表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
椚(くぬぎ)くんと橘(たちばな)さん  作者: 虹色
おまけ 『コバちゃんの恋』
77/77

気分転換って・・・。


バッティングセンター?


屋上は四方にネットが張られたバッティングセンターになっていた。

けっこう寒いのに、何人かバットを構えている人がいる。

泣いてのぼせているあたしには、冷たい風が気持ちよかったけど。


「左利きじゃないですよね?」


康太くんがそう言いながら、あたしを空いている打席に引っぱって行く。

バッターボックスに入ると、頭にヘルメットをかぶせられて、バットを渡された。

そのままネットから出て、あたしの後ろに立つと、おろおろしているあたしに声をかける。


「20球です。来ますよ。」


ヒュッ!


目の前を白いボールが通り過ぎて行った。

バットを振ることができなかった。


とりあえず、やってみようかな。


バットを握り直す。

あれ?もう投げてる!

また間に合わない。


悔しい!

よーし、次は。


今度は投げてくるのがわかった。

バットを振るけど当たらない。


なんで?

タイミングが遅いのかな?

次!


かすった!

ボールが目の前で跳ねる。

よし、行けそう。


タイミングを合わせてバットを振ると、ボールが気持ちよく当たった感触があって、ピッチングマシンの方へ飛んで行った。


「やった!」


嬉しくてガッツポーズをしながら、康太くんを見る。

康太くんも笑っている。


1球当たるとコツがわかって、次々と前に飛ばすことができた。

ホームランコースもいくつか。

ボールに集中していたら、気になっていたことが頭から消えてしまった。





「本当に初めて?あんなに打てるとは思わなかったよ。」


建物の中に戻って自販機で買ったジュースを飲みながら、康太くんが尋ねた。

あたしはすっかりゴキゲン。


「うん。でも、バレーボールではアタッカーだったし、ボールを打つのは得意かも。」


本当におもしろかった!

体を動かしてすっきりしたし。


「バッティングセンターがあんなに楽しいとは思わなかった。これからは、ストレス解消に来ようかな。」


「うん。僕もよくやってる。」


そうなんだ!


「学校の先生も大変そうだよね。」


「まあね。」


ちょっと間が空く・・・。

何を話したらいいんだろう?


「あのう、さっき、」


康太くんがためらいながら口を開く。


「さっき、2人とも春香姉さんをって言いかけたけど、あれって、椚さん以外の人も姉さんのことを好きだったってことかな?」


ああ、その話・・・。

あたし、ウソつくの得意じゃないから、訊かないでほしかったな。


「・・・うん。」


「もう一人って、あの人?佐伯さん・・・だっけ?背の高い。」


「・・・うん。あ、でも、春香さんは気付いてないよ。それに、あたしは別に春香さんに嫉妬してるわけじゃないから。」


「ああ、それはわかります。そうじゃなくて、佐伯さんと小林さんて・・・。」


「普通の友達。椚さんと同じような感じ。」


それこそ“ただの友達”だ。


「そうなんだ・・・。」


康太くんは少しの間、ぼんやりと考え込んでいたけど、ジュースを飲み終わると気軽に言った。


「プリクラを撮りませんか?」


うーん、唐突だなあ。

バッティングセンターにしても、プリクラにしても、あたしが思ってなかったことをする。


いいよと言うと、また手首をつかまれてエレベーターへ。

なんだか捕虜みたい。

そりゃあ、お友達だから、手をつなぐのは違うかもしれないけど。

でも、いやじゃないや。


プリクラは何十台も並んでいた!(何十台はちょっと大げさかもしれないけど。)

こんなの初めて見た!


康太くんが2、3列中にある1台を選んで一緒に中に入る。

カーテンを閉めると狭い部屋に2人だけでいるみたいで、ちょっと気後れしちゃう。

機械の声が説明を始めたけど、緊張してしまって頭に入らない。

しかも、昔のとは違って、なんだか手順がたくさんあるみたい・・・。


「あの、あたし、よくわからないけど・・・。」


「ああ、僕は生徒と一緒に撮ったことあるから大丈夫。」


康太くんが「じゃあ、行きますよ。」と言ってお金を入れた。


最近のプリクラはすごい。

何ショットも撮れる。

撮り直しもできる。

デコレーションも凝ってるし。


撮り終わって、絵やスタンプでデコレーションをしている康太くんの手元を感心して見ていた。

あれ?文字が・・・。




『また会えますか?』




え?

あたしに訊いてるの?


「カウントダウンです。早く!」


ペンを渡される。

えっと、・・・。


『はい』


あわてて書いて、はみ出しちゃった!

書きなおす時間はない。

失敗しちゃった・・・。


がっかりして康太くんを見たら、康太くんは笑って言った。


「今度の日曜日は部活が休みなんですけど。」


また会える。

日曜日はすぐだ。





プリントができるのを待ちながら、康太くんが話してくれた。


「結婚式のとき、春香姉さんから、小林さんは佐伯さんと仲良しだって聞いたので、てっきり恋人同士なのかと。お似合いだったし。」


そうだったのか。

まあ、誤解してる人、多いと思うけど。

だいたい、椚さんにまで訊かれたもんね。


それにしても、この話といい、この前の連絡先を教えてくれなかったことといい、なんとなく、あたしと康太くんの間に春香さんが立ち塞がってる感じがする。


「でもさっき、違うってわかったので、僕が立候補してもいいかなって。」


「はい!ぜひ!」


やだ!

こんなに慌てて言ったら、待ってたのがバレバレだ。

恥ずかしい!


困って下を向いたら、肩に手がかかって、おでこにふわっと・・・キスされた?

こんなところで?

いきなり?


頭がクラクラする。

今日はお酒を飲んでないのに。なんで?

大丈夫かな、あたし。


「あれ?大丈夫ですか?」


気付いたら、またしても康太くんに支えられていた。

こんなこと今までなかったのに!

やっぱり、いつもと違う・・・。


「小林さんは、十分かわいくて、女の子らしいですよ。披露宴で初めて見たときにそう思いました。」


「それって、外見だけのことでしょう?」


「それもあるけど、春香姉さんを見ていた小林さんの表情が、まさに夢見る女の子っていう感じで。」


そんなこと、初めて言われた!

なんか、照れちゃうな。


どうか、あたしたちがうまくいきますように!




<おしまい!>


* −−−− * −−−− * −−−− * −−−− * −−−− *



春香 & 良平




「ねえ、りょうちゃん。今日、コバちゃん、デートなんだって。」


「ふうん。相手は誰だかきいた?」


「先週の合コンの人だって。りょうちゃんは合コンって行ったことある?」


「う・・・んと、まあ、何度かは。」


「そう。わたし、行ったことないんだよね。今度、1回出てみたいなあ。」


「結婚してるのに?」


「指輪をはずしちゃえばわからないでしょう?」


「俺に不満があるわけ?」


「違うよ!ただ、面白そうだなあと思って。りょうちゃんだって行ったことあるんでしょ?」


「別におもしろくなかったよ。」


「そうか・・・。じゃあ今度、居酒屋に行こうよ。」


「なんで、そこに話が行くのかわからない。」


「合コンをやってるところを見るの。」


「見るだけでいいんだ?」


「そう。どんな雰囲気なのか見たいの。あとね、お見合いパーティっていうのも出てみたい。」


「は?」


「それも、どんなものか見てみたいの。今度、一緒に申し込んでみない?」


「何を言ってるんだか。」


「だって、始まったらすぐに、りょうちゃんとカップル成立したことにしておけば安全じゃない。あとは食べながら観察するの。」


「もしもだよ、俺でも春でもいいけど、ものすごくしつこい人に気に入られたらどうするんだよ?」


「最終的にはあたしたちがくっついちゃえばいいんだから、大丈夫じゃない?」


「去年、あんなことがあったのに、懲りないね。」


「あんなことがあったから、自信持ってるのかも。ねえ。コバちゃんの相手って、どんな人だろうね?」


「話が急に飛ぶなあ。コバちゃんは何も言ってなかった?」


「うん。なんだか言いにくそうだったから、しつこく訊かなかったの。何を笑ってるの?」


「いや、別に。」


「でもさあ、佐伯さんよりもその人を選んだんだよ。きっと、すごく素敵なひとだよね。」


「あれ?春も佐伯よりも俺を選んだんじゃないの?」


「ん?ああ、そうか!じゃあ、・・・。」


「“じゃあ”って、何?」


「いや、何でもない。きっと素敵な人だ。」


「違うだろ。“たいしたことない”って言おうとしたよね?」


「そんなことない!わたしにとっては“素敵な人”だよ。」


「あわててフォローしても無駄だよ。」


「やだ。拗ねないで。ね?」


「・・・そんな顔で言われたら、怒っていられないよ。もう。」









『椚くんと橘さん』に最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

読んでくださったみなさまが、HAPPYな気分になれたら嬉しいです。


またお会いできるといいな、と思っています。

どうぞ、毎日を楽しくお過ごしくださいね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ