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続・社内恋愛だけは金輪際すまい

「好き」と自覚してからの毎日は、モノクロの画面に急に色が着いたようだった。

あんなに「ウザい」と思われていると分かっていたはずなのに、今の私には、彼のぶっきらぼうな物言いさえ、照れ隠しのスパイスにしか聞こえない。


「角田さん、コーヒー淹れました。ブラックで良かったですよね?」

午後のデスクワークが一段落した頃、私はあえて角田さんの斜め後ろから声をかけた。

角田さんは一瞬、キーボードを叩く手を止めて振り返った。眼鏡の奥の瞳が、不審なものを見るように細められる。

「……ああ、どうも。珍しいね、木内さんが自分から動くなんて」

「いえ、いつもお世話になってますから。感謝の印です」

にっこりと、練習した通りの「営業用ではない」笑顔を向ける。

角田さんは少し気まずそうに鼻の頭を掻くと、「サンキュ」と短く言ってカップを受け取った。その指先がわずかに触れただけで、私の心臓はうるさいほど跳ねる。


隣のデスクでそれを見ていた大迫さんが、ニヤニヤしながら身を乗り出してきた。

「おっ、角田だけか? 俺の分は?」

「あ、大迫さんの分も、もちろんありますよ! 今持ってきますね」

私は弾むような足取りで給湯室へ向かった。背後で大迫さんの「角田、お前なんかしたか? 木内、妙に上機嫌じゃないか」という声が聞こえ、それに対する角田さんの「さあ……昇給の話でも漏れたんですかね」という的外れな返答に、思わず吹き出しそうになる。

(鈍感なところも、今は愛おしいわ)


それからの私は、自分でも驚くほど大胆になった。

仕事の相談という名目で角田さんのデスクに長居し、彼が好むというスポーツブランドのロゴを見つけては「それ、格好いいですね」と、以前の私なら絶対に口にしなかったような直球の褒め言葉を投げた。


しかし、角田さんは一筋縄ではいかなかった。

ある日の帰り際、勇気を出して「角田さん、この後もしお時間あれば……」と誘いかけようとした時のことだ。

角田さんは鞄を肩にかけると、相変わらずの「牽制球」を投げてきた。

「ごめん、今日はこれから実家の犬の散歩代行があるんだ。あ、あと昨日も風呂入ってねえから、近づかないほうが身のためだぞ」

ひらひらと手を振って、彼は足早にオフィスを出ていく。

残された私は、呆然と立ち尽くした。犬の散歩? お風呂?

普通の女子なら「脈なし」と判断して引き下がる場面だろう。けれど、今の私は違う。

「……ふふ、面白いじゃない」

不潔アピールをしてまで私を遠ざけようとするその態度。それは裏を返せば、私を「意識せざるを得ない存在」として認識し始めている証拠ではないだろうか。


一度火がついた私の恋心は、梅雨明けの太陽よりも激しく、夢洲商事のフロアを焦がし始めていた。

「社内恋愛はしない」なんて、どの口が言ったのかしら。

駅に向かう道すがら、私はあのカフェのマスターのことなんてすっかり忘れ、どうすればあの「鉄壁の三枚目」を崩せるか、その作戦会議で頭をいっぱいにしていた。




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