痩せる薬(1)
世の中には、痩せると言われる食材やサプリがたくさんある。
ここは、様々な体型になることができる薬の専門店。
店内の棚には、所狭しと漢方の入った瓶が並べられている。息を吸うと、うっすら漢方の匂いが鼻腔を刺激する。
不意に、ガラリと店の引き戸が開いた。
「いらっしゃいませ」
華乃は、気怠げに引き戸の方を見る。
「あの……。ここで痩せる薬を売っていると聞いたんですけど」
今日もやってくるのは、痩せる薬を探す女性。
「あぁ、売ってるよ」
華乃の言葉に、女性の顔がぱぁぁっと明るくなった。
「ただ、あんた。別に太ってはいない体型じゃないかい? あんたが飲むのかい?」
華乃は、訝しげに店に入ってきた彼女を見る。その目はまるで、飼い猫がめんどくさそうに飼い主を見る目に似ている。
彼女は、少し怯えたように言葉を返した。
「違うんです。私じゃなくて、彼氏に飲ませてあげたいんです。彼、転職してから、十キロも太ってしまって。本人も健康診断の結果に落ち込んでいて。仕事も忙しくてなかなか運動もできないので、薬でもあればと思い探していたら、ここの口コミを見つけたんです」
「ほう。あんたじゃないならいい。最近、痩せているのに、薬を欲しがる命知らずが多いからねぇ……」
華乃は、はぁぁとため息をついた。
「そのあんたの彼氏は、身長何センチで、今何キロの体重で、何キロになりたいんだい?」
華乃は、ジロリと彼女を見る。彼女は、オドオドしながら答えた。
「彼氏は、今七十キロの体重で、身長は百六十五センチ。なりたい体重は、六十キロです」
華乃は、ふむ、と右手を顎に添えて考え込む仕草をする。
そして、カウンターの裏に入ると、一つの瓶を持ってきた。
「あんたの彼氏には、これがいいと思う。ただし、注意点がある。休日だけでも歩くなりなんなりした方がいい。そして。必ず体重が六十キロになったら、服用をやめること。飲みすぎると、やめた時にリバウンドをするからな。そして、あんたは絶対に飲まないこと。飲んだら、終わりだと思え」
「わかりました」
「会計は、一万円。それでも買うかい?」
彼女は、一瞬怯んだが、すぐに大きく頷いた。
「買います」
「まいどあり」
薬を買った彼女は、ぺこりと頭を下げて、店を後にした。
「やれやれ。皆体型維持だなんて大変だねぇ……」
そんなことをぼやいて、華乃は窓の外を見た。彼女が窓を見た瞬間、ぽつりぽつりと雨が降り始めた。
「雨か……。これは、幸先が良くないかもしれないねぇ……。それとも、恵みの雨か……。どちらに転ぶのやら」
そう言って、彼女は気怠げに頬杖をついて、窓を眺め続けた。
読んでいただき、ありがとうございます。
少し自身の健康が気になり始めたタイミングで思いつき、忘れないうちに文字にし始めることにしました。
まだまだ続きも何もかも不確定要素の多い作品ですが、ぼちぼち綴っていこうと思います。
更新は、気まぐれなので、ご容赦ください。
できれば、一区切りずつ書ければなとは、思っています。
ぜひ、続きもお楽しみ頂けますと幸いです。




