15話 甘さの向こう側に恋がひとつ
深夜の和カフカ まおり。
本日のお茶のお供は、ムースゼリー和風仕立て。
「ついに告白か。 頑張れ」
「きっとうまくいきますわ」
ナディルとエレシャの応援を受けて恥ずかしさでいっぱいのティアは俯く。
「(きゃー! ティア様、ついに腹をくくったんですね!)」
唯奈はお茶を淹れる手も震えるほど興奮している。
「だって、あの後お店に騎士団長様が来て……公式サイトの通り、聖女様にゾッコンなはずの公爵様が私のパイを買い占めようとするのを彼が必死に止めてくれたの。その時にすごく真剣な顔で『あなたの店も、あなた自身も私が守る』なんて……!」
「それはもう告白されているも同然ではありませんか」
エレシャが優雅にムースゼリーをすくいながら、どこか楽しげに目を細める。
「そうなの!? そうなのよね!? だから次に会った時にちゃんと言わなきゃって……でも、いざとなると心臓が口から飛び出しそうで……うぅ、もう一個ゼリーおかわりしていい?」
「(ティア様、緊張を甘さで紛らわせようとしてる! でもその必死な姿がまた応援したくなる!)」
唯奈はムースゼリーを持っていく。
「ナディルのほうはどうなの? 聖女様はあれから元気になった?」ティアが話題を切り替えた。
「ああ。 先週、紫陽花のきんとんを持っていったら箱を開けた瞬間、彼女の瞳に色が戻ったのがわかった。『こんなに綺麗なものがこの世界にもあったんですね』と、金平糖を一つ、本当に大切そうに口に運んでいたよ」
ナディルは少しだけ遠くを見るような目をして当時の様子を思い出す。
「菓子を食べている間だけは彼女を縛り付けている『聖女』という重荷が消えているようだった。 食べ終えた後、彼女は泣き笑いのような顔で私に『もう逃げたりしません。 この国で私にできることを探してみます……それと、殿下とも向き合ってみます』と言ってくれた」
「(大成功! 結城さんのお菓子が聖女様の心のバリアを溶かしちゃったんだ!)」
唯奈は心の中でガッツポーズを決め、カウンター越しに結城へ尊敬の眼差しを送る。
「聖女様、第一王子とうまくいきそうね。 で、例の辺境伯とはどうなの?」
「(そうそう! 私もそれが一番聞きたい!)」
唯奈は令嬢たちから視線を逸らさない。
「ガウェイン殿に礼を言った後、食事に誘われて」
「(きたきたきたーーー! ナディル様の恋バナ聞けちゃう!?)」
「二人で酒を酌み交わしたのだが、気がつけば剣術や防衛論を語り合っていた。 彼ほど私の考えを理解し、背中を預けられると感じた男は初めてだ。 別れ際、彼に『君の瞳は戦場の空の色によく似ているな』と言われてどう返答すればいいのか困った」
「(……ひ、瞳!? 褒め言葉が完全に口説き文句なんですけど!? 戦場の空の下で結ばれる絆的なやつですか!?)」
唯奈は持っていたトレイをギュッと抱きしめ、悶絶するのを必死に堪える。
「あら、それは……友情という言葉だけでは片付けられそうにありませんわね」
エレシャが楽しげに扇で口元を隠す。
「そうなのか? ただ、彼から『今度街を案内しよう。 この辺境にはまだまだ美味い酒があって』と、至近距離で手を握られて次も会う約束をさせられた。 断る理由もなかったので承諾したが」
「(無意識! 完全に無意識なのが一番タチが悪い……! このまま辺境に永住しちゃったりして……うん、アリです! 大アリです!)」
「ナディル……あなた、もう少し警戒心を持ったほうがいいわよ。 その辺境伯、絶対にあなたを逃がす気がないわ……」
ティアが呆れたように、でもどこか応援するような目でナディルを見る。
ナディルは困ったようで、でも心なしか嬉しさが滲み出ているように唯奈には見えた。
「エレシャのほうは、遊宴会はどうだったんだ?」
ナディルが話題を切り替えた。
「予想通りつまらない集まりでしたわ」
一言で終わらせるエレシャ。
扇で口元を隠しているその雰囲気は、どこかいつもより少しだけ違和感がある……唯奈はそう感じた。
話が弾み、ナディルが結城に「菓子を持ち帰りたい。 明日また聖女のところへ行くから」と言ったときのことだった。
「それと……」口元を隠して恥ずかしげにさらに言う。
「辺境伯にも持っていきたいのだが」
「(ぬあ!!)」唯奈だけではない結城もティアも驚いている。
そしてさらに「……私も」
恥ずかしげに小声で言うエレシャ。
「私も持ち帰りたいわ。 いいかしら」
「も、もちろんだよ。 明日のおやつにでも食べるのかな?」
結城が聞くと、エレシャは顔を赤らしめて言う。
「……遊宴会で出会った公爵様に持っていきたいの」
「(オーマイガー!! お二人がまさかのイケオジ好きだったんて!!)」
予想もしなかった展開に唯奈の脳内ではお祝いのくす玉が割れ、興奮が隠せない。
ナディルは戦友のような絆の中に、エレシャはつまらない遊宴会の退屈を壊してくれるような出会いの中に、それぞれ新しい扉を見つけたらしい。
「わかった。 二人の大切な相手に相応しいものを急いで包むよ。 金平糖を添えよう」
結城が少しだけ茶化すような、けれど温かい眼差しを向けると二人はますます顔を赤らめて視線を泳がせた。
ティアはにこやかに微笑んでいる。
深夜の和カフェ まおり。
ひんやりと冷たいムースゼリーは、いつの間にか熱くなった彼女たちの頬を冷ますのにもちょうど良いデザートになっていた。
「(来週はお三方の恋の進展報告が聞けるのかぁ! うぅ〜〜〜楽しみっ!!)」
次の水曜日、この小さなお茶会はまた新しい物語を連れてくる。




