表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/48

3-01 村のギルド


 俺達のダンジョンに入って最初の部屋で、盗賊達が酒盛りを始めたようだ。盛大に焚き火をしてるんだけど、入り口から30m進んだところから、少し東に入った部屋だからねぇ。外からは見えないだろうな。


「私達のダンジョンにずっといるの?」

「明後日に村へ伝えに行くよ。直ぐに行くと俺達が怪しまれそうだ」


 クリスが心配そうな表情を俺に向けてくる。

 こればっかりは、どうしようもないな。向こうは20人を越えているし、こっちは俺とミーナさんだけだ。10倍を相手にするなんて無茶も良いところだからね。


「奥に向かった盗賊が引き返してきたにゃ」

「スライムを見付けたんだろうな。戦ってないから無駄な争いを避けたのかもしれない。とりあえず、ダンジョンの拡張は続けられるし、ゴブリンの連中の狩りも今まで通りに行えるから長居しなければ影響はないと思うんだけどね」


 数人の盗賊が通路に焚き火を作り始めた。

 あれならダンジョンの外側まで見えてしまうと思っていたら、今度は入り口を布で目隠しをしている。

 案外用心深い連中だ。だから今まで生き残れたのかもしれないな。


 翌日は、数人が東に向かって進んでいる。

 ダンジョンの入り口近くで3人が見張りに立ち、残りの連中はダンジョン内の部屋で雑魚寝をしている。

 たまに驚いたように動き回るのは、ヨロイネズミにでも齧られたんだろうか?


 その夜。

 夕食を頂き、いつものようにソファーでお茶を飲んでいても、やはり盗賊達が気になってしまう。平面図で彼らの動きを監視しているのだが、今夜も見張りを置いて酒を飲んでいる。

 昼間、近場で狩りをしてきたのだろう。もう1枚の仮想スクリーンには、何かを焼く姿が映っている。


「罠に鹿が掛かっていたにゃ。明日にでも出掛けるにゃ?」

「追撃者もいないようだし、教えた方が良いだろうな」

「私も行きたいな?」

「クリスはキューブから離れられるのか?」

「遠くでなければ……」


 キューブでクリスの移動範囲を確認すると、ギリギリで西の村が外れている。

 それを知ったクリスが残念そうに俯いているから、ミーナさんが慰めているんだけど、お菓子では機嫌が直らないみたいだ。

 少し、考えないといけないな。

 俺達は自由に移動してるけど、一番小さなクリスがダンジョンから遠くに行けないのはかわいそうだ。


「婆さん達のところで昔話をしてもらえば良いにゃ。きっといろんな話をしてくれるにゃ」

「ほんと?」

「ほんとにゃ。ホブゴブリンの婆さん達は物知りにゃ!」

「なら、ワインを1本持って行くといいよ。俺達も直ぐに帰るから」


 少し笑顔に戻って頷いてくれた。

 ミーナさんに感謝だ。だけど、魔族の昔話と言うのも少し興味があるな。


 翌日。クリスはミーナさんから貰ったワインをバッグに入れて、魔方陣でホブゴブリンのお婆さんのところに向かった。

 食事前に、ミーナさんがお婆さんのところに行って、訳を話してきたらしい。

 向こうも、ゴブリンの若者達を送り出せば暇らしいから、丁度良い気晴らしが出来ると喜んでいたそうだ。


「今度は俺達だけど、本当にバングルだけで村に行けるんだよね?」

「ちゃんと行けるし、帰って来れると言ってたにゃ。それじゃあ、出発にゃ!」


 ミーナさんがバングルを操作すると、俺達の周りに魔方陣が描かれ、回りながら光を放ち始めた。

 光が一段と強くなり、突然途絶える。……俺達の立ち位置から、下の方に村が見える。

 ちゃんと来れたみたいだ。

 直ぐにミーナさんが歩き始めたから、俺も急いで後を追った。


 門番が俺達を見て軽く手を上げてくれる。

 だいぶ顔が売れたみたいだ。あまり親しくするのも問題だけどね。

 いつもなら、俺達も片手を上げて挨拶するだけなんだが、俺は2人の老人の前に立ち止まった。


「何じゃ? なにかあったのかい」

「東の森で大勢の男達が東に向かって移動してたんです。あれはどう見ても猟師じゃありません。それで、どうしたら良いかと?」

「何じゃと! そりゃあ盗賊共じゃ。そ、そ、そうじゃ。ギルドに知らせるのが一番じゃな。ワシ等も、仲間を集めんといかん。良く知らせてくれたぞ。ギルドに直ぐに向かうんじゃ」


 俺達が村に入ると、老人の1人が慌てて通りを走っていく。あんまり急ぐと転ぶんじゃないかと心配になるような走りだ。

 さて……、確か雑貨屋の真向かいがギルドだったはずだ。

 怪しまれないように、少し速足で通りを急ぐ。


 ギルドは丸太作りの大きなログハウスだ。

 昔利用していたギルドは石造りだったけど、ここは辺境だからなぁ。これでも立派ということになるんだろう。

 2段の階段を上ってギルドの扉を開く。

 入り口の左手にカウンター、教室ほどの広間には大きな暖炉とテーブルセットが3つあった。

 配置といい、カウンターのお姉さんといい、全く持って標準的な構成だ。だけど、お姉さんは美人の範ちゅうに入るかな?

 ミーナさんに比べれば見劣りしてしまうけど、ケット・シーは妖精族らしいから、美人の一族なんだろう。


「あら、町から来た冒険者かな?」

「いえ、俺達は猟師なんですけど、森で会った一団の話をしたら、門番の爺さんがギルドに行って詳しく話せと……」


 愛想よく俺達にたずねてきたカウンターのお姉さんに答えると、お姉さんの顔が強張り、奥のテーブルにいた冒険者の1人が立ち上がってこちらに歩いてくる。

 よく手入れされた革鎧に長剣姿が似合っているな。身長は俺より少し高い感じだが、20代後半という感じだ。


「盗賊を見たということだな?」

「少なくとも猟師仲間ではありません。数は20人以上、後ろを気にしながら東に向かっていました」

「リーデ、間違いなさそうだ。マスターに連絡して、討伐隊に知らせるべきだろう」

「直ぐに!」

「少し話を聞かせてくれないか? 俺は、グルネイ。レントスというパーティを組んでいる」


 ここは、向こうに合わせるべきだろうな。

 ミーナさんにに顔を向けて小さく頷くと、頷き返してくれた。俺に任せるということに違いない。


「村に獲物を下ろして、食料を買えばそれで終わりですから、構いませんよ」

「そうか。こっちだ」


 俺に笑みを浮かべたところをみると、ギルド筆頭ということなんだろうか? それなら少なくとも黒の中位であるはずだ。冒険者レベル10以上30以下というかなり幅のあるクラスなんだが、L15程度じゃないかな? 俺の冒険者時代のレベルより少し上だと評価しておく。


 奥のテーブルに座っていたのは男女4人だ。ギルドのテーブルの椅子は5脚だから、テーブルから若い男が席を立って隣から2つ椅子を移動してくれた。


「猟師なら、俺達とはあまり顔を合わせることは無いだろうが? どう見ても漁師とは思えない。元は冒険者だな?」

「黒の13まで行きましたが、ダンジョンでミノタウロスに会いまして……。2人失いました。それで……」

「すまん。やはりそういうことだったか。となれば、当然奴らの正体に気が付いてるな?」

「間違いなく盗賊でしょう。先導を2つ、後方警戒を1つ放つような猟師はいませんからね。東のダンジョンを知ってますか?」


 テーブルの5人が一斉に頷いた。


「一昨日、奴らはそこにいました。入り口に3人配置しています」


 冒険者達が顔を見合わせている。

 場所は分かっても、あのダンジョンに籠られたら、少しぐらい人数を増やしても無駄だと分かったに違いない。


「動いていないということか?」

「昨日の朝までは動いていません。その後は、村への知らせを優先しましたので不明です」


 小さく頷いているのは、俺の話を自分なりに解釈出来たということだな。

 

「本来なら、奴らのアジトに案内が必要なんだが……」

「グルネイ! お前は場所を知っとるんだな?」

「一応、分かります。彼の説明で盗賊達が見張りを置いているのも分かりましたから、見張りに気付かれずに近づくことは可能です」


 後ろからの野太い声に振り返ると、がっしりした中年の男がカウンターの向こうに立っていた。

 グルネイさんが丁寧に応えているところをみると、彼がギルドマスターに違いない。


「なら、簡単だ。盗賊団の居場所を教えたものには銀貨5枚。これにはその場所までの案内が含まれている。猟師であれば、獣を追って仲間達との山を広範囲に移動するなら、討伐隊の案内は無理だろうな。報奨金を両者で分けて、グルネイが案内すれば良いだろう」


 報奨金があったんだ! 半分でも俺達にとってはありがたい。

 グルネイさんと顔を見合わせて互いに頷くと、次には互いの腕を握り合う。交渉成立ってことだ。


 カウンターのお姉さんから250バイトを受け取り、次は肉屋に向かう。

 最後に雑貨屋で野ウサギの毛皮を下ろして、雑穀の袋を2つにビスケットとワインを2本買うことにした。

 

「収入が440バイトで出費が224バイトにゃ」

「報奨金があるからね。盗賊様様だ」


 急いで村から離れるとダンジョンの管理室に戻る。

 戻ってはみたものの、クリスがいないんだよな。バングルを使って仮想スクリーンを展開すると、ホブゴブリンのお婆さんのところにゴブリン達も集まっている。その中にクリスの輝点もあったから、お婆さんの昔話を皆で聞いているに違いない。


「クリスを迎えに行ってくるにゃ」

「なら、ビスケットを半分持って行ってくれないか? ゴブリン達だってたまには変わった物が食べたいだろうからね」


 買い込んできた品物からビスケットに包を1つ取り出してミーナさんに手渡すと、ミーナさんは直ぐに魔方陣で移動していった。

 2人が戻る前に、買い込んできた品物を倉庫にしまっておこう。


 ソファーに座って盗賊達の様子を眺めてみると、朝とほとんど変わりがない。

 逃避行が続いて疲れてるのかもしれないな。なら、討伐隊が来るまでは動かないに違いない。


 ダンジョンの穴掘りも順調に進んでいるようだ。大広間はかなり大きな空間になるので、工事の進捗がよく分からないな。

 ここはスケルトン達も剣や盾を使って土砂を崩している場所だ。冬になればゴブリン達も投入できるんじゃないかな?

 長期契約が可能かどうか、もう一度調べる必要もありそうだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ