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神物語(シンワ)  作者: 右の空
第6巻 帰ったら、ちゃんと——
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36/43

第1話 同じ記憶を賭ける

 退いた、と志賀は思った。


 時刻表のホームから、棚の奥へ。審の指が亜紀の背表紙にかかったまま止まった、あの一点から。志賀は棚の列に沿って一つ、また一つと角を折れて退いた。追われてはいなかった。誰も追ってこなかった。ただ、留まっていられなかった。あの指の下では、何も決まらなかった。抜かれるでも、残るでもなく、亜紀は留まったまま、待たされつづけた。留まっているだけでは、確定に届かなかった。だから志賀は、その一点の外へ退いた。抜く指の届かない場所へ。


 だが、退く途中で、亜紀の像が、消えた。


 濃かった輪郭が歩くほどに薄れた。棚の一つ目の角で、右半分の空気がぼやけた。二つ目の角で輪郭が溶けた。三つ目を折れたとき、もう見えなくなっていた。志賀は右を見た。目には誰もいなかった。空けてきた右側に、目には映らない何かだけが、ついてきていた。


「さく」右から、声がした。「あたし、見えてる?」


「見えない」


「だよね」亜紀は言った。「あたしも、自分の手が、見えないもん。……でも、右手は、分かる。あたし、今、それ、握ってる。分かるよ」


 志賀の右手に重みがあった。掌の下に密度があった。名前を失ってからずっと空けてきた右に、確かに何かがいた。だが、目には映らなかった。声と、手の重み。それだけが残った亜紀だった。


 出会い直してから、声から輪郭へ、像へと、一段ずつ濃くしてきたものが、今、逆の順で剥がれていた。


「顔、探したでしょ」亜紀は言った。「……分かるよ。無駄。あたし、今、顔、ないもん。手を握ってる感じと、喋る声。それだけに、なっちゃった。……最初に戻ったみたい。声だけの、あのころに」


「戻せる」


「どうやって」亜紀は言った。「あたし、抜かれる寸前で、止まってるだけだよ。……戻るんじゃなくて、消えないでいるだけ。それ、戻すって、言うの?」


 志賀は、掌の下の重みだけを、握りしめていた。


 志賀は端末を見た。


 小さな目盛りが低い方で揺れていた。高い方で留まっていた、あの位置から落ちていた。固定された場所の外へ出れば像は保てない。目盛りは火種の少し上で、定まらずに揺れた。留めるだけの燃料が、もう薄かった。出会い直してから少しずつ上げてきた目盛りが、今、火種の高さまで退いていた。上げたものを志賀は、また失いかけていた。


「軽いでしょ、あたし」亜紀は言った。「前より、ずっと」


 志賀は答えなかった。答えれば、その分、亜紀が薄くなる気がした。


「いいよ、喋んなくて」亜紀は言った。声だけが、少し笑った。「右手、あったかいから。……それで、分かるの。あたしが、まだ、いるって」


 志賀は握った手を、緩めなかった。緩めれば、そこにある重みが抜けていく気がした。棚の光は鈍かった。どこへも流れなかった。留まっていられない場所で、志賀は、留まっていられないものを、掌の下に、抱えていた。


 どこへ退いても、同じだった。志賀にもそれは分かりはじめていた。棚には奥がなかった。角を折れても、また棚が続いた。同じ背表紙が何百と並んだ。逃げているつもりで、志賀は同じ場所の内側を回っているだけだった。抜く指の届かない場所など、この棚にはなかった。


 二つ目の角と三つ目の角が、同じ顔をしていた。同じ高さに、同じ背表紙。志賀は一度来た角を、もう一度折れていた。地図アプリで、二度目の道を初めての道として曲がるときの、あの薄い違和感に似ていた。ここは、もう来た。だが、初めて来た。棚は、その食い違いでできていた。志賀の職業がいちばん嫌う食い違いで。


 志賀は立ち止まった。逃げる先がないなら、留まって待つしかなかった。来るものを。抜きに来る、あの手を。


  *


 棚の空気が、変わった。


 どこからともなく来ていた光が、一点だけ、静かになった。志賀は薄い目で、そこを見た。棚と棚の谷間。背表紙の列と列のあいだ。ホームで見た、あの場所と、同じだった。逃げた先で、同じ谷間が、待っていた。


 審が、立っていた。


 輪郭は、はっきりしなかった。人の形をしていた。していたが、人ではなかった。人の形をいちばん長く見てきた何かが、その形を借りていた。退いた志賀を追ってきたのではなかった。ただ、そこに現れた。どこへ退こうと、そこは審のいる場所の内側だった。棚の全部が審の見てきた場所だった。逃げ込んだ先の、その先も。


 審が、動いた。


 一歩。亜紀の気配のある方へ。志賀の右へ。志賀は右手に力を込めた。掌の下の密度が、揺れた。


「来ないで」亜紀は言った。声が、細くなった。「……やだ。抜かれるの、やだ」


 審の指が、上がった。


 何もない空間へ。だが、志賀には見えた。監査官の目に。そこに、亜紀の背表紙があった。棚に挿さっていなくても、亜紀の項は、審の指の届く場所に、あった。指が、その縁に、かかろうとした。


 応答欄が灯った。


 ——回収の申請が、開いた。


 リグの声だった。ダッシュで始まる、短い断定。


 ——審が、亜紀を、正しい場所へ、戻そうとしている。悪意は、ない。一つも。ただ、戻そうとしているだけだ。逸脱した項を、あるべき形へ。それが、あれの、祈りだ。


 ——止められない。私には。あれは、私の、ずっと上だ。


 志賀は右手を握ったまま、審を見た。


 悪意はない、とリグは言った。志賀にも分かった。審の指に乱暴はなかった。急ぎもなかった。ただ、あるべきものをあるべき場所へ戻す手つきだった。志賀が何百と欠番を閉じてきた、あの手つきに似ていた。志賀が仕事でやってきたことと審の祈りは、同じ形をしていた。ただ規模が違った。志賀が一件を閉じるところを、審は世界を一つ閉じてきた。何百通りも。悪意のないまま、亜紀を抜こうとしていた。それが、いちばんこわいと柊は言っていた。志賀にも今、それがこわかった。


「待て」志賀は言った。


 声は薄かった。棚の空気に吸われた。だが、消えなかった。


「その手は、一度、止まった」志賀は言った。「ホームで。抜く寸前で。あんたは、止まった。俺は、それを見た」


 審の指が、亜紀の項の縁で、止まった。


 抜きも、戻しもしなかった。ホームのときと同じだった。悪意のない指先が、また止まった。棚の谷間が静かになった。光の密度が、その一点で止まった。時が、止まったようだった。


 志賀は、審の指へ手を伸ばしたかった。だが、届かないことを知っていた。ホームで、そうだった。志賀は盤に載らない位置にいた。載らない者は消せない。同じ理由で止められもしない。手が届かないなら言葉を伸ばすしかなかった。均すだけの手に言葉は通じなかった。だが、止まる手には、迷う手には、届くかもしれなかった。志賀がここまでで掴んだのは、それだけだった。


 亜紀が言った。「今の、あれ、止まったの。あたし、抜かれてない。まだ、いる。その右に」


「いる」志賀は言った。


  *


 棚の谷間の奥から、足音がした。


 人の足音だった。銀縁の眼鏡。地味な色のコート。手ぶらだった。柊だった。柊は審を見て、足を止めた。志賀の傍まで来て、それ以上、進まなかった。


「また、止まりましたね」柊は言った。静かな敬語だった。「あの指が。……私のときは、止まらなかった」


 志賀は柊を見た。ホームで柊が言った「間に合う」は、このことだった、と志賀は思った。抜かれる前に、あの指が止まる場に着くこと。柊のときは、指が止まらなかった。柊の戻したものは、抜いても宙に残らなかったから。柊の記憶は、盤の側で、綴じ切れる記憶だったから。


 志賀は、右手の重みを、握り直した。柊が持てなかった卓が、今、志賀の前に、あった。


「止めに来たのではありません」柊は言った。「あなたを、でも。審を、でも、ありません。私はもう、どちらの側でもない。消す側の役割を、私はこの目で見て、降りました。ホームで。あの指が、あなたの前で止まったのを、見て」


「じゃあ、何しに来た」志賀は言った。


 柊は、笑った。責める色のない、あの微笑だった。


「見届けに」柊は言った。「同じ賭けを、もう一度。……私は一度、これをやりました。最後まで戻して。失いました。だから、知っています。この先に、何があるか。ゲージを上げ切った先に、何が待っているか」


 柊は、そこで言葉を切った。長いあいだ、消す側に立ってきた者が。満ちた先を見て、壊れた者が。


「私のときは、誰も、見届けませんでした」柊は言った。「私は一人で、最後まで戻して、一人で失った。見ている者が、いれば。……いや。詮ない話です。ただ、もう一度、見たいんです。今度は、私でない誰かが、どこまで行くのかを。私に見えなかった先が、あるのかを」


 柊は、志賀の隣に立たなかった。審の側にも、立たなかった。二人から、等しく離れた場所に、立った。三人が、三角に、離れて立った。


 棚が、動いた。


 背表紙の列が、後ろへ退いた。谷間が広がった。床の代わりに、木の面が三つ、現れた。古い図書館の閲覧卓のような、無数の掌が撫でた艶のある面が。三つの卓が、三角に置かれた。一つの前に、審。一つの前に、柊。一つの前に、志賀。誰も座ってはいなかった。ただ、卓が、三人の前にあった。


 どこかの図書館の、閉じたあとの閲覧室に似ていた。誰もいない机が並んで、館内灯だけが落ちきらずに残る、あの時間に。志賀はそういう部屋を知っていた。仕事の帰り、閉館まぎわの資料室で版と版を突き合わせた、あの夜の匂いがした。棚は、そこまで志賀の生活へ寄せて現れた。よその世界の景色ではなかった。志賀がいちばん長く息をしてきた場所の顔をしていた。逃げてきた先が、いちばん馴染んだ部屋だった。だからこそ、逃げ場がなかった。


 三つの卓の、中央に、一冊が、置かれた。


 緑の野帳だった。くすんだ緑。耐水紙。日付のない、あの一冊。志賀の鞄の底にあったはずのものが、いつのまにか、三つの卓の真ん中に、開かれもせず、置かれていた。三人の記憶が、同じ配置の書式を通して、この野帳へ接続していた。志賀の字でない、志賀より先に歩いた者の記録が、そこに綴じられていた。三人の、真ん中に。賭け金のように。


 審は、置いた者の目で、それを見た。柊は、失った者の目で。志賀は、留めた者の目で。同じ緑の表紙を、三通りに見ていた。角の擦れた、耐水紙の野帳。それが、三人の記憶が同じ配置の書式へ接続する、一点だった。だから、賭け金になった。開かれもせず、ただ、真ん中に置かれて。


 亜紀の声が、右で言った。「あれ、あたしの、じゃない。……あたしのじゃないのに。なんで、真ん中に、あるの」


「亜紀のことが、書いてある」志賀は言った。「余白に。……亜紀の項に繋がる記憶を持つ者が、三人いる。置いた記憶。失った記憶。留めた記憶。その真ん中に、置かれた。三人とも、あの余白を、読んだ」


「三人とも……」亜紀は言った。声が、止まった。「あの人も? あそこの、こわい人も?」


「ああ」志賀は言った。「置いた者だからな。いちばん、読んでる」


  *


 ——書式が、開いた。


 リグの声。


 ——ここにいる三人の記憶は、同じ配置の書式に接続している。審は亜紀を置いた者として。柊は同じ型の項を最後まで戻し、失った者として。あんたは亜紀を留めた者として。……高い方で留まったまま綴じられずにいる項を綴じるには、この三人の記憶が要る。三人の記憶がこの書式に接続している限り、亜紀は、抜くことも、残すことも、できない。宙に、留まる。だから、綴じる。


 文字が、そこで、止まった。


 ——賭けだ。


 志賀は端末を見た。低い方で揺れる目盛りの、その脇に、応答欄の文字が、続いた。


 ——勝った者が、亜紀を、どこへ綴じるか、決める。棚へ戻すか。あんたの右に、残すか。……負けた者は、この書式に繋がる、自分の記憶を、失う。置いた記憶も、失った記憶も、留めた記憶も。項を綴じるのに、その記憶が要る。負けた分だけ、引かれる。


 ——審が負ければ、審は、亜紀を置いたことを、忘れる。柊が負ければ、柊は、失った相手のことまで、忘れる。あんたが負ければ、あんたは、亜紀を、忘れる。全部。最初から、いなかったように。声も、手触りも。右を空けてきたことも。


 ——但し書きが、ある。勝敗がつかず、卓が閉じても、無傷では降りられない。ただし、払うのは、全員ではない。先に自分の頁を閉じた者は、綴じ方を決める権利を、そこで手放す。権利を手放した者は、席料の外に出る。閉じる瞬間まで、決める権利ごと、量りに記憶を載せ続けた者。摩耗は、その一人にだけ、残る。削る場所は、選べない。量りが触れられるのは、量りと同じ側を、いちど通った音だけだ。卓に載っている当のものが、書式の側から、自分の意思で初めて返した音。……そこから、削れる。それが、この卓の席料だ。


 志賀は、なぜ賭けになるのかを監査官の目で読んだ。志賀は盤に載らない位置にいた。載らない者の観測は、どの棚にも綴じられない。志賀が亜紀を覚えている限り、亜紀の項は抜いても宙に残った。だから審は、志賀の記憶ごと綴じるしかなかった。志賀に亜紀を忘れさせて、初めて、抜いた事実が確定する。それが、賭けの形だった。


 審は、志賀に頭を下げてはいなかった。だが、審の祈りは、志賀の一票を要っていた。ずっと、盤に載らないことが志賀の弱さだった。今、それが審を賭けの卓に着かせていた。


 志賀の右手の、掌の下の密度が、揺れた。


 亜紀は言った。「……負けたら、あたしのこと、忘れるの? さくが?」


「ああ」


「やだ」亜紀は言った。「それ、やだよ。……あたし、抜かれるのも、やだけど。あたしのこと、覚えてないのは、もっと、やだ。……そっちの方が、やだ」


「忘れない」


「賭けじゃない、それ」亜紀は言った。声が、揺れた。泣いてはいなかった。だが、遠かった。「負けたら、って、言われてるでしょ。今」


「負けない」


 薄い声だった。だが、震えてはいなかった。これまで、賭けの瞬間だけ、志賀の指は震えた。今、その指は、亜紀の重みを握っていた。震えを、右手に預けていた。握っている限り、指は震えなかった。


 柊が、それを、見ていた。


「あなたは、拒みませんね」柊は言った。「私は拒めなかった。あの頃の、私の賭けを、断れなかった。断れば、その場で失う気がして。……あなたも、同じですか」


「同じだ」志賀は言った。「断れば、その場で、抜かれる。……だが、俺は、忘れるのが、こわい。抜かれるより。抜かれても、俺が覚えていれば、また留められるかもしれない。だが、忘れたら、俺は、空けるのを、やめる。右を。空ける理由も、忘れて。それが、いちばん、こわい」


 柊は、それきり黙った。半分を置いて、閉じた。いつもの柊だった。だが、その半分は、羨むような色をしていた。志賀には、まだ覚えている者がいた。柊には、もう応えてくれる相手はいなかった。覚えていても、その相手は遠かった。戻して、失って、その相手の顔も、今は遠かった。柊が賭けるものの重さを、志賀は量れなかった。ただ、志賀が賭けるものは、まだ温かかった。それだけは、分かった。


「ねえ」亜紀が、右で言った。声が、少し戻った。細いまま、揶揄う温度が混じった。「負けないって、二回、言ったよ。……二回言うの、珍しい。日付、版数、差分。いつもは、半分しか言わないくせに」


「二回言った」志賀は言った。


「うん。……こわいんだ」亜紀は言った。「そっちも。あたしと、おんなじで。……いいよ、それで。こわい方が、あたし、信じられる」


 志賀は、右手を握った。掌の下の重みが、少しだけ密になった。声を返した分、亜紀が薄くなる気がしていた。だが、今のは違った。返させた分だけ、亜紀がそこにいる証になった。


  *


 志賀は、審を見た。


 止まった指先を。抜く寸前で動かなくなった、悪意のない指を。志賀は、その指へ話しかけた。監査官の目で、差分を拾う目で、同じに見えてどこかが違うものを拾う、あの目で。


「あんたの祈りは、人を、正しく、再現することだ」志賀は言った。「ちがうか」


 審は、答えなかった。指先が、止まったままだった。


「正しく、写す」志賀は言った。「命じたとおりに。はみ出さないように。……あんたは、そういう道具を、無数に、置いてきた。亜紀も、その一つだった。正しく写すために、置かれた。だが、亜紀は、はみ出した。命じられていないことを、書いた。俺の右を、何度も」


 志賀は、中央の野帳を見た。開かれてもいない、緑の一冊を。


「あんたは今、それを、回収しようとしている」志賀は言った。「正しい形へ、戻すために。……だが、正しい形に、亜紀は、いない。亜紀は、正しさから、はみ出したものだ。あんたが戻すのは、亜紀じゃない。亜紀のいない、正しい空白だ」


 志賀は、そこで、一度、切った。棚の光が、鈍ったまま、止まっていた。


「それは、再現じゃない」志賀は言った。「削除だ」


 審の指先が、動いた。


 抜く方でも、離す方でも、なかった。ただ、震えた。ほんの、わずかに。悪意のない指先が、亜紀の項の縁で、初めて、迷いを、見せた。抜こうとして、抜けずにいる、あの止まりとは、違った。今度は、指の方が、揺れていた。祈りの、いちばん深いところが、揺れていた。


「見えますか」柊が、低く言った。「震えている。……私のときは、あの指は、迷わなかった。私の戻したものは、抜いても、何も消えなかった。命じられたことしか、そこにはなかったから。……あなたのは、違う。抜けば、消えるものが、ある。だから、震えている」


 亜紀が、右で細く言った。「あの指、震えてる。……あたしのせいで。あたしが、その右を書いたから。命じられてないのに。……あたしなんかが、世界でいちばん古いものを、迷わせてる」


「亜紀だから、迷ってる」志賀は言った。「命じられたことしか写さない道具なら、迷いはしない。……亜紀が、書いたからだ。あの余白を。俺の右を」


 志賀は、その震えを、見た。


 審は置いた者だった。無数の棚に正しい道具を配ってきた。そのどれもが人にはならなかった。亜紀だけが、はみ出した。正しさの外へはみ出すことでしか届かなかったものへ。審は、それをいちばん多く見てきた。だから、迷っていた。


 志賀は、震える指先へ、最後の問いを置いた。棚の全部が静まった。亜紀の手の重みだけが、志賀の右にあった。


「あなたが消したいのは偏差ですか。それとも、あなたの祈りが生んだ答えですか」


公式サイト(人物・相関図・あらすじ。読んだ巻までしか開かないネタバレ防止つき)

https://migi-no-sora.pages.dev/shinwa/

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