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5-04 何とかなりそうだ


 夜半にふと目が覚めた。

 いつもより布団が重いと思ったら、布団の上に子猫がちょこんと丸まっている。俺に目が合うと、布団の中に潜り込んできたけど、これってミーナさんなんだよな。

 いつもはクリスの隣のベッドで寝ているはずなんだけど、今日はアビスに取られたのかな?

 まあ、向こうの世界では飼い猫といつも一緒に寝ていたから、気にはならない。

 お腹に体を寄せて、直ぐに丸まってしまうのも一緒だな。

 さて、もう一度眠ろう。明日も勇者対策で知恵を絞らなくてはならない。


「あのう……。これはどういうことなんでしょう?」

「布団に入れてくれたからサービスにゃ。それに私のだから問題はないにゃ」


 翌朝目が覚めたら、俺の上に全裸のミーナさんが乗っていた。

 笑みを浮かべて俺を覗き込んでいた時には驚いたけど、間違いはなかったのかな? 俺に自覚が無いんだから問題はないと思いたいところだ。


「これだとクリスの教育に悪いにゃ」


 ポン! と音が聞こえたのは気のせいなんだろうけど、それぐらい唐突に子猫の姿に戻って、器用に扉を開けて出て行った。

 俺も起きるか。そんな気持ちで体を起こすと、下着が綺麗に脱がされている。やはり何かあったと思うべきかもしれないけど、この体だからねぇ。俺達の姿はあくまで仮の姿らしい。実体もあるんだが、この世界の思考の存在とやらが与えてくれたかりそめの体なんだよな。

 これからどれぐらいの時間がかかるかわからないけど、ダンジョン経営をきちんとやり遂げて、この世界で暮らすための体を用意してもらわねばならない。

 そのためにも、勇者対策を何とかしないといけないんだよね。


 衣服を整えて管理室に行くと、ミーナさんがお茶を用意してくれた。

 サニタリーで顔を洗ってから、暖炉傍のソファーに腰を下ろしてお茶を頂く。

 何気なく窓の外を見ると、今日も雪が降り注いでいる。


「3人の始末は何とかなるにゃ。クロードの方はどうにゃ?」

「少し糸口が見えてきたけど、俺も一度お婆さんのところに行ってみたい。魔導士3人なら色々と魔法のことわりを教えて貰えそうだ」


 笑みを浮かべたのは、勇者対策に目途が立ったと思ったからか、それとも魔族のお婆さんに知恵を借りることに同族意識が働いたからなのか微妙なところだ。


「ホブゴブリンもゴブリンも元々の魔族ではないにゃ」

「聞いたことがあるよ。ケット・シーやドワーフ族と共に妖精族だと聞いたことがある。かなり昔に魔族の軍門に下ったということだ」

「そうにゃ。魔族は、古の神々とその軍門に下った種族に古の神々が創造した魂の希薄な動く種族の総称にゃ。上下関係は厳しいけど思いやりはあるにゃ」


 魂の希薄な種族というのにスケルトン達は入るのかな?

 古の神々というとケネルさん達ラミアもそうなのかもしれない。妖精族にはいろんな種族があるから、いまだに人間族側で戦を支援している者達もいるんだろうな。

 ネコ族やイヌ族と呼ばれる獣人族は今のところ人間族側だから、ネコ族と変わりない姿のミーナさんを連れて町や村に行っても、誰も気にも留めないんだよな。アビスを連れて行っても同じなんだろう。


「俺は魔族を敵としているわけじゃないよ。そりゃあ、かつては冒険者だったけどね。ミノタウロスに殺されたけど、あれは俺の慢心の結果だ。尊敬する人と敵とする人の分別はできるつもりだよ」

「ならいいにゃ。1人で会って来るにゃ」


 そんなに心配かな? クリスは親戚のお婆ちゃんに会いに行く感じで、通っているみたいだけど、俺だって先達の教えを請いに行くんだからね。敬意を持って行くことはあっても、敵意を持って行くことはない。


 お茶を飲み終えたころに、ようやくクリスが姿を現した。相変わらずアビスをきつく抱いてるけど、食事のときは離してあげないとかわいそうだぞ。


「今日も雪が降ってるね」

「気温が低いから、ダンジョンの外には出られないよ。晴れて気温が上向いたら、ゴブリンの連中と遊ぶこともできるんだろうけどね」

「今年の冬はいろいろとやることがあるから、退屈しないよ」


 イヌ族の姿に戻ったアビスと一緒に棚から朝食を運んでいる。

 最初は危なっかしかったが、この頃は慣れてきてるな。貴族の身分を失っても何とかやっていけるんじゃないか?


 食事を頂きながら今日の予定を聞いてみると、クリス達は落とし穴を作りに出掛けるらしい。

 作ってる場所が大広間と中央回廊から東側だから、冒険者達がやってきても最初の落とし穴で引き返せばそれほど害にはならないだろう。

 それにしても、落とし穴ばかりになってきたんじゃないか?


「まだまだ作るの?」

「この辺りに作ったら、次の罠を仕掛けるの。今度は仕掛け弓だよ」

「危険じゃないのか?」


 仕掛け弓は狩りの罠だが、矢に毒を塗れば大熊だってし止められるからな。

 もっとも、中級の治癒魔法と毒消しを持っていれば助かる者は多いだろう。即死したものを助けることはこの世界の魔法ではできないらしい。

 だけど、毒耐性を持った体や防具もあるし、即死無効の効果を持った防具やお守りもあるようだ。

 そうなると、1回で相手を殺すことは極めて困難になってしまう。クリス達がダンジョン内にたくさんの落とし穴を掘っているのも、それを考えてのことに違いない。

 魔力の枯渇と手持ちの毒消しや薬草の使い切りを狙っているに違いない。


「クロードさんはどうするの?」

「何とかなりそうなんだけど、本当にそうできるかをお婆ちゃん達に聞いてくるつもりだ。朝食が終わったら、すぐに出掛けるよ」

「魔法を、ほんとによく知ってるよ。私達の作戦もお婆ちゃん達の話を元にしてるぐらいだもの」


 いろいろと聞いてみて、その中から今の方法を自分達で考えたなら、それはクリスが考えたといっていいんじゃないか?

 特許にはならないかもしれないけど、実用新案として許可が下りそうだ。

 それに比べて、俺の考えた方法は余り準備が必要ないけど邪道と言われそうだな。こんな方法を常に使っていると天国は遠くに行ってしまうだろう。

 だけど、俺達のダンジョン経営の邪魔をするならその対価を払ってもらわねばなるまい。


 朝食が終わったところで、倉庫からワインのボトルを1本持ち出して、ホブゴブリンのお婆さんのところに向かった。

 中央通路の東側の大きな部屋にいることは、仮想スクリーンで確認しているし、とっくに朝食を終えているんだろう。他のゴブリン達はいないようだ。


 管理室のいつもの魔方陣を起動してお婆さん達のところに向かう。

 転移場所として、いつも空けているようだから、俺が出現しても、特に慌てた様子もなく、編み物をしている。


「おや、1人じゃったか?」

「ちょっと魔法について教えて貰おうとやってきました。これは、お礼ということで……」


 ワインのボトルを手渡すと、早速自分達のコップを取り出して注いでいる。半レイスのお婆さんも実体を作ったようだ。


「その辺の木箱を持ってここにおいでな。お前さんも1杯飲んでからでいいんじゃないかい」

「そうですね」


 確かに木箱がいくつも壁の端に置いてある。たぶんテーブルや椅子代わりなんだろうな。小さな木箱を1つ手に持ってお婆さん達の前にある大鍋の反対側に腰を下ろして、バッグからカップを取り出す。

 お婆さんが並々と注いでくれるから、ちょっと恐縮してしまうな。残ったらお婆さん達で楽しめるはずなんだが。


「それで、何を聞きたいんじゃ?」

「転移魔法です。転移の魔方陣は風魔法と土魔法で出来ているはずですよね。転移先は自分のかつて行ったことがある場所に限定されている。そして俺の使う転移魔法は精々身長ほどの円形の範囲に限定されますけど、本来の転移魔方陣は俺の身長の2倍ほどの範囲内にいる者をまとめて転移させることができます」

「クロード殿の知識の通りじゃ。それで?」

「転移先が土の中であっても、転移時に生じた空間が空いているから、そこで再び転移魔方陣を作って脱出できる。そう言うことから、転移の罠を作ることが出来ないということでよろしいですか?」


 俺が転移魔法を使って勇者を倒そうとしていることを知って、お婆さん達3人が顔を見合わせて薄笑いを浮かべている。

 美味そうにワインを飲むと、3人の顔が一斉に俺に向いた。


「その通りじゃ。かつて、その罠を使った者がいるが、直ぐに逃げられてしもうた。便利じゃが、あまり応用が利かぬのが転移魔法じゃな」

「転移魔方陣を転移間際に書き換えることも考えましたが、転移魔方陣の構成が明らかでない以上、書き換えると発動しない恐れも出てきます。そして転移先は必ず魔方陣が作られる。それにより転移したものがその場で短時間を過ごすことができますから、他の場所への転移も可能となるわけです」


 俺の言葉にお婆さん達が顔を見合わせながら頷いている。


「それも試した者がおる。魔方陣は作動しなかったようじゃ」

「もし、転移先にあらかじめ転移魔法を掛けておくことが出来たらどうなりますか? 転移魔法により飛ばされたものが降り立ったその時に、その中で術者が改めて転移魔法を作動させる前に転移魔法を作動させることは可能でしょうか?」


 俺の言葉を聞いて弾かれたように体を伸ばして俺に顔を向ける。そんなに驚くべき話じゃないと思うけどね。


「転移魔法の先に転移魔法を仕掛けるのじゃな? ……通常であれば出来ぬと言わねばならんが、このダンジョンであれば可能じゃろう。じゃが、それには転移の石を使うことになるぞ。ダンジョン内の階層移動に使う仕掛けを使うことで叶うはずじゃ」

「死ぬまで転移を繰り返すことになるじゃろうな。ダンジョン攻略にどれだけ食料や水を持ち込むか分からんが、たまに状態を見られる場所でなければなるまい」


 となると、無限に繰り返される転移の場所を封鎖しておく必要が出て来るのか……。場合によっては土砂で封鎖しても良さそうだ。


「使い方はダンジョンの土砂を搬出する方法で良い。それを互いに仕掛けることで、その魔方陣に足を踏み入れた途端転移魔法が無限に繰り返されるぞ。解除はどちらかの転移魔方陣を構成する石を動かすことで良いはずじゃ」


 少なくとも1年間は作動させておくか。食料を持参できたとしても、果たしてそれを食べる時間があるのかな?

 一端転移魔方陣に足を踏み入れて魔方陣が作動を始めたら中から出られないから、転移魔方陣を作る4つの石を破壊できるとは思えないしね。


「上手く行くかはやって見んと分からんのう。じゃが、やる価値はありそうじゃな」

「念の為に、もう1つ別の仕掛けも考えておきますけど、お婆さん達に判断してもらいありがたいことです」

「な~に、こっちこそ、おもしろい仕掛けを見られるというものじゃ。上手く作動したら、勇者の最後は我等が看取ってやるぞい」


 笑みを浮かべて残ったワインを飲んでいる。もう1本持ってきた方がよかったかな?

次は、ちゃんと用意しておこう。


「嬢ちゃん達の罠もあるし、クロード殿の罠も微妙な時間を見守る必要がありそうじゃ。ワシ等3人は、ギリギリまでここに残っておるよ。入り口は土砂でスケルトンに埋めさせることで万が一の時間は稼げるはずじゃ」

「よろしくお願いします。他のダンジョンの仇を俺達で討ちたいですからね」

「ここが最後のダンジョンじゃろう? 向こうも小さなダンジョンだと侮ってくれると良いのじゃがな」


 確かに後が無い。もし俺達が失敗したなら、勇者はどこに向かうんだろうな。


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