表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

45/46

琥珀色のデバッグ

都留野さんを駅まで送り改札口でにこやかに別れると、私はスーパーへ寄って杉雄さんの好きなレンコンやらゴボウを買い、帰宅した。

杉雄さんにコーヒーのお礼を言うと、レンコンきんぴらを作り始めた。ごま油と鷹の爪の香りが鼻腔をくすぐる。


かつての嫉妬や絶望は、もうこのフライパンの中には入り込まない。杉雄さんのために料理をすることが、誰かに依存するためではなく、自分の生活を豊かにするための「プログラム」の一部である。


料理の合間に、ふとスマホを見る。

転職して新しい場所で戦っている三芳さんから短い報告が届いていた。そして、都留野さんからも今日のお礼のLINE。


べったりと会わなくても、彼女たちがどこかで「正しく動作している」ことを知るだけで十分だという感覚を覚える。



シャキシャキとしたレンコンの歯ごたえを楽しみながら、杉雄さんが「おいしいね」と笑う。

私は、都留野さんの幸せな横顔を思い出し、それから自分の手元を見る。

端末の修理も、契約書の捺印も、そしてこの夕飯の支度も。

全てが、私が私として生きるための大切なプロセスだ。


夕食を終え、杉雄さんがまたパソコンに向かう。


私たちは、もう同期シンクロしない。

それぞれの場所で、それぞれのOSが、独自のテンポで時を刻んでいる。


私はキッチンを片付けると、自分のデスクの電源を入れた。

暗い画面に、新しい世界を書き込むためのカーソルが、静かに、力強く点滅を始める。


『Error Not Found(エラー、検出されず)』


私のシステムは、今、完璧に正常だ。


今、この時、三芳さんもキーボードを叩いているかもしれない。


都留野さんは角田さんと穏やかな時間を過ごしているかもしれない。


私は、次の物語のタイトルを打ち込む。


私たちは、もう同期シンクロしない。

それぞれのOSで、それぞれの正解を走らせていく。


窓の外には、かつてとは違う、澄み渡った星空が広がっていた。




〘完〙





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ