(18)虚数解放
ルシウスの荘厳な挨拶が終わると、宇宙アリーナ全体が拍手と歓声に包まれた。観客は熱狂し、選手たちの士気も高まる――そのはずなのに、俺の胸の奥には妙なざわつきが広がっていた。その余韻に浸る暇もなく、ゼファーが前に言っていた言葉が頭をよぎる。
「詩的な父」
今になって、その意味がしっくりくる。ルシウスの言葉は、確かに詩みたいだった。耳に残るリズム、胸を打つ熱。もしこれがただの演出なら、すげぇカリスマだなって思うだけで終わるかもしれない。でも、そうじゃない。あの言葉には、本物の重みがある。ただ人を惹きつけるだけじゃなく、その裏にとんでもない意図と力を秘めている。まるで、それを堂々と示しているみたいに。
けど――その言葉の裏には、もっと違うものがある気がしてならなかった。
「ルナリウム解放計画」
この言葉が頭をよぎるたび、背筋が冷たくなる。
ゼファーは「次世代ルナドライブの開発計画だろう」と言っていた。そのときは、俺もそう思い込もうとしてた。でも、ルミナスフローラの中から見つかったルナのお母さんの記録が、それを覆した。
「虚数次元」
「あの人を止めてください」
エリックさんの説明によれば、虚数次元をコントロールできれば 「無限のエネルギーを手に入れることに等しい」 らしい。
無限――。
そんなの、俺みたいな高校生にはピンとこない。最近、物理の授業でエネルギー保存の法則を習ったばかりなのに、それが全く意味をなさなくなるような話だ。ゲームやアニメなら「すげぇ!」って思えるけど、現実として考えると、恐ろしすぎる。けど、この宇宙アリーナの光景や、ルシウスの圧倒的な存在感が、それを「ただの夢物語じゃない」と否応なしに突きつけてくる。
胸がずしりと重くなる。もし、この世界大会そのものが「ルナリウム解放計画」の一部だったとしたら――。
このアリーナは、単なる技術と信念の戦いの場じゃない。ムーンギア同士の激突の裏で、俺たちには見えない、もっと巨大な何かが動いている。
「虚数次元」
その言葉が頭の中で何度も反響する。「未来の扉を開く」――そういう希望に満ちた響きのはずなのに、どうしても破壊や犠牲の影がつきまとう。
無意識に拳を握りしめた。ここは俺たちの夢の舞台だ。でも、その舞台の下に広がる闇が、静かに、確実に迫ってきている気がする。それが何なのか、どうすればいいのか、まだわからない。
だけど――。
「俺たちの戦いを、未来を奪わせるわけにはいかない。」
そう心の中で呟き、俺は前を向いた。どれだけ巨大な力に包まれていようと、ここは俺たちのフィールドだ。俺たち自身の力で、この未来を証明してみせる。それが、今この瞬間に固めるべき覚悟だった。
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