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『 こ い ぶ み 』

 すべて終わった。

 わたしがやるべき抵抗は、全て。

 わたしはそっと、空っぽになってしまった自分のおなかを撫でさする。

 ほんの数刻前まで、確かに自分に宿っていた命。

 触れ合うことも、小さいその手を握ることもできない。

 産みの痛みを、知ることさえ……もう。

 でも、それでいいのよ。

 生きてくれれば、それだけでいいのよ。

 お父様はわたしを殺すでしょう。幽閉なんて真っ赤な嘘。だからあの子も殺される。みんなみんなだまされている。だからわたしは、あの子だけでも生かすことに決めたの。

 あぁ、愛しい息子。名前は、もう決めてあるの。

 彼と交わした最初で最後の逢瀬、その時の睦言で決めているのよ。

 彼女に託したの。あなたという命と、あなたの名前。

 そう、だからきっと彼は気づいてくれる。あの子に気づくわ。わたしの子だと、そして自分の子であることに。ねぇ、あなたが巡り合ったあの子は、立派な姿に成長できているかしら。

 いえ、わたしとあなたの息子ですもの。心配なんていらないわね。

 本当は、この腕でしっかり抱きしめて育てたい、愛したい。

 ごめんなさい。こんなことしかできない母親で……。

 どうか幸せになってください。

 そしてわたしは――最後の詩片を心に記す。

 ほんの少し、もっと早くお返事を書けばよかったなんて、後悔して。







   たとえわたしの詩が、世界を呪う日がこようとも。

   わたしは、あなただけを愛しています。

   わたしはあなただけの歌姫。

   あなただけの花嫁。

   死しても、わたしはあなたのために。


     『無題』

      ――アリエッタ・ライム・エル・ジェストフェリ

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