家事の仕様書(フォーマット)
土曜日の午前中、高砂のマンションのリビングには、ノートPCと1枚のホワイトボードが置かれていた。
「……ということで、現状のタスクを洗い出してみたわ」
佳子がマーカーで書き出したのは、細かな家事のリストだ。
二人が合意したのは、お互いの特性を活かした合理的な分担だった。
* 杉雄(SE担当):ロジスティクスとインフラ維持
* ゴミ出し・風呂掃除: 「物理的な重労働と、ルーチンワークの自動化(洗剤の補充など)は僕がやるよ」と杉雄。
* 家電のメンテナンス: フィルター掃除や、スマート家電の設定。
* 佳子(事務・管理担当):オペレーションと品質管理
* 料理・食材管理: 「システム的な献立作り」が得意な佳子。冷蔵庫の在庫を把握し、伝統的な和食ベースの副菜を並べる。
* 洗濯・アイロン: 「仕上がりの美しさ」にこだわる事務職の几帳面さが発揮される。
しかし、運用が始まると小さなエラーが多発する。
「杉雄さん、タオルの畳み方が仕様書(これまでの私のやり方)と違うんだけど……」
佳子が苦笑いしながら、少し歪んだタオルを指さす。
「あ、ごめん。最短ルートで畳もうとしたら、形が崩れたみたいだ」
杉雄は頭をかきながら、ノートPCに向かう時のような真剣な表情で畳み直そうとする。
「いいのよ、そんなに完璧じゃなくても。でも、角は合わせてほしいな」
佳子はそう言って、杉雄の手元を優しく修正する。
夕食時、食卓には佳子が作った肉じゃがと、丁寧に焼かれた魚が並ぶ。
「やっぱり、家で食べるご飯が一番落ち着くね」
杉雄が美味しそうに箸を進める姿を見て、佳子は自分の役割に静かな充足感を感じていた。
「明日、小岩のスーパーまで買い出しに行かない? 重いものは杉雄さんに持ってほしいし」
「了解。ルートを最適化しておくよ」
効率だけでは測れない、二人で積み上げていく日常。
それは、複雑なコードを一行ずつ書き足していくような、根気のいる、けれど愛おしい作業だった。




