 俺の話を途中まで聞いていたクリスが、突然大きな声を上げてアビスを連れて出掛けて行った。

 モフモフが好きなのかな?

 とりあえず、ダンジョンの状況を見てみるか。

 平面図には、来客の姿がない。やって来たのかまだやってこないのかを聞いていなかったが、とりあえずの危険はないらしい。

 あれから、2日しか経っていないから、たぶん誰も来なかったんだろうな。

 相変わらずの寂しいダンジョンだ。


 周囲に地図を広げてみると、思わず目を見開いてしまった。森の出口付近に1組と、1日半ほどの距離にもう1組が野宿しているようだ。

 最初のパーティがダンジョンで一夜を明かすようなことになれば、2つのパーティがダンジョン内いるという初めての状態が起きるんじゃないか!

 そうなったら祝杯を挙げても良いように思えるぞ。


 地下の拡張は、30体のホムンクルスが頑張ってくれている。さすがに早く思えるのは、地下1階は部屋があまりなく回廊がメインだからなんだろう。

 最後は、尾根の東側なんだけど生憎と、地図上の位置が掴めるだけだ。

 ミーナさんがお婆さん達から状況を聞いてくるだろうから、それを待つことになる。

 それにしても……、毎日数百体のゴブリンが転移してくるんだからね。住み家作りが間に合わないんじゃないかと心配になってしまう。


 1時間ほど経った頃に、3人が帰って来た。

 少し遅い夕食を取りながら、ミーナさんから状況を聞く。


「洞窟を3本作ってるみたいにゃ。小川の西に作った小屋を解体して東で組み立てているらしいにゃ。やはり外に小屋は必要にゃ」

「畑の方も順調なのかな?」

「焼き畑ではなく、本格的な畑を作ると言ってるにゃ。家畜もいるならたい肥もできると喜んでたにゃ」


 とはいえ、肥えた土ができるには何年も掛かるんだろうな。農業は短期間で何とかなるものではないからね。

 俺の教えたカゴ漁のカゴをたくさん作ったらしい。おかずにもなるだろうけど、冬越しの食料を今の内に確保するつもりなんだろう。


「今日やって来た連中と一緒に、穀物も送って来たと言ってたにゃ。人間族の輸送部隊を襲撃した戦果らしいにゃ」

「少しは飢えを凌げるかな?」

「荷馬車20台分と言ってたけど、半分を貰えると言ってたにゃ」


 2馬車に積む穀物袋は40袋が良いところだ。ということは400袋近くが送られてくるということになる。

 それでも5千のゴブリンを食べさせるには足りないんだろうな。


「この冬に、もう2、3回輸送部隊を襲えればいいんだが……」

「たぶん、やるにゃ。ゴブリン達がそう言ってたにゃ」


 襲わなければ冬を越せない。その戦で命を落とす者だってたくさん出るのだろう。亡くなれば、それだけ種族の食料が広く行き渡ることも考えてのことだろう。

 ゴブリン達と、散々馬鹿にしていた種族なんだけど、一緒にいると仲間を思いやる種族だということがよく分かる。

 あまり犠牲者を出さずに、たくさん奪えることを祈るばかりだ。


「冬の間は、お婆ちゃん達が子羊を預かるって言ってたの。たまに様子を見に行ってもいいでしょう?」

「ああ、構わないよ。餌はたっぷりとゴブリンの少年達に集めさせればいいけど、食べさせちゃダメな草もあるんだよね」

「集めた草をおばあちゃんが見てくれると言ってたよ。それなら大丈夫だよね」


 クリスに笑みを浮かべて頷いた。嬉しそうに、隣のアビスと抱き合って喜んでいるから、毎日出掛けるんじゃないかな?


「そうそう、冒険者がやってきてるぞ。2組が場合によってはダンジョンに入ることになりそうだ」


 俺の言葉に、ミーナさんが素早く仮想スクリーンを広げた。地図を見ながら頷いているから、俺と同じ考えなんだろう。


「こっちは明日にはやって来るにゃ。こっちの冒険者達は1日到着が遅れるから、最初の連中がダンジョンで一夜を明かすなら一緒になるにゃ」

「一応、作戦は今まで通りでいいだろう。一当たりして後退する。この繰り返しで十分だ」

「宝箱はそのままでいいの?」

「あまり良いものはないけれど、村の冒険者には十分じゃないかな? 勇者を釣る餌の鎧はそのまま置いてあるから、見付けたら大喜びでダンジョンを出ると思うよ」


 鉄の鎧に金を薄く伸ばしたものだからねぇ。鎧の中を覗いたら一発でバレるんだけど、鉄の鎧だってそれほど安くはないからな。


「スケルトンさんはホムンクルスさんのお手伝いをしてるけど、今の数で大丈夫かな?」


 クリスの言葉を聞いて、ミーナさんに顔を向ける。


「スケルトン28体の内、20体を地下1階に派遣してるにゃ。それと、ゴブリン弓兵は帰ったけど、ゴブリンの少年達が使えるにゃ」

「ゴブリンの少年達には一矢浴びせたら直ぐに撤退することを徹底しといた方がいいな。スケルトンはもう1隊を、準備しておこう。ゴブリン達にレイスのお婆さんを付けとけば、撤退も援護して貰えそうだ」

「了解にゃ。指示は私がするにゃ」


 ゴブリンの少年達には大広間の奥の回廊で待機してもらおう。あそこから矢を放つなら、途中に洞窟サボテンがあるから、真っ直ぐに追ってこれないだろう。


「勇者達のおかげでバイトはしばらく心配ないにゃ。この辺りで、もっと強い魔族を召喚させてもいいにゃ」

「そうなると、ゴブリンさん達になりますよ。その上はスケルトンさんです」

「さらに上を狙うにゃ。オークがいいにゃ」


 オークは最低でもレベルが8もあるんだよな。マナを消費してダンジョンに置くとなると、10体で1000マナは使いそうだ。

 勇者達ではマナが200程度しか増えなかったから、今度はマナの減りに注意しないといけなくなってしまいそうだ。


「今年は待った方が良いかもしれないね。地下1階のダンジョンが完成したら、地下1階はオークに任せてもいいと思うんだ」

「今年で半分程度だよ。回廊が多いから拡張は早いんだけど……」


 クリスはちょっと残念そうな表情をしているけど、地下1階が出来上がればダンジョンのレベルが更に上がる。オークの召喚もそれほど無理じゃないだろうし、1階のスケルトンの数を増やしたり、ゴブリン兵士の部隊さえ作れそうだ。


 翌日は、朝からクリス達は子羊と遊びに出掛けたようだ。ダンジョンの東の奥の1室だから、冒険者達が辿りつくまでには時間が掛かりそうだし、念の為にローリングストーンで回廊を閉じてある。

 お婆さん達やゴブリンの少年達も暮らしてるんだからあまり奥には行かせたくないな。


「それで、いつ頃やって来るんだろう?」

「昼過ぎになりそうにゃ。もう1つの方は、明日の朝にゃ」


 スライムで大広間に誘い込み、ゴブリンの少年達を追い掛けて貰おう。途中に2段にスケルトンが配置されているから、上手く行けば広間から西の区画で追い払うことができるんじゃないかな。

 何度かの戦闘で、スライムの核は手に入るだろうし、スケルトンの装備を手に入れられるかもしれない。洞窟サボテンの実も魅力的だろうけど、本体の実を取ろうとすれば根っこで絡めとられる可能性が高いからね。

 魔導士が一緒なら、絡まれても火炎弾をぶつけることで簡単に救出できるんだが、いないとなれば、切り取るしかなくなるから面倒なんだよな。


「地下にも罠を仕掛けるんにゃ?」

「いろいろと考えてるんだけど、出来れば道に迷わせたいな。方向を示す矢印が良いんじゃないかと思ってるんだ」


「矢印……。使えるのかにゃ?」

「迷わせるには一番なんじゃないかな。四つ角に、適当な標識を立てておけば、それに従うかどうか迷うはずだ。元々クリスの考えた回廊の迷路は特徴がないからね。何もなくても現在地点が分からなくなるよ。戦いながら、回廊を移動したりすれば確実じゃないかな」


『出口はこちら』とか『この通りを真っ直ぐ』なんて言葉は、迷ったときにどんな印象を与えるか楽しみだ。

 もっとも、1日以上迷っているようなら、スケルトンを使って出口に誘導させないといけないだろう。マナの収益は冒険者の数とダンジョンに滞在したに数で決まるんだから。


「地下1階はクリスの監修だからね。子供のいたずらは、案外大人は引っ掛かりやすいと聞いたことがあるんだ」

「教えてあげるにゃ。『言葉の罠』ということにゃ」


 ミーナさんが感心したような顔を俺に見せながら呟いたけど、何となく詐欺師に聞こえてしまう。

 魔族は正直者ばかりだから、俺が何となく悪者に思えてしまう時があるんだよな。

 人間族は自分達こそ正義だと思っているけど、この世界で一番の悪者は案外人間かもしれないぞ。

 上手いことこの仕事を終えなければ、俺の将来は暗いものになりかねない。

『至高の恩君』と天使が言った存在はこの世界で信仰されている、地水火風の4柱の神とも異なるみたいだからね。

 取りえず、モイライ像の前に賽銭箱を置いてお祈りだけはするとしようか。

 冒険者達もダンジョン内での安全を祈願して1バイトぐらいは入れてくれるかもしれない。

 その資金を使ってモイライ像の祭壇を維持するのも良さそうだ。


 倉庫で賽銭箱を作っていると、皆が帰って来た。

 そろそろ昼食ということなんだろうか。手を休めて管理室に向かうと、暖炉前の小さなテーブルに俺達の昼食が並んでいた。

 誰も言わないけれど、ソファーに座っての食事はマナー的に問題なんじゃないか? それに、食べ難いんだよね。

 まだマナが残っている内に、中古のテーブルセットを手に入れたいな。


「テーブル?」

「そうです。テーブルです! 館の中でこんなところで食べてたら、マーサにお尻を叩かれてしまいます」


 クリスが、はっとした表情で呟いている。マーサと言うのはクリスの教育係だったに違いない。かなり厳しく育てられたのかな?

 ちゃんと、テーブルを選ぶと力説してくれたから、ここはクリスに任せておこう。


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