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蒼黒の竜騎士  作者: 海野 朔


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25.竜騎士団到着!



 ――――穴があったら、入りたい。そしてそのまま埋まりたい。


 かなり真剣に、どこか近くに大きな穴が無いかと考えている、リルファローゼ・リオ・ヴァリエーレ、14歳です。

 東の辺境領からエルトおじ様と共に旅立ち、なんとか無事に王都にある竜騎士団本部へと降り立ったのは良いものの、現在、全身泥と竜の涎まみれ。

 何でこんな事になったかっていうとね……―――連日長時間の飛行で膝というか、身体全体が固まってガックガクの時に、璃皇にちょいとつつかれたからさ。吹っ飛んだよ!


 やっと目的地に着いて、懐かしくも愛しい地面の感触に安心して、完全に油断していた。

 普段から馬に乗り慣れていたらまだマシだったのかもしれないけどさ……馬なんか乗った事無いもの。『何故おやつ(・・・)に乗る!』って怒る誰かさんの所為で。

 お陰で、この様ですよ。ええ。


 まぁ、璃皇もわざとじゃないからね。しょうがない。

 でも泥を舐めとろうとして、これ以上涎だらけにするのはやめてくれ。何か、段々味見でもされてる気分になってくるし。


 ただ………そこの窓からこっち指さして大笑いしている奴ら。後で絶対泣かす!

 特に、一番笑ってるオレンジ頭……覚えてろよ。

 全員まだ10代そこそこの少年達って事は、見習い竜騎士だろうか。

 睨みつけるが、笑い声は収まる様子も無い。こういう時、草食系の顔立ちは迫力が出ないので、ちょっと嫌。




「―――……大丈夫か?怪我はしていないか?」


 私たちを発着場まで出迎えに来てくれていただろう男性が、声をかけてきた。マジ気まずい。


「……あー、はい。怪我も無いです」


 水溜まりに突っ込んだだけだったのだが、念のため身体を動かして確認してみる。特に痛みも無いので、大丈夫そうだ。暫く心は立ち直れそうに無い程ボロボロだけど。


「そうか。……良くある事だ。気にするな」


 イケメンなお兄さんに優しくフォローされて、超恥ずかしい。

 心機一転、最初の印象が大事だと、お上品なお嬢様の振る舞いを心がけてたのに、一瞬で台無しだよ。心もぽっきり折れました。

 っていうかお兄さん、よく見たらマジでイケメンなんですけど……!

 こっちの視線に気付いたお兄さんが、名乗ってくれた。


「スフェルオーブ国竜騎士団副団長、ヴィントーリクス・スフィ・ジェネラートルだ」


 なんと、例の副団長様だったか。

 前髪だけ少し長めの蜜の様に濃い金髪に、切れ長の眼を飾る色は、海の様に澄んだ青で、凄く綺麗。金髪碧眼というやつか。

 まるで、物語に出てくる王子様みたいだ。

 否、服の上からでも解るしっかりと鍛え上げた身体と、なよなよしさの欠片も無い男らしい顔立ちは、王子様っていうよりは騎士様だな。うん、そのまんまですね。騎士は騎士でも、竜騎士だけど。

 とにかく、正統派の良い男だ。


「リルファローゼ・リオ・ヴァリエーレです。宜しくお願いします」


 泥だらけな姿での簡易な挨拶だけど、副団長は鷹揚に頷いてくれた。

 副団長、懐深くてマジ良い人。残念な人だと思っててごめんなさい。


 「リルファ、とりあえずコレで身体拭きなさい」と、荷物から引っ張り出してきたタオルでゴシゴシしてくるエルトおじ様。ちょっ、恥ずかしいからやめて。おじ様、行動がお母さんになってるからっ。

 一通り拭き終わると、副団長の後ろに控えてた黒髪の人が、「もう良いか?」と声をかけてきた。お待たせしてすみません……。


「―――んじゃ、早速で悪いがコレとコレと……コレに、署名してくれ」


 数枚の書類を差し出され「ここに署名な」と、とんとんと署名する箇所を指で示される。

 ワイルド系の……どちらかというと強面の男性に署名を促されるっていうのは、なんだかドキドキするな。ヤバイ書類だったらどうしよう……的な。

 まぁ、竜騎士でお貴族様なんだし、そんな事には絶対ならないので、言われた通りに署名した。


「………良し。じゃ、今この瞬間からリルファローゼ・リオ・ヴァリエーレ嬢は竜騎士団の一員になりましたよっと。あ、俺、フェオンラガン・ラファ・ティフォドーン。最近は見習い共の教官やってっから、宜しくな」


 にっと笑うフェオンラガン教官。顔は恐いけど、かなり気さくなお兄さんといった感じだ。

 教官はエルトおじ様にもいくつか署名と書類を貰った後「んじゃ、書類提出してくるぜ」と、慌ただしく去っていった。嵐のような人だ。

 去り際に「行くついでに、見習いの餓鬼共見に行くか。あいつ等、課題やってなかったら………タダじゃおかねぇ」と悪鬼の表情で呟いていたので、この人にはあまり逆らわないようにしよう。マジ恐い。



「まずは竜騎士団の中を軽く案内しようと思っていたのだが………先に風呂だな」

「………はい。お世話になります」


 流石に今の姿でその辺うろつく気は無かったので、有り難い申し出に頭を下げた。




 竜騎士団の見習い専用の寮は中央館と呼ばれる、食堂や談話室などの多目的スペースを主とした建物を中心に、男子寮・女子寮と向かい合うかの様な形で建っていた。

 女性竜騎士見習いの部屋は上の階にあり、女子寮の下の方の階の部屋には、竜騎士団の中で働く平民の女性達(主に年配の女性)の寮にもなってる。おいそれとは男が侵入出来ない、鉄壁のガードだ。

 物置と化している部屋もいくつかあるらしく、上の階に行くにつれて、辺りは段々静かになっていった。



「――――ここが今日から、リルファローゼ嬢の部屋になる」


 そう副団長に言われ、促されるまま自室となる扉を開けて――――部屋に入る事無く、そのまままた扉を閉めた。


「………どうした?」

「いや、あの………え、本当にこの部屋ですか?」

「そうだが、何か問題があるのか?」

「問題っていうか………」


 もう一度、恐る恐る扉を開ければ、一面に広がる乙女空間。

 うん……何ていうか、一面ピンクの壁紙にレースのカーテン、白地に金の金具が着いた華奢な家具が備え付けられている、どこぞのお姫様が住んでいるかの様な部屋だったんすよ。

 軍事施設の様な素っ気無い建物の中に、この乙女趣味全開の内装は引く。っていうか、引いた。

 もっとシンプルな無地の壁紙に使い古されたベッドだけの、簡素な狭い部屋を思い浮かべていたら、予想以上の広さと豪華さだった。

 部屋をちらりと見ただけで、充実した魔道具(所謂、冷蔵庫やコンロ)が完備されたミニキッチンに、照明も魔道具式のモノが備え付けられていて、至れり尽くせり。魔道具って、実家にも沢山あったけどさ……滅茶苦茶高いよねぇ?

 訊けば、魔道具に関しては同じ竜騎士見習いの男子寮の部屋も、全く同じモノが備え付けられているらしい。

 男子寮の部屋は家具や内装はもっと簡素みたいだけど、値段的に一番差がつき易く、あるのと無いのでは生活水準も違ってくる魔道具の部分は一応平等みたいなので、ちょっと一安心。不平等は、争いの元。

 奥に続く寝室を見れば、天蓋付きのベッドの上に、ちょこんと編みぐるみのウサギさんが鎮座しているという、更なる乙女空間が広がっていた。この手作り感漂う編みぐるみ……置いたの誰だよ。

 寝室の奥にある浴室の扉を開ければ、金の猫脚の、真っ白なバスタブ。………ですよねー。

 勿論、浴室も魔道具式なので、蛇口をひねるだけですぐにちょうど良い温度のお湯が出てくるはずだ。ありがたや。

 2DKバス・トイレ別のウォークインクローゼット付きで更に家具家電(魔道具)まで備え付けられてるって、恵まれ過ぎな気がする。あ、でもお貴族様ならこの位、当然なのかな?


「――――……操作は解るか?」


 寝室には入らず、扉の辺りで副団長が声をかけてくる。紳士だ。紳士がいる。


「あ、はい。大丈夫です」

「中央館の食堂にいるから、入浴が終わったら来てくれ」

「はい」


 颯爽と部屋を出て行く副団長に、若干顔色を悪くしたエルトおじ様がそれに続く。


「―――改装は良いけれど、どんだけお金かけてるんですかっ!知りませんよ。龍術師団はこの件には一切関与してませんから、後で殿下に怒られるのは竜騎士だけにしてくださいよっ!」

「……一応、予算は通ったんだが」

「どうせまた無理矢理通したんでしょうっ。調整する者の身になれってんですよ」

「噂では、龍術師の女子寮だって、ここと似たようなものらしいじゃないか」

「こっちは何十年もかけて予算を遣り繰りして、少しずつ改装したり家具を買い足していったんです。お前等と一緒にすんじゃねぇよ!」


 部屋の外からの会話というか、言い争いがこっちまでダダ漏れだ。

 いくら稀少な女性竜騎士見習いだからって、この内装はやり過ぎらしい。やっぱりな。


 「絶対に、知りませんからねーっ!」と絶叫するエルトおじ様の声が、女子寮中に響き渡る。



 ………私も知らないっと。





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